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第157話 #1『初級忍者最終試練』(サイカ、マリーナsub)




 漁師達の計らいで、ヤンドの居る寺院までは船に乗って移動する運びとなった。

 ただ、ディープ・ブルー討伐の影響で海の状態がどのように変化したのかが不明なままなので、船はゆっくりと航路を確かめながら前進する。


 当初の予定では1日でたどり着くはずだったが、おおよそで1日半から2日程に伸びた船旅。それはすなわち、彼等に久々の休養が訪れた事になったのだ。


 アンジェラは鎧や武器の類いを甲板に並べて手入れを行っている。

 カルガモットについては、漁師と会話し近海の海産物と以前の貿易ルートなど、外交に必要な情報を聞いてまとめていた。


 そしてタリエル、ハックはと言うと……


「あう〜。船旅ってあんまり得意じゃないかも〜」グダ〜



 タリエルは船酔い気味になっていた。船に乗った当初ははしゃいで居たものの、時間が経つにつれて元気が弱くなっている。完全に船酔いになっている訳では無いが、お酒で悪酔いし始めた様な状態だ。座って天を仰ぎ、水を飲んでいる。


「ふん、だらしないぞキャッシュグール。いつものソナタなら、カルガモット殿と一緒に商売の話に食いつくだろうに。」


 清々しい顔をしたハックが、タリエルの元に果物を持ってくる。タリエルはその柑橘系果物を1度見るが
、要らないと手を振って断る。


「今ちょっと海産物(ナマモノ)の話なんて聞きたくな〜い。それに、私フレッシュな物は取引しないって決めてるのよ。」

「ほう?何故だ??」

「鮮度によって価値の代わるものはねぇ。その日その場でお金に変えないと損しやすいからぁ〜」グッタリ


 話したく無いと言いつつも、ハックに色々と聞き出されて気分を悪くするタリエル。金銭に関わる時のいつもの覇気も消えていた。


「でも……なーんで船酔いしてるの私だけなのよぉ!こう言うのって…身体悪いのが取り柄のハックさんの役目じゃん!」プイッ

「なんだと!?失礼な奴だな!」

「…ってか、なーんかハックさん?何時もより顔が青くない??」

「「ん?え?」」


 ダークエルフであるハックの肌は元から青い色なのだが、何故か今日はいつにも増して青くなっている様に見えた。アンジェラもカルガモットもまじまじと見つめる。


「だ、ダークエルフとは!日に焼けると肌がより青くなる物だ!船の上で日差しが強いからだろう!!」

「それはわかったけど、なーんでそんなに怒って言うのさ??」

「怪しいな……」


 装備を手入れしながら話を聞いていたアンジェラもハックに近寄る。それを見て何故か1歩引くハック。


「おいハック?なんで引くんだ?」

「誰だってこう暑いの誰かに近寄りたく無いだろう!」

「……ん?あ、そういう事か」クククッ


 それを見ていたカルガモットが何かに気付いて含み笑いをこぼす。


「なにカモ領主!?なにか解ったの!?」

「種は解ったのだが…」


 ハックはカルガモットに一生懸命『言うな』というジェスチャーをする。


「ふむ…錬金術師の名誉の為に黙っておくとしよう」

「ん?待て、わかったぞ!」ピュッ


 せっかく珍しくもカルガモットが空気を読んだと言うのに、隣に居たアンジェラがその配慮をぶち壊してハックに小石を投げる。


パシッ
「あぐうっ!!」シュゥゥン


 小石が当たると身体が一瞬青く輝いて、元のハックの顔色に戻った。


「やっぱりなぁ!ハックが船酔しないなんておかしいと思ったんだ!」

「ば、バレてしまったか」

「アンジー!何が起こったのか教えてよ〜!」


 アンジェラはニヤニヤしながらハックを指差す。既にハックは具合が悪そうだ。


「こいつ、『フロート』の魔法使ってた。」


 タリエルが『なるほどっ!』と、手を打って納得していた。つまりハックは、船の上に立っていたのでは無く、フロートの魔法を駆使してあたかも立っているように船体から浮いてたのだ。船体が揺れ動くのに合わせて自分の身体も上下に浮かび上がらせる。そうやって船からの振動を殺して酔わない様にしていた。なので、いつもよりハックの顔は青く見えていた。薄い青色のバフを表す発光の影響だった。アンジェラに小石を当てられたので、フロートの魔法は解除された。

