NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第144話 #4『セントレーヌの涙』
海洋モンスター…リディはそれの事を『ディープ・ブルー』と呼んでいた。それを見てから、どうもリディの様子がおかしくなった。明らかに狼狽している。
「ねぇ!!アレ、どこから出てきたの!?」
「ハックさんが見つけたって!海の底にあった船から出てきたの!」
タリエルがそう答えると、リディは更に困惑する。
「ふ、船!?船ってもしかして…」
「察しの通り、セントレーヌだ。」
セントレーヌの名を聞いて、頭を抱えてしゃがみこんでしまうリディ。
「リディ?大丈夫?」
「あぁ、ありがとうアンジェラ。ちょっと目眩がしただけだから。」
「リディ氏は…先程、『削除された』と言っていたが…一体どう言う事なのだ?」
「カルガモット〜!こっちが聞きたいわよ!アレのデータは完全に削除された筈なのよっ!!」
「じゃなーんであんなのが海にまだ居るのよ!?魔女っ子のお仲間さんってちゃんと仕事してるの!?」
「うぐっ!?わ、私はちゃんとしてるわよっ!!でも…」
改めてディープ・ブルーを見据えるリディ。
「これも多分、私の先輩が居なくなった事に関係してるかも知れないの!」
「「「え?」」」
更にその話を詳しく聞こうとした途端に…
ドゴォンッ!!
「きゃあ!?」「うわっ!」
大きな船の残骸が投げ飛ばされてきた。
「しまった!注意を逸らし過ぎたか!!戦闘続行だ!」
カルガモットがキレイホースを呼び出す。
「チリードルさん、奴は槍を気にして海に潜るようになってしまった。1発1発のダメージを大きくしたいので、石の槍を作れるか!!」
「おっけ!!アンジー、ちょっと石割って持ってきて!」
「行ってくる!!」
カルガモット、タリエル、アンジェラはそれぞれ別の方向へ向かって走り出す。
「リディ!ここは危険だ!我々は離れよう!」
「ちょっ!ちょっとぉ!!??」
ハックに急かされて慌ててリディも走り出す。岬の反対側に行けば攻撃からは身を防げそうなので、とりあえずそこに移動した。
\ゴーン/
ドスンッドスンッ
ドスンッドスンッ
「うぉうぉぉおお!?」
動けないハックはサイレント・エアレンツのウィンダム・ウィズダムに担がれているのだが、あの巨体で走り回るのでハックは肩の上で激しくシェイクされる。
岬の反対側には、既に逃げていた人魚達がひとかたまりになって身を縮めていた。
「なっ!?モンスター!?」
「まて!人魚達は友好的だ!」
人魚達は怯えるめでウィンダム・ウィズダムを見上げる。
「…すまん、話がしたいから顔をそちらに向けてくれるか?」
リディが頷くと、ウィンダム・ウィズダムはゆっくりとハックを肩から下ろし、赤ちゃんを抱っこする様にして抱えた。
「あ、ありがとう。ゴホン!」
恥ずかしがっている場合では無いのだが、ハックは赤面した。
「なぜここに他のモンスターまで逃げてるの?」
「そうか、えーと…掻い摘んで説明するなら、ある少年のNPCに人魚が地図を渡した。その地図の情報を得て、我々は海底を探索したのだ。結果、海底でセントレーヌを見つけ、今に至る。」
「人魚が…地図を渡した??」
「その少年は、誤って魅惑真珠の貝を食べてしまった。どうやら友好度による影響で人魚は少年に地図を渡したらしい。」
「……は、はぁ!?」
リディはポカンとしている。
「何か気になる点があるのか?」
「…大アリよ!!モンスターに友好度でアイテムを渡すなんて条件、ゲームに存在しないわ!!」
「なんだと!?しかし、事実人魚は渡したらしいぞ?まぁ、我々も実物を見ていないので聞いた話を鵜呑みにしているだけだが。」
「誰が地図を持っていたの?」
「少し待て。おーい、人魚達!」
ハックが声を掛けても、人魚は返事をしようとしなかった。
「しまったな、リトルが居なくなったので人魚とコミュニケーションを取れる者が居なくなってしまった。」
「……友好度で人魚は話をしたのよね?」
「そう……だと思う。」
「分かった。」
そう言うとリディはポシェットから黒いメニューボードを取り出す。
「お、おぉ。久しぶりに見たな。」
「えーっと……普段使わないから……」
リディは空中に現れたコンソールを操作する。
「………あぁ、あった。『ウィンクで友好度MAX:有効』っと」
コンソールでデバッグメニューを切り替えるリディ。そして手近にいた人魚にウィンクをする。
ただ、勇者〇〇が行った時の様な変化は人魚に起こらなかった。まるで正反対とでも表現する様な動きを見せた。
