ゆきだるま

浮艇景

ゆきだるま

 しんしんと雪が降り積もり、世界が銀色に染まった頃、
一本道の端っこに、人知れず小さなゆきだるまが生まれました。
 誰が作ったのかもわからないその小さなゆきだるまは、その小ささのために誰にも気づいてもらえません。
 さみしいよさみしいよ。せっかくこうしてゆきだるまになれたというのに、だれにも気づいてもらえないの? ぼくはこのままだれにも気づかれずにとけて、消えていくの? そんなのいやだよ。


 しゃんしゃんと鈴の音が聞こえて、大きな木がぴかぴかと光り始めた頃、
小さなゆきだるまに、もう少し小さいともだちが出来ました。
 ケーキの飾りであるひいらぎの葉っぱを頭につけたその子は、よくこの一本道をお母さんと通る幼い少女が作ったものでした。ゆきだるまはもうひとりぼっちじゃありません。
 ゆきだるまさん、こんなところでひとりぼっちなんてかわいそうだね。……そうだ、わたしがお友達をつくってあげる。そうすればひとりぼっちじゃなくなるよね。
 やさしさで作られたゆきだるまの女の子は、ひとりぼっちだったゆきだるまに贈られた、少女からのプレゼントでした。


 深夜を回っても家の明かりは消えず、低くて重い鐘の音が響き始めた頃、
ふたつのゆきだるまも、静かに新たな年を祝っていました。女の子は真っ白な顔を少しだけピンク色に染めてほほえみます。
 今年は、もっとたくさんいっしょにいようね? いっしょにお花が見たいな。
 けれど、ゆきだるまの心はふくざつでした。
 なぜなら、自分たちは春のおとずれと共にとけてなくなってしまうから花を見ることは叶わないからです。そして、いっしょにいることができるのも、あと少しだからでした。
 けれどゆきだるまはそれを言い出せず、ただ女の子のよこでにこにことしていました。


 なんとなくチョコの甘いにおいがしてきそうなこの頃、
その日は今までにないくらいあたたかい日でふたつのゆきだるまはあせをびっしょりかいて、一本道にたたずんでいました。
 二つのゆきだるまはいつのまにか、とてもちいさくなっていました。それは、冬のおわりが近いことを意味していました。


 次の日、ゆきだるまよりももう少しちいさかった女の子は、ひいらぎの葉っぱを残していなくなってしまいました。ちいさなちいさなゆきだるまはさいごのさいごにまたひとりぼっちになってしまった、ととてもかなしみましたが、女の子のいたところに一つの芽が芽吹いていました。






 雪もぜんぶとけて、桜のはなびらをはこぶ春風が吹き始めた頃、
あの女の子のゆきだるまをつくった少女はランドセルをせおってお母さんといっしょに元気に学校へむかいます。
 きょうは少女の入学式でした。期待を胸に、少女は手をあげて横断歩道をわたります。
 一本道へさしかかったとき、少女はなにかを思い出したのかふと足をとめました。お母さんのどうしたの、ということばもきかずきょろきょろとあたりを見回して、あるものを見つけます。
 それは、二輪のたんぽぽの花でした。おたがいによりそってなかむつまじく…………。
 少女はそれを見てあんしんしたようにわらうと、またお母さんのところに戻っていってしまいました。

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