 船体に降り立って数秒もしない内にハックはタリエルよりも具合悪そうにうずくまる。


「錬金術師、アレだけ猛スピードで馬車を動かしていたのに船は駄目なのか?」

「違う……カルガモット殿、自分の魔力で動かしているなら平気なんだ。普通の馬車なら平気なのだが……うぷっ!!」


 ハックは海に向かって『キラキラ』したものを吐いている。船酔いを諸共しないアンジェラはその様子を見て爆笑していた。


「やっぱりハックさんそうなる運命じゃん……やば!あたしも貰っちゃう!!」ガバッ


 今度はタリエルも船のヘリに捕まって『キラキラ』させていた。



 その時、タイミングの悪い事にモンスターが現れた。


「お!おい!!ワイバーンだ!!見ろっ!!」


 見張りに付いていた漁師が指を指す。その方向から、ヘビともドラゴンともつかない様な細身の爬虫類系モンスターが翼をばたつかせて飛んでくる。

「飛龍には相当しないが、少し厄介だぞ!空を飛び続ける奴には接近戦でダメージを与えられない!」


 カルガモットは滅多に使わない盾を装備する。アンジェラはいざとなったら投擲出来るように手斧に持ち替えた。


「錬金術師!炎系魔法で撃ち落としてく……うわぁ!」


 カルガモットがハックに魔法攻撃を頼もうとするも、ハックは『キラキラ』まみれになっていた。あまりのおぞましさにカルガモットも1歩引く。

「どうする?ハックが使い物になんねーぞ!?」

「戦士アンジェラよ!元はと言えば貴様が錬金術師をあの状態にしたんだろう!!」

「そんな事言ったってキリねーだろ!!」


 カルガモットとアンジェラが言い合いをしている間に、あっという間にワイバーンによって船は囲まれた。その数は6匹。


「ふっふっふ〜!ここは私の出番ねぇ!」


 フラフラとした足取りでタリエルが甲板の中央に立つ。身体中にはいつもの通りありとあらゆる投擲武器や射出するような類のアイテムが装備されていた。だが半分船酔い状態のタリエルはまともに狙いが付けられない。


「あぁ〜んもう!!せっかくこの為に練習してきたのに!!」


 やっとの事でボウガンを撃ち出すも狙いは外れ、狙われて激高したワイバーンはタリエルに空中から襲いかかる。


「「あぶないっ!!」」





ヒュッ

───シュパァッ


ギャオオォ!?




 一瞬過ぎて、何が起こったのか分からなかった。だが、空に浮かんでいたワイバーンは6匹とも全て倒され、水面に落ちた。


「……大丈夫でしたか?タリエルさん?」

「ま、マリリーたん!!!」ギュ


 なんとマリーナがシュリケンを投げて、ワイバーン達を撃破したのだ。あまりにも早業だったのでアンジェラもカルガモットも驚愕した。


「これはこれは……給仕係、成長したのだな!」

「すごいぞマリーナ!」


 マリーナはニコッと笑ってブイサインをする。


「ごめんなさいね、船酔いに効く薬を調合してたから」


 貨物室の階段を上がってサイカも現れる。何やら怪しい壺を抱えていた。

「マリーナちゃん、首尾よくヤれた?」

「はいっ!サイカ師匠!」

「もう、修行は終わったんだからいつも通りに呼んでも良いのよ?」

「てへへ、なんだか染み付いちゃって…」


 2人がそう言って笑っているのを見て、カルガモット達は改めて『マリーナが戦闘員になった』と実感したのだった。



第157話 END

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