─リディがウィンクすると、その人魚の瞳の光は即座に消えて、まるで全くの無感情な表情になった─
「さて、地図を渡した人魚は誰?」
「………………。」スッ
その人魚は、年長そうな人魚を指さす。
「ありがとう、もういいわ。」パチッ
すると人魚は正気に戻り、他の人魚の所に行った。
「じゃあ、あなたに聞くわね」パチッ
年長そうな人魚も、リディにウィンクされると無表情になる。瞳は真っ暗な色に変化した。
「あなたは何処からその地図を手に入れたの?」
「………………人魚はみんな最初から持っている」
「「……は?」」
その人魚が目配せをすると、なんとそこに集まっていた人魚全員が地図を取りだした。
「な、なんだと!?」「ちょっと待ってよもう!!」
途端に話の雲行きがおかしくなって来た。人魚が持っていた地図は、皆同じ地図だった。全てがセントレーヌの沈没位置を指し示していたのだ。
「こんな事が有り得るか!?普通、宝の地図など複数枚も存在しないぞ?どうして大勢に見つかるようにする必要があるのだ!?」
「いや……これは。」
リディは再び黒いメニューボードを取り出して、コンソールを操作する。
「……嘘でしょ?人魚のドロップアイテムになってるわ」
「はぁっ!?」
「でも……おかしいの。ドロップ率が0.00%になってる。」
ハックがそのコンソールを見ても何の事なのかいまいち理解出来なかったが、大陸にいる全ての人魚が、元からレアアイテムとしてセントレーヌの地図を保有している事だけは分かった。
「人魚は、愛しい勇者にこれを渡す様に言われてるの。」
「愛しい勇者?誰にそんな事を言われたの?」
「海よ。人魚はそうやって産まれるの。いつか愛しい勇者が現れたら、地図を渡してって。そうすればあの『深き海』を倒して、平和を取り戻してくれるから。」
「なんと……」
そこまで言ってハックの口は止まった。何とも表現が出来ない。
リディの表情はどんどん暗くなって行った。
「……誰かに、そう、『設定されている』のね。分かったわ。」
それだけ言うとリディも考え込む。
「ねぇ、地図を貰ったNPCは?」
「あーっと…リトルと言う…いや、違うな。リトルは愛称の様な物で、本人は確か『勇者ゼロ』と名乗っていた。」
「ゆうしゃ、ぜろ?」
リディは再びコンソールを操作する。
「サーチ:NPC。勇者ゼロ……検索結果は……何も無いわ。」
「だろうな。本名は分からないが、取ってつけた様にその名を名乗っていたので、間違いなく違うだろう。」
「ありがとうハック。もうだいたい掴めたわ。」
「本当か!」
「この街…この辺り一帯には、正式名称では無いけれど『渚と人魚と幽霊船に纏わるストーリー』と言う名前のサイドクエストがあったの。でも、予算とストレージ容量の都合でそのクエストは見送りになったわ。削除されたの。」
「つまり?それはどう言う事だ?」
「誰かがこのサイドクエストを削除せずに隠していた。バレない様に地図のドロップ率をゼロにして、深い海の底にセントレーヌ号を隠した。」
「なるほど、誰かそれで得をする人物が居たのだな?」
「それは分からない。けど、何かはしようとしていた。そして…このサイドクエストを担当していたのは…」
リディは、涙を流して居るように見えた。
「行方不明になった、私の先輩なの。」
「ふぅむ……ではその先輩とやらがあのモンスターを海底に「でもっ!!」」
リディはハックの言葉を遮った。
「……誓うわ、先輩は理由も無くそんな事する人じゃない。あの人が愛したこのゲームに、こんな事するなんて絶対に違う!!」
「し、しかしだなぁ…」
依然、湾内では大型の海洋モンスター、『ディープ・ブルー』が暴れ回っている。セントレーヌはズタズタに引き裂かれ、海を埋め尽くすほど残骸が漂っていた。
「……やらなければいけない事は1つです。ディープ・ブルーを撃破し、このゲームから完全に削除します。これは重大なバグだと認定するので、私も戦闘に参加します!!」
「そうか…運営殿に味方してもらうとなると心強い。私は動けないので、仲間をよろしく頼む!」
不思議な顔をしてリディはハックの方を見る。表情だけは動かせるものの、ハックは依然として首すら動かせずにいた。
…そして、それにはリディに思い当たる節があった。
「ねぇ、アナタだけどハック。……もしかして、持ってるでしょ?」
「ん?何をだ?」
「いやいや、ここまで来たんだから何の事か分かるでしょ?」
「は?分からんぞ?何の事だ??」
「や、だから…『セントレーヌの涙』よ」
「…………え?」ポカーン
第144話 END
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