適当過ぎる勇者召喚に巻き込まれ、適当に割り当てられたスキルが《神調整》とかいう、もはやスキルとは呼べない神の力だった物語。

しみずん

10 勘違い

 マントを被り大通りを行く俺。

 店先に書かれた看板なのか、メニュー表なのかに目をやる。

「全っっっっっっく読めねえ……」

 読む事はおろか、たぶんこんな感じなんだろうなって雰囲気さえ分からない。

 英語が得意でない俺でも、いくつか分かる単語からその文の大体の内容を予測できるが、目の前のアレはもはや文字なのかさえ分からない程に特徴的で個性的だ。

 雰囲気で言うと、アレどこだっけ。ヘブライ語と……韓国のハングル文字が合体したような感じ?

 ずっと眺めていると頭が痛くなってくる気がする。それは大学などで多く扱われる数学の数式を眺めている時の感覚とよく似ていて、俺の感覚を蝕み頭痛と自信喪失を誘発する恐ろしいものだ。

 本当に何なんだろうな数式って。誰が考えたんだろう? 俺には何かしらの暗号にしか見えないのだけど、みんなはどうなんだろう? ちゃんと分かってんのかな。

 実は大学生とかも、本当はよく分かってなかったりして。

 とか言ってると俺の浅学さが露呈してしまうのでこの話題はここまでにしよう。

 とにかく。全く読めない文字? が使われている事が分かった。

 その時、ちゃんと前を見てなかったせいか誰かと肩がぶつかり驚いた顔で『▲□△■◆』と言われた。

 ……え? 何だって?

 普通に考えれば『ごめん!』的な事なんだろうけど……。

 おかしいな。

 この世界の人が話す言葉は分かると思って安心していたんだが……少なくともさっきいた城の人達の言ってる事は普通に日本語のように聞こえた気がしたんだけど……今はなぜか全く分からないな。

 なんだこれ? 何が起きてるんだ?

 しかし。さっきの人の言葉だけど、雰囲気ではフランス語とかそんな印象を受ける。しるぶぷれ……的な。

 そんな事を考えながら大通りを進んでいるとずっと漂っていた良い匂いの出どころを掴んだ。

 ご飯屋さんだ。

 大きく開かれた店の出入り口の前にはいくつかテーブルがあって、そこでみんな食事を楽しんでいる。窓からはもくもくと煙が上がって、より一層の良い香りが辺りを包んでいる。

 ぐぅぅ……。

 腹の虫が大きく鳴いた。

 良い香りのする周辺の酸素を思いきり鼻から吸い込んで、ため息として吐き出す。(これが本当のエア食事だ)

 お腹空いたな……。味の濃い料理をがっつり食べたい。今はいつもの母親の味よりも、異世界の未知なる味を堪能したい。

 実は、すっげえ不味かったりして……。

 辺りの空気を吸い込んで楽しんでいると、またもや人とぶつかり『▲□△■◆』と声をかけられたので、俺も慌てて頭を下げて一応小声で、

「ゔぉさのゔぁ」

 と、それっぽく答えておく。

 そこで、あまりに人とぶつかるので脇見を控えて注意しながら歩こうと思い、前方をかなり気にしながら歩いていると1人の男が明らかに真っ直ぐ俺の方へ進路をとって歩いてきた。

 男は何かに夢中になっている訳ではなく、普通にただ前を向いて真っ直ぐに歩いてくる。

 俺は一歩分左に避けて男とぶつからないようにする。

 男は俺のすぐ横を通り過ぎていく際、やはり驚いた様子をみせて全く俺に気付いていない様子だった。

 もしあの時、俺が避けていなければ、さっきと同様にぶつかっていただろう。

 何だこれ。何が起きてるんだ。

 何でみんな俺にぶつかってくるの?

 何でみんな俺を無視するの?

 よそ者だから? 新人だから?

 俺、何かした?

 わっけわかんねえ。

 みんな冷たすぎるだろう。関心なさすぎだろう。

 本当にもう……この町の人達はみんな心をなくしてしまったのかね……あー嫌だ嫌だ。他人に興味を持たず自分しか可愛がらずに、不親切で協力もせずにコニュニケーションを一切とろうとしない。みんながみんな個人個人でチームワークを軽んじて感情もなく、まるでロボットのように淡々と毎日を生きていくんだろうな。みんながそうでも俺は絶対に何があってもあんな風にはならない。人の存在を認めないよう……な……にんげ……。

「…………」

 急に悪寒が走って鳥肌が立った。

「ステータス……」

 限りなく小声で言って確認する。

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【存在感】   0
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「…………」

 俺は無言で【存在感】を調整する。

 チキチキチキチキーーーーーー

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【存在感】   10
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 その後、誰かにぶつかられる事もなく、俺は町を散策する事ができた。

 変な事言ってごめんなさい。町の人達。
 


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