終末デイズ〜終末まで残り24時間〜

HaL

後藤 慎二の章:5

薄暗く甘ったるい匂いがする部屋で待っていると廊下から二人分の足音が聞こえた。
一人はコトッコトッという革靴特有の硬い足音と、ペタッペタッという素足特有の粘着質な足音。
革靴の方がカウンターの男のものだとすると素足なのは俺の相手をする女の子のものだろう。
そうだと思うと何故だか腹が立ってきた。
クイーンベッドに腰掛けて貧乏揺すりをしながら待っているとガチャリとドアが開き、二人分の影が入ってきた。
一人はやはりあのカウンターの男。
そしてもう一人は12歳までもいかないもののそれなりに身体が発達した"女の子"だった。
俺が発達したけれど12歳までもいかないと表現したのはその風貌からだった。
身長はそれなりにあるもののあまりにも不健康そうなその体型はダボダボの白いワンピースで隠されており、ワンピース独特の の開けた襟元から見える胸部には柔らかそうな肉などはほとんどなくグロテスクでリアルな肋骨が浮かび上がっていた。
顔は整ってはいるものの、その目は一切の希望を感じさせない暗い目をしており、前髪が切りそろえられた腰まである黒髮のロングヘアーはその身なりに似合わないほどに艶がある。
皮膚の所々には擦り傷や炭で擦られたような煤が作られていた。
まともな相手ではないと言われていたがこれは予想の範囲外だった。
だってこんなの完全に。
「奴隷じゃないか・・・」
「ええ、奴隷ですよ。お客さん」
男は不敵な笑みを浮かべながら少女の説明をする。
「この子は国内最大の犯罪グループ"ビースト"によって捕らえられた少女奴隷。あぁ、安心してください。この子の家族はもうどこにもいませんし、いるとしても微生物の腹の中ですので。ええ、そうです、殺されたんですよ。両親はおろか、祖父祖母、親戚に至るまでがあの日のテロで全員殺されてしまいました。その中で唯一残っていたこの子もビーストに捕まってしまい、人市場の裏取引で回されに回されてここまで来ました」
話していくにつれて男の表情は変わっていき、あの不敵な笑みからは想像できないほどに哀愁に満ちた顔に成り代わっていた。
「そこからの彼女の人生は最悪なものだったでしょう。いや元から最悪も最悪だったのに更に転落してしまいました。ここのオーナーは。いや、ここら一帯のオーナーはこの少女にも仕事をさせようと言いました。もちろん相手は限られていましたが、それは多くの男のモノと成り果ててしまったのです。私はそんな姿を見てどうにもいたたまれない気持ちになり、彼女の世話をすることにしました。彼女に許されたスペースはここの地下の一室。与えられた食べ物はパンと塩だけでした。なるべく栄養を取らせようと私も給料を削って彼女に食べ物を与えました、絵本などの娯楽もできる限り与えました。しかし・・・」
自由は。
彼女の存在理由だけは与えられなかった。
「だからこそお願いします。彼女に外の世界を見せないでください。この世は酷いものだったと最初から思わせて、一切の希望を絶たせてください。お願いします」
男は俺にそう縋り付いた。
そんな光景を見て少女は男を励ますように頭を撫でた。
それがまるで彼女が知っている唯一の愛情表現であるかのように。

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