私と彼等の日常は、あまりにも非現実的すぎる(正位置編)

死神の嫁

優しい母(女帝の正位置)

「あら、どうしたの? いつもに増して浮かない顔をしているわね……」

  そう言って私に話しかけてきた女性は、少し心配そうな顔をしていた。

 彼女の名は『女帝』の正位置。カード番号は3で、
その名の通り、彼女は女帝で一国の王女として夫の『皇帝』の正位置と共に、国を治めている。主な意味は『思いやり・愛情・包容力』で、彼女自身の性格も影響しているが、女性の鏡のような人物である。

「あ、女帝さんこんにちは。ちょっと嫌なことがあってね……聞いてくれる?」
「勿論よ、私でいいならぜひ聞かせてちょうだい。貴女に頼ってもらえてうれしいわ、それじゃあ私の部屋へ行きましょう? お茶でも飲みながら、ゆっくり聞かせてもらうわ」

 女帝さんの部屋には本がたくさんある。それは彼女が大の小説好きだからである。特に冒険物語が多く、シリーズごとにきちんと整理され、真新しい本棚に収まっている。それ以外は流石というにふさわしい調度品ばかりで、何度訪れてもキョロキョロしてしまうものだった。
 出された紅茶とお茶菓子をいただきながら、私は彼女に話をした。彼女は黙って頷きながら、私が話し終えるのを待っていた。
 私が話し終えると、彼女は持っていたカップをテーブルに置き、静かに微笑んで私の頬に手を添えた。

「そう、それでこんなに悲しそうな顔をしていたのね。折角の可愛い顔が台無しよ? 貴女には笑っていてほしいもの」

 女帝さんはいつもいい香りがする。暖かくて優しい、聖母を連想させるような香りだ。細くて柔らかい指が、私の頬をつんとつつく。私とは違い、手入れの行き届いた美しい手。それでいて何処か頼もしさを感じる。

「貴女は私の主でもあるけれど、私の娘でもあるのよ?」
「娘?」
「えぇ、私にとって貴女は本当の娘のように愛らしい存在なの。だから余計に貴女が心配になるの、貴女はすぐに抱え込んでしまうから」
「それは……ごめんなさい」
「だからね、こうして貴女に頼ってもらえてすごく嬉しいの。お願いだから、私には遠慮なんてしないで欲しい。私はいつだって貴女に頼ってほしいと思っているの。一人で抱え込まないで、せめて私に相談してちょうだい。そうじゃないと少し悲しいわ……ね?」

 そう言う女帝さんは母のように、優しく厳しい表情だった。私はその表情に圧巻され、只々頷くしかなかった。

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