異能学園のアークホルダー

奏せいや

でもな、俺は違う

 信也の言葉が腑に落ちないようで錬司の眉間にしわが寄る。そんな錬司に信也は大声で言い放った。

「ああ! 俺でも錬司に勝てるんだってことをな!」

「……ほう」

 錬司に送る勝利宣言。勝負の幕は切って下ろされた。すぐにでも戦いは始まり異能(アーク)が乱れ飛ぶ。ここは地上で最も危険な場所になるだろう。

 だが、そうはならなかった。

 その前に少しだけ、信也には知りたいことがあったから。

「なあ錬司。戦う前に言わせてくれ」

 勝つと言っておきながら今の信也に戦意はない。それどころか過去を懐かしむような静かさと穏やかさがある。

 錬司は動かなかった。信也の話を静かに待っている。

 戦う前のわずかな間、二年間別れ離れだった二人は思い出話を楽しんだ。

「俺さ、アークアカデミアに入学したんだよ。錬司とは違う第三だけどさ。でも出来たんだ、あの俺がだぜ? たしかに必死に勉強したけどさ、合格が決まった時はまさか俺が? って思ったよ。そしてこうも思った。これで、お前に近づけたって」

 それは信也の思い出、数か月前の話だ。アークアカデミアを目指して合格できた。最高に充実していた時だった。信也の人生でもっとも輝いていた瞬間かもしれない。

 それもすべて、錬司への憧れからだった。

 静かに物語る口調に、少しだけの高揚が混じる。

「錬司、お前は俺の憧れだったよ。そんなお前と同じ場所に立てるんだ。憧れに近づけるっていうのは気分がいい。最高だったよ。しかもランクAだぜ? 俺じゃなくても喜ぶさ。それでいざアカデミアに入ったが、そこは俺の予想とは違う場所だった」

 信也はやや興奮気味に話していたが、しかし寂しそうに目線を下げた。

「アークアカデミアはランク至上主義。誰が言い出したわけでもなく自然とそういう場所だった。

 ランクは成長しない。マルチアークは不可能。そうした限界が生徒から希望を奪い、アークアカデミアはハイランクの楽園、ロウランクの煉獄と化していた。

 俺には、それがショックだった。だって、ここは特別な者たちが集う場所。だろ?

 夢と希望溢れるアークアカデミア、あなたの新たな人生を歩みませんかってCMでも言ってる」

「聞いたよ」

「私も私も! ストラップもらったよ!」

「なのになんだよこれは!?」

 初めて信也は怒鳴った。口調を荒げ感情をぶつけた。

 憧れの場所となるはずだったアークアカデミアは表向き。中は夢も希望もない弱肉強食で、求めていたものとは違った。

 可能性なんて、誰も信じていなかった。

「これのどこが新たな人生だ? どこが特別だ? ハイランクに虐げられている多くの人たち。それがアカデミアだ。

 俺はそれを変えたくて頑張った。まだまだ途中だけどさ、なんとかしたいって、そう思ったんだ。こんなのおかしいって! 人間っていうのは、ランクがすべてじゃない!」

 信也は叫んだ。腕を横に振り自分の意思を言い切った。

 そして、それはこの男も同じだろうと、信也は聞いたのだ。

「なあ錬司、そうだろう!?」

 憧れたこの男なら、どんな不利な状況でも絶対に諦めない彼なら、きっと、こう答えるだろう。

「当たり前だ」

 当たり前だ、と。

「錬司……!」

 思い描いた通りの台詞に信也は表情が輝いた。やっぱり彼だ。憧れは憧れのまま、錬司は変わらない。

 二年の空白があっても、錬司は信也が知っている通りの錬司だった。

「ああ、お前の言う通りだよ、信也」

「やっぱり……お前……」

 その答えに合点する。

 信也は納得した。何故錬司がハイランクを襲うのか。ジャッジメントなどという行いをするのか。

 分かったのだ。錬司を追いかけるのではなく、彼のような諦めない人間になろうとする信也には。

 胸が震える。憧れが、今も憧れでいてくれていたことが。

 自分も、彼も、同じだったから。

「お前も、ランク至上主義を変えるために、戦っていたのか? 錬司!?」

 アークアカデミアはランク至上主義の学園だ。それをなんとかしようと信也は頑張った。傷つきながらも努力した。

 そして、それは錬司も同じだったのだ。憧れのあの人も、自分と同じものを目指していたのだ。

「信也、お前はランクAだ。研究者からはさぞちやほやされたと思うぜ」

 信也の思い出は終わり。今度は錬司の番だ。錬司は片手をあげやれやれといった仕草を見せる。けれど、開いた次の目つきは冷たいものだった。

「でもな、俺は違う。奴らにとっちゃランクFなんてゴミ以下だ。なんせ喋る出来損ないだからな。そう思う気持ちも分からなくない。でもな、俺は諦めなかった。諦められなかったんだッ」

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