NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第160話 #4『初級忍者最終試練』(サイカ、マリーナsub)
確かに、サイカは昔、ニンジャとして、シノビとして暗い仕事をして来た過去がある事も聞いた。これと言って、それらの過去を否定するつもりも無かったし、今の優しい母親替わりのサイカを見て、それらを連想する事も無かった。
うかつだった。マリーナは馴れ合いから完全にその事を失念していた。
仕事に出来るぐらい、サイカは『殺しのプロ』だった実績を持っていると。
ハァハァ
ハァ…ハァ…
スゥゥ………
現実を受け入れ、呼吸を整えるマリーナ。今、目の前に居るのはあの優しかった義理の母親では無い。現役時代と何ら遜色の無い殺気を放てる、上級くノ一の『サイカ』だ。
スイエンがマリーナの前に立ち塞がったのは、鳥居を越えてものほほんとしているマリーナを『守る』為だ。スイエンが前に出ていなかったら大怪我……下手すれば一撃死(クリティカル)すら有り得たのだ。
「……では、しきたりに従い、勝負の内容は対峙者の最も得意な科目とする」
「えっ!?」
マリーナは思わず声を上げてしまった。まさか、自分より格上の相手に、相手のグランドで勝負するとは思わなかった。流れ落ちる冷や汗が止まらない。また呼吸が浅くなってしまう。
「……そう、ねぇ。『暗殺料理』で」
開いた口が塞がらなかった。暗殺料理など、聞いた事も無かった。ましてや、料理人として料理を暗殺に使うなんて。しかもそれを、『最も得意』として指名するなどと。 
隣にいる人は、誰だろう?
ふと、マリーナの意識は遠のいた。隣にいるサイカの事が、分からなくなった。いつも優しく、母親替わりに育ててくれて、時には父、ミンギンジャンから庇ってくれたりもした。実の息子のケンジと遜色無く接してくれた人物。
その人物は今、マリーナの隣で溢れんばかりの殺気を振り撒きながら、何よりも大切なはずの料理の技術を暗殺に使うと言う。
「…あいわかった。初級忍術最終試練は、『暗殺料理対決』とする。」
長老のその一言で、あっさりと試練の内容は決まってしまった。
スイエンが2つの巻物を取り出すと、長老は何かをそこに書き込む。
「………ふむ、これでええじゃろう。対決に必ず使う食材は指定した。これ以外なら何を使ってもいいが、基本的にはこれらの野菜は必ず使用してもらう」
巻物はスイエンによって巻かれ、マリーナとサイカに手渡される。
「では、期限は8日後のこの時間。それまでに暗殺料理を作って持ってくる事。試練中は自らの身は自らで守る様に。よいな?」
「もちろん、わかったわ」
サイカは軽く返事をする。マリーナは受け入れ難い事が起き過ぎて、か細い声でやっとの事返事が出来るぐらいだった。
その様子を見て、満面の笑みを浮かべてサイカはマリーナに詰め寄る。
「……うぁっ」
マリーナは最早、サイカの目をまともに見れなくすらなっていた。
「ちゃんと…ちゃんと殺しに来てね?必ずよ?必ず殺すのよ?ね?マリーナちゃん?」
サイカは、マリーナに圧を掛ける。サイカが信じられなくなったマリーナ。サイカは上級くノ一として、もちろんこの初級試練もクリアしている。つまり、こうなる事を知っていてこの修行間接して来た事になる。
「……よろしい。試練の開始じゃ」
ドンッ
スイレンが、祠に置いてある太鼓を1つ打ち鳴らした。
その瞬間、サイカは音もなく消えた。
ペタッ
「ハァ……ハァッハァ……」ガタガタ
サイカの気配が完全に消えて、マリーナの緊張が解けた。力無く地面に座り込み、震えている。
そこに、長老とスイエンが来た。
この修行間、里に来てからずっと優しく接してくれた里の長老。ミンギンジャンの父母はとっくに死別している為、マリーナに祖父母という者は居なかった。
まるで、おじいちゃんが出来た様だった。初めて会った時から優しい笑顔を振り撒いてくれる存在。それが……
─スッ
「……あっ」
長老もスイエンも、マリーナに一瞥もくれる事無く横を通りすぎて行く。
母の裏切りに深く傷付いたマリーナは、癒しを求めて長老に向かって手を伸ばそうとしてしまった。
しかし、無常にもその2人は鳥居を越えて里に降りて行く。
そして、その鳥居を見て、マリーナの目が覚めた。
「…………うぅわぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!!!」
空に向かって、大声で吼えた。
「私はァ!越えたんだ!あの鳥居を!!」
泣きじゃくって、立ち上がった。
「ここに居るのは!誰かの意思じゃ無いっっ!!あの時も…マルマルさん達に黙って馬車に忍び込んだ、あの時も!!」
弱々しい思いを断ち切る為、全力で声を出す。
「自分で選んだんだ!!自分で……パパと離れる事も!私は!自分で選んだァ!!」
乱暴に目元を擦り、涙を振りほどく。決意は固まった。
「やるわ。絶対に、サイカさんを倒して見せる!!」
そう言って、マリーナは巻物を手に取り、山の中へ駆け出した。
第160話 END
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