異能学園のアークホルダー
夢?
信也は肩を持ち上げる。姫宮は「むぅ~」と頬を膨らませていた。そんな可愛らしい仕草に笑った後信也は聞いてみた。
「なあ、聞いていいかな? 姫宮にとって夢ってなんだ?」
「夢?」
「うん。聞いてみたいんだ」
夢を誰よりも一生懸命に追っている彼女はなんて言うだろうか。信也は知りたかった。
「うーん、わたし難しいことはよく分からないから上手くは言えないんだけど~……」
姫宮は人差し指を顎に当て上を向いていた。ちらりと信也を見ると顔を戻した。
正面を向ける。姫宮は、彼女の夢を語った。
「わたしはね、やりたいことをやればいいと思うな」
「やりたいこと?」
信也の問いに姫宮は大きく頷いた。
「うん! だって楽しいじゃん。楽しくない夢なんて、そんなの夢じゃないよ」
そう言われた時、信也はハッとした思いだった。
楽しくない夢なんて夢じゃない。
「そっか、そうだよな」
「信也君は楽しくないの?」
「うーん」
「ええええ!? ここで迷う~? やっぱりわたし間違ってるのかなぁ……」
「いや、そうじゃなくてさ!」
しょんぼりする姫宮をすぐさにフォローする。
「俺の夢が楽しいものなのかそれはまだよく分からないんだ。なりたい自分になれたらそれは嬉しいとは思うけどさ。楽しいかと聞かれたら、きっと辛いことの方が多いと思う」
夢を叶えるのは楽しいことばかりでない。苦しい時も辛い時もあるだろう。時には諦めたくなる時もあるだろう。
「でも、姫宮の言う夢いいなと思った。嫌いなことを夢にする人なんていないからな。姫宮と俺の夢の考え方はもしかしたら違うものかもしれないけど、素敵だと思うな」
「じゃあ信也君にとって夢ってなぁに?」
「俺にとっての夢か」
信也は考えるが、答えはすぐに出てきた。
「やっぱり、自分の理想を実現することかな。だからこそ、俺は進まなくちゃいけない」
「行くの?」
「ああ。決着をつける」
信也は視線をビルの入口に向けた。
この先にいる。憧れであり、越えねばならぬ壁が。信也は表情を険しくさせ錬司との対決を頭に思い浮かべていた。
「でもさ」
「ん?」
姫宮から話しかけられ振り向いてみる。そこには姫宮が神妙そうな顔でなにやら考え込んでいた。
「分からないんだよね~。錬司君ってランクFなんでしょ? なのになんであんなすごいこと出来るの? もしかしてほんとはランクFじゃなかったとか?」
「いや、確認したけど錬司のランクはF、念じたものを一ミリだけ動かす能力だよ」
「でもさー」
「分かってる。そんな能力であれだけのことが出来るはずがない」
信也は気丈に答えた。錬司の能力、ジャッジメントの脅威は以前謎のままだ。それこそランクアップしたとしか思えないがそれは不可能。ではなにがジャッジメントの能力を可能にしたのか。
「錬司の異能(アーク)のカラクリは未だに分からないけれど、でも」
「うん。信也君は行くんだよね、彼のところに」
信也は頷いた。覚悟を宿した表情で。そんな横顔を姫宮が見つめる。
「うん。信也君なら出来るよ」
姫宮の静かな声援を受けとめる。信也は頷いた。
「行こう」
「はいな!」
信也は姫宮と並びながら一歩を踏み出した。
そして、時はきた。
「よう。また会ったな、泣き虫信也」
うす暗い廃ビルの二階フロアに彼はいた。
審判者。アークアカデミアのハイランクアークホルダーを恐怖のどん底に沈めた最強のランクF。彼の登場はアカデミアにとって衝撃だった。
出来損ないとされていたランクFがハイランクを倒したのだ。しかも複数。いったいどこの誰がこんな事態を予想しただろうか。
その当人である獅子王錬司が信也に話かけてきた。
「どうして俺を呼んだ?」
距離は五メートルほど離れている。遮るものはなにもないコンクリートが向き出しのフロアで対峙している。
錬司の声は飄々としているがどこか重苦しい。それでも信也は怯まずに答えた。
「証明するためさ」
