私と彼等の日常は、あまりにも非現実的すぎる(正位置編)

死神の嫁

生きるという定め(死神の正位置)

 小さい頃、よく人の『死』について考えていた。幼いながらも、死に対する興味と恐怖を感じていたのだろう。

「主、朝ごはんはしっかり食べなければならない。抜くと健康に害が及ぶ、気を付けろ。それが終わったら適度な運動をしろ、体を動かすことは健康にいいからな」
「毎日言わなくても分かってるってば!」

 人が死んだあと、体から魂が抜けて天に昇っていくという話は、昔聞いたことがあった。同時にその魂を管理する者がいるという話も。
 人が死ぬ前に姿を見せるという、死の神様……通称死神。物語やドラマに描かれる死神は、どこか恐ろしい存在だ。少なくともこんな風に人の健康管理に指図してくるようなことはないだろう。

 彼の名は『死神』の正位置。カード番号は13で、
主な意味は『終焉・潮時・別れ』など。人によってはいい意味を持っているとは感じないだろう。だが別れは必ず来る、別れがあってこその出会いがあるのだから。

「分かっているならいい、常に健康に気を配り正しい生活を送れ。それが長生きの秘訣だぞ?」

 死神の名を持っているにも関わらず、彼はやたらと健康面のことを言う。事あるごとにこうして気遣ってくれるのは有難いのだが、死神としてそれはどうなのだろうかとも思う。より健康的な魂を回収しなければならないという縛りでもあるのだろうか。詳細は聞いたことがないため、分からないままだ。

「あ……うん、ありがとう。しー君はさ、私が主だからこうして気遣ってくれるの? 他人だったら、こんな風には気遣ったりしないし、何か特殊なルールとかあるの?」
「主、しー君と呼ばないでくれとあれ程言っておいたではないか! 弟に聞かれたら、からかわれてしまう……話がそれたな、特にルールなどはない。私は主が主でなかったとしても、心配する」

 しー君というのは、私が付けたあだ名だ。彼の逆位置が弟に値するため、あだ名をつけて区別しているのだ。だが当の本人はこのあだ名がお気に召さないらしく、呼ぶたびに怒られてしまう。それでも癖で呼んでしまうため、怒られても呼び続けているのである。

「いいじゃん、しー君ってあだ名。私が命名したんだからいいでしょう? そっか、特にルールはないのか……じゃあ単純にしー君が、私の事を心配してくれてるってことか。ありがとうね、しー君!」
「はぁ……まぁいい。今は弟がいないからな。主も知っていると思うが、仮に主が死んだとすれば、次に生まれてくる主は今の主ではない。全くの別人だ。今生きている主は、今この瞬間でしか生きることはできない。私は今この瞬間を生きている主と、より長い時を過ごしたい。主が死んでしまえば、私達も共に消えるのだからな。だから少しでも、長く生きていてほしいんだ……」

 カードとその所有者は運命共同体、どちらかが消えればもう一方も消えてしまう。無論彼らはカードであり、人間ではない。人間の死と、彼らの死は全く違うものを示すだろう。
 だが、失う悲しみと苦しみはどちらも同じ。死を司る彼は、人間の死もカードの死も両方分かってしまうのだろう。それは想像以上に辛いはずだ。

「分かった、約束する。貴方たちとの時間を楽しむためにも、私はとことん生き抜いてやるわ! 嫌なことであふれかえってる世界だけど、それ以上の楽しみが私にはあるし……だからこれからもサポートしてね、しー君!」

 この時の私は、まだ自分の身に起こる危機を知らなかった。しー君が、この危機を恐れ回避するために忠告として言っていたことを知るのは、もう少し先の話である。何も知らない私は、すべてを知っているしー君に、屈託のない笑顔を向けた。

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