NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第154話 sideC ○○の悪夢
「あーあ。くそっ……」
あれから、長い時間が経過した。
何日なのか
何週間なのか
それとも、何ヶ月なのか
この、朝も夜も無い白黒の世界では、それがどれくらいの期間なのか正確には掴めない。
ただ分かるのは、とても長い時間が経ったと言う事だけだ。
「……………。」ダッ
「お、そう来たか?」サッ
バキッ
ザシュッ!!
刃物を持って走って来た『何者』かに足払いを掛け、その刃物を取り上げて喉に突き刺す。
「……………グッ」バタッ
「おし、じゃあ……そこだな?」
ヒュッ
バスッ!!ブシャァ!!
「……………ガハッ」ドタッ
先程倒れた者の喉に突き刺したばかりの刃物を抜き取り、全く見ずに自分の死角方向に投げる。
すると、そこに隠れて居た者の胸に刃物は突き刺さり、その『何者』かも地面に伏せる。
「おっしゃ、二人目っと…」
勇者○○はキョロキョロと辺りを見回すと、路地を1つ選んでそちらに走り出す。
この白黒の世界にしばらく居ることで、大体の事が理解出来てきた。
・この場所はどうやらどこかの『街』のようであるが、建物から地面も空も全てが白黒に色が反転してしまっている。明るい所が白色で、それ以外の所は黒くなっていて細部まで確認する事が出来ない。
・時間が経過しているのかは不明。この場所に来てから、空腹や睡魔の感覚は1度も無い。寒暖の差も感じる事は無く、天候の変化や風も無い。
・デバッグ能力は発動しているものの、メニューボードを出す事が出来なくなっている。それに加えてアイテムとしての取得が不可能になっている。ただ、手に持って扱える物は持ち運べる。
・たまに、白くフラッシュが発生するが、その度にこの街は少しずつ拡大しているようだ。
・街には『端』と言う概念が無いらしく、ある程度まで歩くとループして見た事のある場所に戻る。ただし、フラッシュがある度に見た事のない通りが発生しているのが分かる。
・基本的に自分以外の生き物は存在しない。色があるのは自らの身体のみ。自分の身体から吹き出した血液は赤いが、身体から離れてしばらくすると黒くなり周囲と一体化する。
そして、この場所に閉じ込められてから変わらず起きている事。
常に襲ってくる、『何者』かの集団。
顔は真っ黒なので、その表情を図ることは出来ない。
…が、しばらく見ているうちに判別出来るようになって来た。
よく見ると背格好も違うし、あからさまに女性のように見える者も居る。
それぞれ、特徴も違った。
接近戦闘にかなり秀でている者も居れば、あからさまに戦闘力の無い者もいる。
全力疾走で追いかける者。
遠距離から飛び道具を使ってくる者。
めちゃくちゃに魔法攻撃を乱発する者。
近付いては来るものの、わざと囮になるような仕草を見せて自分からは仕掛けない者。
…その数、『十三名』
勇者○○と共に、この閉鎖された空間に閉じ込められている者たち。
だが彼等は彼等同士では争わない。一方的に十三名から仕掛けられる。
だから勇者○○は、『コミュニケーション』を取らざるを得ない。
スッ
ザクゥッ!!
バシュッ!!
「へっへっへ……オラぁ!!3人連続でヤッたぞ!?次はどいつだ!!」
足の遅い者に追いつき、あっという間にとどめを刺す勇者○○。
そう、この閉鎖された空間では、ひとつのコミュニケーションを取る以外は彼等と通じ合えない。
『殺す』か、『殺される』か。
「逃げてんじゃねぇよ!!まとめてかかって来いオラァ!!」ガンッ
今仕留めたばかりの者の死体を蹴り上げる。挑発に乗る者はどれ程いるか賭けに出る。
………ダダダッ
「来たっ!4人?かッ!!」
手近に居た者には深手を追わせることが出来たが、あっという間に残りの数人に返り討ちに合う。
「ちっ……5人だったか……今回は……」ゴハッ
血を吹き出し、地面に伏せる勇者○○。
薄れ行く意識の中、ある事を確認する。
(トドメを刺したのは…アイツだな?……そしたら)ガクッ
事切れて、動かなくなった勇者○○の死体を見つめる3人。
しかし、すぐ後ろから再び勇者○○が復活し、トドメを刺した者以外の別の者に後ろから羽交い締めにする。
「うへへ!!『キルカメラ』の位置感覚はもう大体掴めてんだよ!!ほぅらもう1人!!」ゴキッ!
その1人の首をへし折ると、すぐ様次の目標に駆け寄る。
勇者○○のデバッグ能力の内のひとつ、『即時復活』
その効果が発生する時、少しだけ勇者○○は元いた位置とは離れた場所に復活する。
暫くはこの謎の現象に悩まされていたが、この終わらない『コミュニケーション』のおかけで法則性を学んでいた。
(最後に俺にトドメを刺した奴の死角!!それが俺のリスポーン位置!俯瞰の視点から見てるとすれば…それはすなわち、『キルカメラ』として俺の最後を見ていて、その死角から復活している!!)
キルカメラとは、最後にトドメを刺したプレイヤーがどのように攻撃を繰り出したのか、死ぬ瞬間までスローで再生されるゲーム独特の表現方法のひとつだ。
「次はてめぇだぁぁぁああ!!」
この十三名とのコミュニケーションをするには、痛みなど気にしていられない。むしろ小さな怪我程度ならば、『自ら進んで』復活地点を調整しなければならない。
勇者○○は、永遠とも思われる無限の殺戮反芻(はんすう)に、自らの心まで『真っ黒く』反転して周囲と同化しているのに、気付いて居なかった。
「ぎゃはははは!!今度こそ全員やってやるぞごらァァァ!!」
第154話 END
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