異能学園のアークホルダー

奏せいや

審判者事件

 それから二人は急いで教室に戻った。その甲斐あってか説明会にはなんとか間に合った。教室の前には牧野先生が立っている。

「皆さん初めまして。一年二組を担当することになった牧野萌です。名前では呼ばないでください、嫌いですので。

 それでは簡単にここでの生活ルールを説明します。

 まず皆さんはアークをお持ちのはずですが、使用には制限があり、使用する際は学園内、かつ被害が出ない範囲でお願いします。

 もし違反した場合は最悪アーク剥奪の上退学処分となりますので注意してください。

 この手の違反者は少なくなく、今朝も事件が一件発生しており一人が三か月の停学処分となっています。皆さんもそうならぬよう気を付けてください」

(やばい、俺のことだ)

 信也はひやりとした。

「それとここアークアカデミアは異能研究を行なっている学園です。

 皆さんは学業とは別に異能研究にも協力していただきます。とはいえ難しいことはなく、パーソナルデータの収集が主になるでしょう。

 もしくは個別に研究対象になることもあるかもしれませんが、そうした場合はその生徒に直接連絡がいきますので最優先で研究協力に当たるようにしてください。

 それによる単位は保障します。また好ましくはありませんが辞退も可能です。特殊な学園で不安もあるでしょうが、基本的に普通の学園と思ってもらって大丈夫です。

 もしアークに不安を覚えた方がいらしたら医療室へ。異能研究者もいますのでいろいろ質問するとよいでしょう。

 アークアカデミアの基本的な説明は以上です。では、次に施設の説明を行います」

 その後も牧野先生からの説明が続く。しかし説明会自体は午前中には終わり、今日の日程はこれで終わりとなった。

 新入生としての一日目が終わる。

 アークアカデミアの生活が始まった。



 審判者ジャッジメント事件

 第三アークアカデミアの入学式から数日前。

 第一アークアカデミアに所属している二年生、相原真言あいはらしんげんはデート中だった。

 自分のファンだと手紙を出してきた下級生を昼間の公園のベンチに座らせ、慣れた手つきで肩に触る。

 何度もあることだった。もともと容姿がいいことに加えてランクはA。女など砂糖に群がる蟻だ、放って置いても寄ってくる。

 緊張しているのか、男慣れしていないと分かる黒髪の少女は俯いていた。

「それでさぁ、えっと名前なんだっけ? まあいいや、さっそけどさ、行かない?」

「え?」

 相原は少女の肩を強めに握る。

「でも、私、そういうつもりじゃなくて」

「とか言ってさー、本当はしたかったんでしょう? いいって! いつかは行くんだから今行こうよぉ」

「いや、やめてください!」

 相原は強引に誘うが少女は動かない。本当に嫌なようだ。それで相原の気も滅入っていく。

「あー、萎えるわ。ノリ悪」

「で、でも……」

「お前ここで待ってろ、ちょっと小便行ってくるわ」

 相原は席を立ち広めの公衆便所へと向かう。

「んだよつまらねえ女だなぁ」

 期待通りとはならず相原は愚痴を漏らす。せっかくの宝箱もフタが開かなければ意味がない。便器の前に立ちすっかり落ち着いたズボンのファスナーに手を伸ばした。

『ようやく一人きりになったな色男』

「誰だ!?」

 突然の声に振り返る。入った時ここには誰もいなかった。誰かが入ってきた気配もしなかった。

 誰もいないはずだ。いるはずがない。

 しかしいた。

 公衆便所の奥、黒のコートにジーンズを履いた男が立っていた。顔は白いファーの付いたフードを目深に被っており鼻と口元しか見えない。年はおそらく自分と同じ少年。

 黒い男は立つ。不気味に、不吉に。

 けれどフードについたファーがそう見せるのか。顔の輪郭を覆うそのたてがみは、まるで獅子を連想させて――

 男から漂う不吉なオーラに相原は警戒していた。

(こいつ、どうやって入ってきた? それかすでにいたのか?)

 突然現れた少年は間違いなくアークホルダー。それもランクC以上は確実だ。

 謎の男が口を動かす。

「ランクA、相原真言でいいよな?」

「だったらなんだって?」

 相原は笑みを浮かべながらも警戒の眼差しで見つめる。

 そんな彼の答えを聞いて、男の口が吊り上った。

「狩らせてもらう」

「狩るだと?」

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