Messiah

嘉禄(かろく)

Artficial life -Itsuki-

初めて目に入ったのは、真っ白な天井。
目だけを動かしていると、前から聞こえていた声が耳に届いた。

「目が覚めましたか、被験体零。」

そっちに顔を向けようとしても、やり方を知らなくて上を向き続けた。
すると、顔を軽く掴まれ初めて角度を変えられた。
黒い髪の人間が目に入った。
この人間が、ずっと語りかけていたのか。
視線を合わせると顔から手が離れ、その人が口を開いた。

「一応初めまして、でしょうか。
一嶋晴海といいます、どうぞよろしく。」

…この人は何を言っているんだろう。
言葉を初めて聞いたから、何を言っているのか理解が出来ない。

「まあ、何かを話しても君にはまだ理解出来ないでしょう。まずは普通の人間としての能力を身につけなければなりませんね。」

そう言われると、その日から体の動かし方・声の出し方・文字の書き方を教えられた。
3日ほどでそれをマスターすると、名をつけられ僕の生い立ちと生み出された理由を教えられた。

「君に名をあげましょう、何がいいでしょうか…そうだ、加々美いつきにしましょう。これから君は加々美いつきとして生きてください。
君はかつてチャーチに所属しながら裏切り、その末に亡くなった悲劇の青年・間宮星廉のクローンです。
君には、間宮君と組んでいた有賀涼と組んでもらいます。その為には、これから様々な訓練を受けてもらわなければなりません。
かなり厳しいものになりますが、耐えてくださいね。」

それから僕は本当に様々な訓練を受けさせられた。
身体強化のために薬品を投与され、それがやっと終わったと思ったら今度はワンダリングと呼ばれる映像訓練…。
最後にはシミュレーションでの戦闘訓練。
けれど僕は戦闘向きではなく、一嶋さんが望んだ結果は出なかったようで影で『欠陥品』と言っているのも聞いた。
そんなある日、僕は問いかけた。

「どうしてこんなことをさせられなきゃいけないんですか?僕は貴方の人形じゃないんです。
生まれたいと願った訳でもないんです。
望まない命を無理矢理与えられて、いらない戦力をつけるために無理矢理訓練を受けさせられて…僕は、こんなこと一度も望んでいない!」

けれど、その問いかけに一嶋さんは何も答えなかった。そのまま実験を続けるかと思われたが途中で諦めたのか、並の戦力を身につけて僕はチャーチに入れられ有賀涼の隣に立った。
それで、間宮星廉がどう悩みどんな想いをしてこの人を捨てたのかが分かった。僕が何をすべきなのかも…。

涼と出会って、僕は初めて望みを持った。
この人を支えて、隣を歩いていきたい。
間宮のことは忘れて欲しい訳じゃない、忘れるべきでもない。間宮の苦しみは僕が一番分かってるから。
でも、もう十分この人は苦しんだ。
だから解放させてあげよう、間宮の鎖から。
きっと、間宮も涼を縛りたい訳じゃないから。
この人が前を向いて歩けるように。
後ろを振り向かないで、苦しまないで済むように。
僕はその為に生まれたんだとやっと分かった。
生まれたいと願って生まれた訳じゃなかったけど、それでも今は生まれて良かったと思えるようになった。
この命尽きる時まで、僕は有賀涼と共に背中を合わせて戦っていこう。

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