アリスゾンビ

ノベルバユーザー250968

5戦 革命軍

 辺りそこらで発砲音が鳴り響く。
 人の断末魔もだ。
「お前ら! バギダの民を撃つなよ! 撃っていいのは軍服着た野郎共だ!」
『はい!』
 ホントに分かってんのかね?
 チッ、っても前線が一向に進まないんじゃ区民を誤射するわけないわな。
『そっちの様子はどうだ?』
 突然無線機からルイスの声がした。
 どうだって言われてもねぇ。
「クソッタレだよ。トマホークの所まで行けんのかね」
『そうか、単騎で行けないのか?』
「いくら死ねるとはいっても、生き返ってる時に殺られたら同じことの繰り返しだろ」
『ふむ、確かに』
「取り敢えずあたしはコイツらのやる気を出させる、お前は裏道なりなんなり探しといてくれよ」
『了解』
 っし、いっちょやるか!
 建物の影から身を出し前方にいる敵を5、6人殺る。
「いいかお前ら! 銃なんてな、先に狙いつけて先に撃てば死なねぇんだ! やる気だせぇ!」
『は、はいぃ!』
 よし、こんくらいかな。
「あたしはここを任されてる奴の所に行く、お前ら援護出来るな?」
 今度は返事がなかった。
 しかし、その目はやり遂げようとしている目だった。
 なんだ、こんな目も出来るのか……なら安心だ!
 もう一度建物の影から身を出し、今度は前方へ向け走る。後ろの連中の援護も出来ていて、アイツらに必要なのは勇気だったらしいな。
 そんなもん必要ないが。
 後ろの連中が殺りきれてない敵はあたしが適当に捌き、気付けば区の中心部まで来ていた。
 あいつら、残してきたが、大丈夫か?
『心配なんてしてる場合じゃないだろアリス』
 また突然ルイスからの無線が来た。
「うるせぇな、あたしにだって慈悲とかな、優しさとかあんだよ」
『それは分かってるさ、しかし今は目前の敵に集中した方がいい』
「……なるほどな、つまり、トマホークまでは近いってことだな」
 ここからどのくらいだ……?
 しかも、中心部ということもあって道が別れている。ココに勤務したことがないから何もわかんねぇ。
『ああ、トマホークは時計塔の中だ』
「……時計塔? …………ああ、これか」
 なんかデカい建物があるなとしか思ってなかったが、これ時計塔か。
 全然気づかなかった。
「なんだってトマホークはここに居るんだ?」
『そこは区の中で一番背が高くてな、戦況が分かりやすい位置なんだ。そこからお前の動向を確認してたんだろ』
 なるほどねぇ。
 もう一度時計塔を見上げてみると、トマホークが見えた。
 へっ、見下ろしやがって……そんなに自信があるのかよ。
「じゃ、取り敢えず行ってくるわ。首持ってきてやろうか」
『うちの連中には刺激が強過ぎるな、やめとけ』
 了解。


 梯子長過ぎだろ!
 着く気配が全くしないぞ、これ。
「お疲れのようですね、軍曹」
「あ?」
 上を見るとトマホークがまた見下ろしてやがった。
「偉くなったもんだな、見下ろしやがって!」
「偉くなんてないですよ。今の軍で階級なんてお飾りです」
 そりゃ前からだろ。
 ったく、話しながら昇ってたらもう着くわ。
「手ぇ、貸しましょうか?」
「あんがとな、でもいらねぇ」
 よいしょっと。
「よぉ、トマホーク。あたしの事、総統辺りに話したか?」
「僕にそんな権限ないですよ。誰にも言ってません」
「そうかそうか、ここで終わらせるからか?」
「その通りです」
 そう言ってトマホークはナイフを取り出した。
「CQCで、あたしに勝てると思ってんのかお前」
「CQCは僕の得意分野ですよ」
 そういや、そうだった。
 あの時の訓練で対人格闘を教えた時、休憩挟まないで同期の連中をなぎ倒してた。
 でもな、こっちは戦場に出てんだよ。
「来いよ、新兵」
 その言葉が終わるとともにトマホークはコチラにナイフを向け、一直線に走ってきた。
 そんな直線で来たら、カウンター決まるぞ。
「ほい」
「グハッ!」
 取り敢えず横によけ、腹に膝を入れる。
「そんな単純な事しか出来なかったか? お前。そんなんはCQCとは言えないな」
「あ、あなたは分かってない……!」
「ん? っ……!」
 意識を離していたからなのかは分からないが、今ようやく気づいた。
 あたしの太ももにナイフが突き立てられていた。
「僕はねぇ! 半年前にあなたが軍を離れ、革命軍を従えるようになってからァ! ずっと暗殺の訓練をさせられたんだァ!」
 暗殺……、あたしの仲間になってこっそりと殺すためか?
「こんな事ォ! したくなかったァ! 出来れば僕はァ! あなたとともにたたかいたかったんだ!」
 もはや言葉は形を成さなくなってきた。
 トマホークは泣きじゃくり、4、5歳の子供が話しているように感じた。
「大丈夫ですよ、軍曹」
「……?」
 な、なんの事だ……?
 なんの事かわからないあたしをよそに、トマホークは言葉を続けた。
「軍曹に、僕の首は取らせません……。あなたの手を僕の血なんかで汚させません」
「おいトマホーク、何を言ってるんだお前」
 太ももに刺さっているナイフを抜き立ち上がる。
「僕もあなたと一緒にいれば、革命軍になれたのでしょうか……」
 そう言ってトマホークは自分の首にナイフを当てる。
「なっ……!」
 止めさせようと手を伸ばす。
 何故だろうか、殺すとなると躊躇いはなくなる。だが、目の前で自殺をされるとなると違った。
 死なれては困る、止めなくては。
 だが伸ばした手はナイフを、その手を掴むことは出来ず、トマホークは己の首を切り裂き、死んだ。
「……」
 手が伸びた場所には虚無が広がり、足元には延々と血を流すトマホークが横たわる。
「なぜ、何故こんな事になったんだろうな……」
 今、自分の無力さを痛感した気がした。
 トマホークの悩み、それを知ることが出来なかった。
『……ザッ……ザザッ、どうだアリス、終わったか?』
 場の空気を読めない通信が入った。
 あたしはトマホークの手に握られたナイフを掴み、眺めた。
 このナイフは、あたしが訓練に追いつけている褒美にやったものだ。トマホークの手に合うように一から作らしたトマホークだけのナイフ。
 それをナイフポケットに入れ、通信機に手を掛ける。
「勝ったよ。ここは、革命軍、、、のものだ」
「勝ったか──ってなに? 革命軍……? ……ハハッ、そうか、革命軍か」
 何かを考えているらしい。
 やがて、考えがまとまったのか、
「俺達は革命軍レジスタンスということか」
 などと言い出した。
 フッ、革命軍レジスタンスか。
「ああ、その通りだ。政府転覆を目論む、革命軍レジスタンスの勝利だ」
「なあ、アリス」
「なんだ?」
「この無線を区のスピーカーに繋ぐ、そして、勝利を宣言してはくれないか?」
 ほほう、あたしに勝利宣言……ね。
「いいだろう、短くまとめるぞ」
「ああ、じゃあ────よし、繋いだぞ。いけっ!」
 あたしは精一杯息を吸い、腹に力を込めて、通信機が壊れるほどの声を出してこう言った、


「バギダは我ら革命軍レジスタンスのものだ!」
 勝利宣言……とても気持ちがいいものだな。

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