異能学園のアークホルダー

奏せいや

姫宮の夢を、こんなところで終わらせない!

 信也は悩むが、とりあえず思いついたことをしようと窓際に近づいた。そして空に向かって手を合わせる。

「姫宮が試験に受かりますように!」

 信也に出来ることなど神頼みだけだ。全身全霊を掛けて祈りまくる。

「うおおおおお! 思いよ届けー!」

「ねえ、あの人なにしてるの?」

「しっ、聞こえるわよ」

「うおおおおおお! 俺のすべてを出してやるぅう!」

「なあ、あいつどうしたんだ?」

「きっと便秘だろ」

「うおおおおお!」

 そんなこんなで十五分が経過した時だった。

「うおおおおお! 俺は諦めないぞぉお!」

「あいついつまでやってるんだ?」

「きっと(ウンコが)出ないんだろ」

「うおおおおお!」

 周りからの冷ややかな視線を浴びながら祈りを捧げる。すると、廊下から激しい足音が聞こえ始めたのだ。

「うおおお――ん? なんだ?」

 ドドドドッ、と廊下を走る音。信也は振り返り廊下を見てみる。

 音が近づく。それは信也の教室を横切った。

 音の正体。それは、姫宮だった。

「姫宮!?」

 姫宮はそのまま走り過ぎて行ってしまった。

「おい、待てよ姫宮!」

 慌てて追いかける。教室の扉を勢いよく開け姫宮の後を追いかけた。

(どうしたんだ? まだ十五分くらいしか経っていないのに。それに今、泣いていた……?)

 教室の前を横切る姫宮の顔。それは悔しそうに下を向き、その目には、涙が浮かんでいたのだ。

 姫宮の後を追い掛けたどり着いたのは屋上だった。扉を開けてみると姫宮は一人でフェンスに手をかけ俯いていた。

「姫宮……?」

「うっ、うう……!」

 泣いている。離れている扉の場所にいる信也にも姫宮の泣いている声が聞こえてきた。

 出かける時は笑っていたのに。いつも明るく夢を語っていたのに。

 その姫宮が、泣いていた。

「姫宮……どうしたんだ?」

 信也は静かに近づきながら聞いてみた。砂の彫刻に触るように、繊細な声で話しかける。

「う! うわあああああ!」

「姫宮……」

 姫宮は、振り向くと抱きついてきた。彼女の顔が信也の胸元に当てられる。彼女の胸のふくらみが体に当たる。

 泣きじゃくる彼女を胸で受け止め、信也は優しく抱きしめた。

 姫宮は泣いていた。それから、悲しみに濡れた声で話し出した。

「やっぱり、ランクFじゃ駄目なのかなぁ……」

 悔しさと、悲しみが胸に突き刺さる。

「ランクが低いと、もう、夢は叶わないのかなぁ……」

 彼女の思いが、伝わってくるから。

「どうしてそんな」

 腕の中で姫宮は震えている。嗚咽に声は途切れ、信也の胸を濡らしていく。

 そんな彼女を見下ろして信也は聞く。

「試験、受けに行ったんだろ? 頑張るって言ってたじゃないか」

「言われたの。試験官の人に。ランクFじゃアイドルは無理だって。なれるわけがないって」

 答えに、落ち着き始めていた涙が再び溢れてきていた。

「わたし、お願いしますって、元気に志願書出したのに、目の前で破られて……!」

「!?」

 姫宮の答えに胸が震えた。次第に心の奥から怒りが湧いてくる。

「許さねえ……!」

 信也は姫宮の肩に置いていた手を放すと、彼女の背中で握り締めた。

「そんなのひどい! 姫宮は真剣に夢を追いかけているのに、それを無視するなんて!」

 信也は姫宮を放すと、力強い眼差しで彼女を見た。

「抗議しに行こう!」

 情熱を瞳に宿して、信也は彼女を見下ろした。

「信也君……」

 姫宮が見上げている。いつもは愛らしい笑みを浮かべる頬には泣き跡が残り、信也を見つめる瞳は涙を流している。

「俺がなんとかするから」

 彼女の視線を受け止めて、断言するのだ。

「姫宮の夢を、こんなところで終わらせない!」

 信也は姫宮の手を取り、アイドル部がある部活棟へと走り出した。

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