Messiah

嘉禄(かろく)

Memory of last moments

俺が輝未の組織壊滅任務終わりで負傷して寝ていた時、幸樹が俺にこう言ってきた。


「ねね、傷が良くなったら2人で休暇合わせようよ」


それを覚えていた俺は、それから少し経って裸の幸樹を抱きしめながら問いかけた。


「なぁ、幸樹、お前今度いつ休み?」


それを聞いた幸樹がぼんやりしながら答える。


「休み...?」
「うん。ほら、休み合わせてどこか行こうって話したじゃん」
「...覚えててくれたんだ...」
「当たり前だろ?で、休みは?」
「...確か...次の休みは土曜日だったかな…」
「わかった、じゃあ俺も休み入れる。疲れたろ、寝ていいよ」
「...うん...」


幸樹が頷いて俺にくっついて目を閉じる。
俺の体温が落ち着くんだろう。
それは俺も同じだから、抱きしめて俺も目を閉じた。

それから任務続きの日々を負傷なしに乗り越え、待ちに待った俺たちの休暇がやってきた。
正直この日をめっちゃ楽しみにしていた俺は、朝起きてすぐに幸樹に話を振った。


「なぁ、どこ行きたい?」


すると、幸樹は少し考え込んでから困ったような表情でこう返してきた。


「どこ行きたいって言われても...」


…なんだ、行きたいとこないのか…?
幸樹が行きたい場所あるのかと思って俺なんにも考えてないけど…もしかしてあれか、最近ばたばたしてたから考える暇なかったとか?

仕方ない、俺が考えるか。
そう思って考えた結果、行きたいところを思いついた俺は早速幸樹に提案した。


「あ、じゃあ遊園地行こうぜ!」
「ゆ、遊園地?」
「そ!この絶叫系制覇したくてさー」


PCの画面にその遊園地のサイトを出してみせた。
前々から行きたいなーってチェックしといて正解だった。

幸樹の反応を窺うと、あまりいい表情をしていなかった。
もしかして外れか…?
いや、なんかあったらどうしようとか怖がってる?

そんな幸樹を俺はなんとか励まそうとしてこう言った。


「大丈夫だって、怖い思いはさせないよ、俺が幸樹のことちゃんと守るから」


すると幸樹は顔を上げてやっと笑った。


「...うん、わかった、行こう!」
「よし、決まりな!」


手を繋いでチャーチを出て、いつも通り俺が車道側を歩く。
すると幸樹が心なしか嬉しそうに微笑んでいたので俺も内心嬉しくなりながら問いかけてみた。


「どうしたの、今日機嫌いいじゃん?」
「え、そうかな?」


そう言いつつ幸樹が自分の頬に手を当てる。
いちいち仕草可愛いんだからこいつはほんとに…まあ言わないけど。


「うん、顔ゆるゆる。俺といるのが楽しいですーって顔に書いてある」
「そ、そんなに!?」


今度は慌てた様子で顔を隠そうとする。
多分表情を元に戻したいんだろう。

それをしていたせいか、幸樹は正面から歩いてくる人に気づかなかったようでぶつかる前に俺が幸樹を抱き寄せてぶつかるのを防いだ。

何が起こったのか分からない、という様子の幸樹が目をぱちくりさせながら俺を見上げる。


「ったく、お前、前見ろって。もうちょいでぶつかるとこ」
「あ...ごめん...」


抱き寄せたから恥ずかしさなのかそれとも照れているのか、幸樹の顔が今度は赤くなる。
ほんとわかりやすいやつ、そこが可愛いんだけど。


「お前危なっかしいなー、腕組む?」
「えっ、腕!?」
「え、何、嫌なの?」
「嫌じゃない!」


冗談半分で腕を組むことを提案してみたら、本気で受けた様子の幸樹が繋いでいた手を離して腕を組む。
…というより、この力の込め方はしがみついてるという方が正しい。


「そんなにしなくてもどこにも行かないって」
「...分かってるよ...いいじゃん...」
「いいけどさー?」


そんな会話をしながら遊園地に着いて、チケットを買って中に入る。


「やージェットコースター多いなー、あれから乗ろう」


目の前に面白そうなジェットコースターを見つけて俺は一直線に歩いていく。
幸樹はそのジェットコースターを見上げながら俺に必死についてくる。


「さ、最初からジェットコースター乗るの?」
「当たり前だろ、制覇しに来たんだから!」
「それはそうだけど...」
「...ははぁん?さては怖いのか?」


ニヤニヤしながら幸樹を見下ろすと、むっとした幸樹がさっきとは別の意味で顔を赤くしながら言い返す。


「こ、怖くないよ!」
「じゃあいいよな、行くぞー」


幸樹の手を取ってジェットコースターの列に並ぶ。
少し待ったが、その分損はしないくらい楽しかった。
俺はひたすらに手を上げて楽しみながら叫んで、幸樹はずっと悲鳴レベルで叫んでいた。

