異能学園のアークホルダー

奏せいや

ランクAの称号を持ちながらお前はこの世界に異を唱えるのか?

「ランクAの称号を持ちながらお前はこの世界に異を唱えるのか?」

「違う、お前たちの考えを正すんだ」

 信也は右腕を大きく横に振った。世界を変えたいわけじゃない。人間には可能性がある。それを否定しようとする考えを変えたいのだ。

「おもしろい」

 そんな信也を見てどう思ったか、生徒会長は薄く笑みを浮かべた。

「お前がこの学園でいつまでそんな妄想を貫けるか見物だな」

「俺は諦めない。絶対にだ」

「そうか。ならば見せてみろ。もし、お前にそれが出来るなら」

 そう言うと生徒会長は踵を返すと今度こそ去っていった。黒い髪が優雅に流れる最中、最後に次の言葉を残して。

「せいぜい信じてみるがいい、自分の可能性を。アークアカデミアの異分子イレギュラー

 彼女の後ろ姿が遠ざかっていく。信也はその場を動かず見送った。拳を丸め、意思を漲らせる。

「ああ、絶対に諦めない。それが俺の可能性だ」

 たとえ誰に言われようと、否定されようと、神崎信也は諦めない。自分を信じる心、人間の可能性を。

「神崎信也さん」

「あっ」

 そこへ牧野先生がやって来た。

「やってくれましたね、覚悟はあるようなのでこのまま連行します」

「ちょっと待ってくれ! 俺はただ人間の可能性を――」

「言っている意味が不明です。続きは職員室で」

「くそー、俺は諦めないぞぉおお!」

「静かにしてください、停学にしますよ」

「はい……」

 そうして信也は牧野先生に引っ張られ職員室へと連れて行かれるのだった。ちなみに新入生代表挨拶は取り消しとなった。



「くそぉおおお!」

 廊下を歩きながら信也はご立腹だった。牧野先生にはちゃんと説明した。

 しかしそんな彼の言い分は聞いてもらえず「なにを言っているのかよく分かりませんが、とりあえず生活態度は減点にしておきますね」と牧野先生に言われてしまったのだ。

「はあー、いきなり減点とかやちゃったのかなぁ俺。いや、諦めるな。まだ始まったばかりなのに落ち込んでてどうするんだ。もっと元気を出せ俺!」

 信也はよしと頷いた。そして自分の教室の扉を開けた。入学式が終わり説明会のためクラスメイトはすでに教室で待っている。

 人間の可能性を胸にウキウキと教室に入ろうとした、その時だった。

 なにやら険悪な雰囲気が流れていたのだ。

「なんだ?」

 見れば机に座っている少年を数人の男子が囲っている。そして次々に「こいつランクFだってよ」と悪口を言っていたのだ。

「おい、なにしてるんだよ」

 すかさず信也は声をかけた。それで数人が信也を見てくる。声をかけてきたのがランクAの信也だと分かった途端嫌そうな顔になる。それで一人が口を開いた。

「なにって、お前には関係ないだろ」

「それは俺が決めることだ。お前たちこそなにしてるんだ、嫌がってるだろ」

 信也も退かない。机に座っている少年は見るからに辛そうだ、それを見て見ぬフリなんか出来ない。

(今朝のあれは上級生だったけど、まさか新入生にまでランク至上主義が広がっているのか? まだ初日だぞ?)

 アークアカデミアはランク至上主義。これは決まりではなく自然とそうなっていた。誰が言い出したわけでもなく。

 だが不思議なことではない。アークホルダーの傾向として特別意識が高いことがある。なにせアーク自体が特別だ。

 いわばアークホルダーは入学する前から特別意識が高く、それ故にランク至上主義に染まり易いのだ。ランクが自分よりも低ければ見下している。

 信也は覚悟を決めた。数人の男子から視線を外すと教室にいる全員に声をかけたのだ。

「みんな聞いてくれ! アークアカデミアでは今ランク至上主義が蔓延っている。すべてはランクで決めるという考え方だ。俺は入学式前もそんな奴らに出会った。ランクが低い人はそれだけで落ちこぼれだと言っていた。でも、そんなのおかしいだろう!?」

 両腕を広げアピールする。ランク至上主義。アークアカデミアの常識をしかし信也は否定する。

「ランクという生まれつきの特徴で、これからのすべてが決められる。ただそのランクだったというだけでだ! 俺はそんな考え方は間違ってると思ってるし、変えたいと思ってる!」

 信也は真剣だった。その目はまっすぐにクラスメイトの一人一人を見つめていたし、その声には情熱が宿っていた。

「そうだろう? ランクですべてが決まるなんておかしい。たとえランクが低くても頑張れば道は開ける。諦めず自分を信じていけば夢は叶う。誰にだって可能性はあるんだよ!」

 信也は信じていた。人間は変われる、その可能性があることを。

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