「証明だと?」
「なあ、聞いていいかな? 姫宮にとって夢ってなんだ?」
「夢?」
「うん。聞いてみたいんだ」
夢を誰よりも一生懸命に追っている彼女はなんて言うだろうか。信也は知りたかった。
「うーん、わたし難しいことはよく分からないから上手くは言えないんだけど~……」
姫宮は人差し指を顎に当て上を向いていた。ちらりと信也を見ると顔を戻した。
正面を向ける。姫宮は、彼女の夢を語った。
「わたしはね、やりたいことをやればいいと思うな」
「やりたいこと?」
信也の問いに姫宮は大きく頷いた。
「うん! だって楽しいじゃん。楽しくない夢なんて、そんなの夢じゃないよ」
そう言われた時、信也はハッとした思いだった。
楽しくない夢なんて夢じゃない。
「そっか、そうだよな」
「信也君は楽しくないの?」
「うーん」
「ええええ!? ここで迷う~? やっぱりわたし間違ってるのかなぁ……」
「いや、そうじゃなくてさ!」
しょんぼりする姫宮をすぐさにフォローする。
「俺の夢が楽しいものなのかそれはまだよく分からないんだ。なりたい自分になれたらそれは嬉しいとは思うけどさ。楽しいかと聞かれたら、きっと辛いことの方が多いと思う」
夢を叶えるのは楽しいことばかりでない。苦しい時も辛い時もあるだろう。時には諦めたくなる時もあるだろう。
「でも、姫宮の言う夢いいなと思った。嫌いなことを夢にする人なんていないからな。姫宮と俺の夢の考え方はもしかしたら違うものかもしれないけど、素敵だと思うな」
「じゃあ信也君にとって夢ってなぁに?」
「俺にとっての夢か」
信也は考えるが、答えはすぐに出てきた。
「やっぱり、自分の理想を実現することかな。だからこそ、俺は進まなくちゃいけない」
「行くの?」
「ああ。決着をつける」
信也は視線をビルの入口に向けた。
この先にいる。憧れであり、越えねばならぬ壁が。信也は表情を険しくさせ錬司との対決を頭に思い浮かべていた。
「でもさ」
「ん?」
姫宮から話しかけられ振り向いてみる。そこには姫宮が神妙そうな顔でなにやら考え込んでいた。
「分からないんだよね~。錬司君ってランクFなんでしょ? なのになんであんなすごいこと出来るの? もしかしてほんとはランクFじゃなかったとか?」
「いや、確認したけど錬司のランクはF、念じたものを一ミリだけ動かす能力だよ」
「でもさー」
「分かってる。そんな能力であれだけのことが出来るはずがない」
信也は気丈に答えた。錬司の能力、ジャッジメントの脅威は以前謎のままだ。それこそランクアップしたとしか思えないがそれは不可能。ではなにがジャッジメントの能力を可能にしたのか。
「錬司の異能(アーク)のカラクリは未だに分からないけれど、でも」
「うん。信也君は行くんだよね、彼のところに」
信也は頷いた。覚悟を宿した表情で。そんな横顔を姫宮が見つめる。
「うん。信也君なら出来るよ」
姫宮の静かな声援を受けとめる。信也は頷いた。
「行こう」
「はいな!」
信也は姫宮と並びながら一歩を踏み出した。
そして、時はきた。
「よう。また会ったな、泣き虫信也」
うす暗い廃ビルの二階フロアに彼はいた。
審判者。アークアカデミアのハイランクアークホルダーを恐怖のどん底に沈めた最強のランクF。彼の登場はアカデミアにとって衝撃だった。
出来損ないとされていたランクFがハイランクを倒したのだ。しかも複数。いったいどこの誰がこんな事態を予想しただろうか。
その当人である獅子王錬司が信也に話かけてきた。
「どうして俺を呼んだ?」
距離は五メートルほど離れている。遮るものはなにもないコンクリートが向き出しのフロアで対峙している。
錬司の声は飄々としているがどこか重苦しい。それでも信也は怯まずに答えた。
「証明するためさ」
「証明だと?」
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