終わってコースターから降りて、足元のふわふわ感を感じながら出口に向かう。


「いやー、楽しいわー!」
「...よ、良かったね…」


幸樹は既にバテているように見える。
ははーん、その反応を見るとやっぱりジェットコースター苦手だな幸樹。
まあ今日は元々目的話してあるしどんどんいくつもりだけど。

次は何がいいかな、と辺りを見回すとこれまた面白そうなものが目に入った。
それを指さして幸樹に提案する。


「なぁ、次あれ行こう!」


それは垂直落下レベルのコースターで、それを見た幸樹はより表情を強ばらせた。


「...あれ乗るの...?」
「楽しそうじゃん!」
「そ、そうだけど…」
「そうと決まれば、早く並ぼう!」


俺は再び幸樹の手を引いて向かう。
最早幸樹は諦めたのか抵抗しなかった。

それから俺は幸樹を連れ回してついに絶叫系を全制覇した。
俺はめっっっちゃ楽しかったからピンピンしてたけど、幸樹は正反対にヘロヘロだった。
でも俺はまだ乗り足りなくて、気に入ったコースターを指さしてこう言った。


「なあ幸樹!あれ乗ろう!」


俺の示す先には例の垂直落下のコースター。
幸樹は本当に呆れた表情をしていたがこの時の俺はそんな事気にしなかった。


「...えぇ、また?何回目だと思って...」
「いーじゃん!ほら早く!」


幸樹の手を取って再び向かう。
その後俺は3回それに幸樹を付き合わせた。

結構満足したので、そろそろ休憩しようかと思っていたら幸樹が突然咳き込んだ。


「...けほっ...うっ...」
「…幸樹、大丈夫か?」


俺が背中をさすってやると、幸樹が口を覆っていた手を離す。
その手には血がついていた。
…これはまずい。


「幸樹、それ...血が...!」


流石の俺も慌てる、これは無理をさせすぎた。
そんな俺を安心させるためか、幸樹はこう言った。


「だ、だいじょぶ...けほっ...ちょっと...使いすぎただけだし...」
「けど...!」


今更ながら俺がやりすぎた事に気づくなんて、俺ダメすぎて笑えてくる。
いや笑えないけど。

「ちょっと...休憩しない...?疲れた...」
「…そうだね、とりあえず俺水買ってくる。ここ座って待ってて」


近くにあったフードコートの空いている椅子に幸樹を座らせて、俺は外の自販機に水を買いに出て足早に戻った。


すると、幸樹がいるはずの場所を知らない3人の見るからにガラの悪そうな男が囲んでいた。
1人のやつが幸樹の手を引っ張ってどこかに連れていこうとする、それを見た俺は何かがどこかでぷつんと切れる音を聞いた。

そこからは何があったかあまり覚えていない、気づくと3人の男は俺の周りで倒れていた。
多分俺が気絶させたんだろう。
幸樹が怯えた顔で俺を見る。


「...結月...!」
「ごめんな、遅くなった。大丈夫?」
「こ、わか...」


俺は幸樹と目線を合わせるためにしゃがんだ。
すると過呼吸を引き起こしたのか、幸樹が浅い呼吸を繰り返す。
焦点が定まらないのか、ぼんやりしながら助けを求めるように俺を見た。
俺は幸樹を抱き寄せて優しく背中をさすってやった。


「落ち着いて、大丈夫。ゆっくり呼吸しようなんて思わなくていいから。1人にしてごめん、もう置いてかないから」


幸樹の様子がおかしいことに気づいたのか、近くにいたスタッフが数人心配そうに声をかけてきたので大丈夫だと返して人払いする。
こういう時は、俺以外近寄らせない方がいいことを知っているから。

幸樹が俺の手を握る、俺も優しく握り返した。


「...結月...結月...」
「大丈夫、大丈夫。落ち着くまでこうしてるから」


幸樹が俺の名前を呼ぶ。
不謹慎かもしれないけど、俺は幸樹に名前を呼ばれて安心した。
幸樹を落ち着けられるのは俺だけだから。
幸樹が俺を求めてるって伝わるから。

少しして落ち着いたのか、幸樹が俺から離れる。


「...大丈夫?」
「大丈夫...ごめん...結月...」
「気にすんなって。とりあえずうがいしよう、気持ち悪いだろ」
「ん...」


幸樹を支えてトイレに向かう。
口をすすいでいる間、俺は外で周囲を警戒していた。
幸樹がすすぎ終えたのか出てきたので俺はほっとした。


「ごめんね、待たせた?というか、1本使い切っちゃった...」
「ん、大して待ってない。使い切っていいよ、そのために買ったんだし。というか、ごめんな、無理させて...」
「大丈夫だよ!でも、絶叫系はやめない...?」
「うん、俺も思ってた。絶叫系はやめよう。絶叫系じゃないやつならいいよな?」
「うん!もちろん!違うのにしよ!ね、じゃあ今度僕に付き合ってよ!」
「いいよ、わかった。でも、その前にちょっと休憩しよう、流石に絶叫系乗りすぎて腹減った」


フードコートに戻って座り、俺はカルボナーラで幸樹はオムライスを頼んで食べた。
食べ終えて少し休んで、今度は俺が連れ回される番。
俺が思いっきり連れ回した分、幸樹が満足するまで付き合った。

