異能学園のアークホルダー

奏せいや

人間の……可能性

 声に覇気がない。萎れた声が喉から出てくる。頭も心も絶望でいっぱいで、もう、勝てる気がしない。

 諦めよう。

 そう思った――時だった。

「諦めるなぁ!」

 背後から掛けられた大声に、信也はゆっくりと振り向いた。

「諦めないでよ! 諦めたら勝てるの? 諦めたら叶うの? 信也君はなにがしたいの!?」

「姫宮……」

 入口の隅から自分をまっすぐ見つめる少女は、あらん限りの思いを叫んでいた。目を大きく見開いて、叫ぶのだ。

「なんで諦めるの? なんで勝手に決めるの? わたし応援してるよ? たくさんしてるよ! 誰よりもしてるのに!」

 まるで怒っているように激烈に。

「わたしの時はあんなに真剣に夢を応援してくれたのに」

 まるで泣きそうなほど悲哀に満ちて。

「なのに、なんで先に信也君が諦めちゃうの!?」

 叫ぶのだ、想いを。

「信也君の夢を聞かせてよ!」

 姫宮は真剣な声で信也を励ましていた。自分の夢を追いかけ、誰よりも楽しそうに夢を叶えようとしている彼女が。諦めようとした信也に声を飛ばす。諦めるなと。

 その言葉が信也には重い。受け止めきれず顔を下に背けた。

 なんて無様さだ。自分は特別でもなんでもない。そこらへんに転がっている凡人だ。だから簡単に諦める。屈する。彼女の思いに応えることも出来ない。

 今も、続いているのに。

「信也君の思いを聞かせてよ! 本当の気持ちを! 信也君は、本当に諦めたいの?」

「俺は……」

 頭の裏でささやく声がする。諦めようと。

 けれど、この時別の声が聞こえてきた。もう一人の自分が叫んでる声が。

「本当は? 本当はどうしたいの?」

 もう一人の自分が暴れてる。

 こんなはずじゃない。

 自分が望んだ未来はこれじゃない。

「俺は!」

 こんな現実を求めていたんじゃない!

「俺は……俺は! 諦めたくない!」

 本当の自分が、本音を上げた。

「錬司に勝ちたい!」

 もう一人のささやきを押し退けて、本心を喉から突き出した。

 きっと、誰よりも信也は錬司に勝ちたい。

「ねえ、『信也君』って誰?」

「俺は……」

 錬司に勝ちたい。それが本当の思いだったはずだ。

「それは誰の思い?」

「俺の思いだ」

 勝てるはずがない? 諦めよう? 確かに正しいかもしれない。賢いかもしれない。

「誰の望み?」

「俺の望みだ」

 でも、本当の思いは違う。それが正しさとかけ離れ、間違っているというのなら。

 ならば、愚鈍で結構。

「誰のために?」

「俺のためだ」

 求め続けよう、愚かな夢を。自分勝手な理想を叶えよう。誰に不可能だと言われても、出来るはずのない夢を追いかけよう。

「大丈夫。君はここにしかいない。信也君は君しかいない。すべての宇宙を探しても、神崎信也はここにしかいないんだよ? それってすごいって思わない?」

 姫宮は穏やかな表情で両手を広げ信也にアピールした後、両手を背中に回した。そして、笑みを浮かべた。

「姫宮?」

 信也は凡人だ、簡単なことでも諦める。

 でも、一人じゃない。

 特別でなくたって、出来ることはあるだろう。

「『信也君』なら勝てる。私はそう思ってる。諦めないで。そうすれば――」

 姫宮はビシッと指を立て、信也に突き出した。

「道は開ける。自分を信じる心!」

「人間の……可能性」

 姫宮に励まされて信也は取り戻す。

 自分の夢を。

 絶対に叶わない夢などない。

 可能性は誰にでもあるのだから。

 それを、証明しにいこう。

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