やがて夜になり、幸樹が最後に観覧車に乗りたいと言ったから頷いて付き合った。
高度が上がると綺麗な夜景が眼下に広がる。


「見て結月!街があんなに小さく見えるよ!」


興奮した様子で幸樹がガラスに張り付いて光を見下ろしている。
そのせいか幸樹の瞳にも光が映ってキラキラ輝いていた。
それを見て微笑み半分苦笑半分で俺はこう返した。


「お前いつも衛星写真見てるだろ」
「衛星写真と自分で見るのとは違うの!...綺麗だなー...」


こう見るとまだまだ幼いな、と思ってしまう。
きっとそれを言ったら、俺には言われたくないとか言うんだろうけどな。
そのまま微笑んで幸樹を見つめていると、幸樹は少しずつ何かを思いつめているような顔になった。
だから俺は声をかけた。


「おーい幸樹、何そんなに辛気臭い顔してんの?」
「え...?」
「何変に考えてんの?どうせ僕には何が出来るんだろうとか考えてんでしょ」
「...結月にはかなわないや」


幸樹が俺を見て苦笑する。
正直最早今は幸樹の考えていることなんか手に取るように分かる。
まあ出会った時から思ってること全部顔に出て丸わかりだったことは内緒だ。


「ほら、こっち座ってよ、わざと離れてんの?」
「ち、違うよ!」


幸樹が俺の隣に移動してきたので、幸樹の肩に手を回して寄りかからせる。
黙って夜景を見ていると、幸樹がぽつりと呟いた。


「...結月変わったよね」
「…何が?」
「だって、前ならこんなことしてくれなかった」


…またその話か、俺がこうすることが未だにそんなに珍しく感じるのか…?
俺は溜息をつきつつ返した。

「それまだ言うの?前は死に場所探してここに来たようなもんだったんだからさ。でも幸樹は離れないし、雛森雪と有賀涼には説教されるし...」


一度考え出すとその手の不満は次から次へと出てくるので俺はぶつぶつ愚痴を言っていた。
その途中で幸樹の頭に顎を乗せると、幸樹は抱きついてきた。
抱き締め返しながらも問いかけてみる。


「なになに、どしたの?」
「...あのね、僕遊園地にいい思い出がないんだ...」


突然幸樹がそう言ったので、もしかしたら本当は来たくなかったとかそういう話かと思いつつ続きを促した。

「...なんで?」
「…組織に売られた後も、ほんの少しの間だけ子ども扱いしてくれたんだ。...今考えてみれば、ただ利用するためだけに優しくしてたんだって...。
僕はね、遊園地って聞くと、確かにここを想像したんだ。...だけど、それは大人にとっての遊園地で、僕はただのアトラクションだった。...声が出なければ泣きわめくこともない。声は出ずともいくらでも開発のしがいはあるって。そう言われてずっと...」
「もういいよ、聞きたくない」


そこまで聞いたところで、俺は遮った。
そんな辛気臭い話で今日を終わらせたくない。
今日1日楽しかった、だから楽しいままで終わらせたかった。


「...結月...」
「今日俺といて楽しくなかった?」


幸樹がまだ何か言おうとしたのかもしれない、でも俺は遮ってまた問いかけた。
すると幸樹は首を左右に振った。


「そんなことない!楽しかった!結月と一緒にいれて楽しかった!」
「じゃあもう怖くないよ、俺が一緒なんだからさ。だからそんな事言うなよ」
「...うん...!」


笑顔で頷いた幸樹の目から涙がこぼれる。
俺は苦笑して涙を拭ってやった。


「えー、また泣くの?」
「違うもん...嬉しいんだもん...」
「...そういうことにしとくよ。」


やがて頂上に差し掛かった頃、俺は幸樹を膝の上に座らせて向かい合った。
幸樹がきょとんとこっちを見る。


「...結月...?」
「幸樹、俺幸樹のこと好きだよ、大好きだ。俺とずっといてくれるよね?」


泣いたせいで真っ赤になった幸樹の目の辺りを優しく撫でると、幸樹は俺の手に擦り寄りながら笑って答えた。


「...もちろん!」


その返事を聞けたのが嬉しくて、俺は幸樹に優しく口付けた。
ちょっとの間そうしていて、幸樹が名残惜しそうに離れてから抱きつく。
降りるギリギリまでそうしていて、降りてからまた手を繋いでチャーチへの道を戻っていく。

途中で幸樹に見られている気がして隣を見ると、幸樹は目を逸らした。


「...なぁに、見とれてた?」
「ち、違...わなくない...見とれてた...かっこいいなって...」
「ふふ、幸樹に見とれてもらえるなら嬉しいよ」


幸樹もなかなか素直になった、それはいい変化だと思える。
楽しかった今日1日を心に刻みつけながらチャーチに着いた。


その後、俺と幸樹は揃って銀雪斗にこっぴどく怒られて幸樹が1週間声を出す事を禁止されたのは余談である。

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