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第140話 #5『黒鳥の羽』(ハックSub)






『なるほどねぇ。コレがハックの封印してしまった記憶かい。』


 フワフワと浮かぶ赤いオーブナユルメツ。そのオーブは、空中で掴みあっているロウランとサジリアスの周りを、邪魔しないようにそっと漂っていた。




『……さて、この幻覚もそろそろフィナーレだね。』



 赤い輝きは、切なそうに瞬いていた。











 ロウランは激昴した。


 かつて、自分が信じていたもの。

 最愛なる姉、ユースとサジリアス。彼等は互いを尊重し合い、そして不幸に立ち向かおうとしたが、結果ロウラン自分にそれが強く当たっていた。


 そうだと思い込んでいた。


 だが、事実は違った。



 サジリアスは自分の出世にユースとその魔法を利用し、そのせいでユースは犠牲になった。そしてその後に、今度はロウランを育てて利用して、その魔法を完成させようとした。


 ただ、それだけだった。



 そこにはロウランの思い描いていたような、愛は一切無かった。



「うぐぁぁあ!!サジリアスゥ!!貴様ァ!!!」


 あまりの怒りに顔の皮膚が裂ける。真っ黒に染まった目からは、赤い血の涙が流れていた。


 ロウランの背中に生えた美しい鳥の羽は、悪魔的な形へと変形して行く。



「ひっ!!う、うわぁぁ!!」ガシッ



 首を掴まれているサジリアスは必死に抵抗するも、その手は一切緩まなかった。


「サジリアス!貴様の様な者に相応しい最後を与えてやろう!!」


 怒りに任せてロウランは魔法を放つ。すると、ロウランとサジリアスの足元でグルグルと渦巻いていた黒い砂嵐は、庭園の方に飛んでいった。


「錬金術魔法:『メルティフレグランス』『マグネティブパワー』『マテリアル・オーバードーズ』ッッ!!」


 庭園に向け、錬金術魔法をいくつも放つロウラン。それをサジリアスが恐怖の眼差しで見ている。


「ろ、ロウラァン!何をする気だ!!」

「貴様の罪、姉ユース・ファミア・ブラックスワンの無念は…私が償わせる!!」


「ひっひぃ!!!」






 ロウランが操っていた黒い砂嵐は、庭園の中に消えていった。



 みるみるうちに枯れていく庭園のバラ。すると今度は、庭園に咲く全ての枯れたバラがひと塊となって空中に浮かび上がる。それを見たサジリアスは、途端に暴れだした。



「バラがぁ!!ユースの魔法がっ!!貴様一体何をしたのだっ!アレが無くてはユースの魔力供給貸借(マジック・コンシューマ)がっっ!!」


「貴様には必要無い物だ、どれ、代わりの物を渡そう。」

 ロウランが浮かび上がった枯れたバラに手をかざす。すると、いばらの部分がメキメキと音を立てて変形し出す。


「なんなのだっ!一体何をした!?」


「『状態変化』の魔法だ。貴様の嫌いな錬金術のな。」

「な、なんだとっ!?」

「ガラスの虚像を作り出す時に、もうひとつ別の成分を集めていた。何か分かるかサジリアス?」


 ゆっくりと近寄ってくる茶色く枯れたイバラ。ただでさえ鋭い棘を持つイバラが、まるで有刺鉄線の如くその鋭さを増してしなる。


「ひぃ!いい、嫌だァ!!」


「『砂鉄』だ……砂鉄を集めて居たんだよ。そして、それを溶かし噴霧状に変えた。そして磁力魔法と吸収魔法を利用して、バラの中の水分に鉄を置き換えたのだ」




ギリギリギリィ!!

 ギャリギャリギャリギャリィィ!




 けたたましい金属音。まるで何十人もが同時に剣で争っているかの様な音。

 とても植物が擦れて立てるような音では無い金属音を響かせて、枯れたイバラのひと塊ばグニャグニャと変形しては内側に渦を巻く。


「……安心しろ。貴様はユース姉様と違う所に『落ちる』。だから姉様本人には責められないさ。」


「うわぁぁ!!来るなぁぁああ!!」



「………だから、せいぜいここに居るうちに、私がそれを責めよう。さらばだ、サジリアス・ゼル・ビターイーグル。姉様とお前の愛した薔薇に抱かれて死ぬがいい。」




 ロウランが、そっと…

 優しく手を離した。


 一瞬の浮遊感を感じた後…


 サジリアスはその渦巻く金属のいばらの中へと吸い込まれて行った。





「ぎゃァァアアァァアア!!」


ブシュシュシュゥゥウ!!




 飲み込まれたサジリアスの姿が見えなくなると同時に声はしなくなった。水分の代わりに鉄を中に含んだ金属のイバラが、サジリアスの全身を文字通り『すりおろす』。



 そして声の代わりに、今度は鮮血を彩る激しい水音が聞こえてくる。


 赤く、茶色く濁った大量の液体が、ギリギリ音を立てて渦巻くいばらの中から雑巾でも絞った様に溢れてきた。







「ふはははは。ふはははははは!!!」


 それを見て甲高い声を出して笑う。




 ロウランは本当におかしくて仕方がない。


 自分の今までの辛い人生とは何だったのか?姉ユースは、何の為に死んでしまったのか?



「ふぁーっはっはっはぁ!!!」



 泣きながら笑った。苦しいぐらいに泣いて、笑った。

 途端に力が無くなり、顔を抑えてよろめくロウラン。

 地上に降り立つと、背中の羽は散り散りに破けて消え去った。


 それと同時に、空中に浮かんでいたイバラの塊も地面に落ちる。もはや血なのか肉なのか分からない物が辺りに飛び散った。



 そして、その枯れたイバラの中から一滴も液体が出てこなくなった頃には……




 姉ユースの仇を取ったロウランは、成人ハックになっていた。











「………んっ」



 海の底で、ゆっくりと起き上がるハック。

 傍にはナユルメツが居た。


『アレが消していた記憶で、あんたの闇だね??』


「そう…思い出したんだ。私は怒りに任せてサジリアスを虐殺した。」



『……その後はどうなったんだい?』


「ふっ……その後か?私は後遺症で羽の能力を失ってしまったのだ。サジリアスが殺された事がきっかけでブラックスワン家とビターイーグル家は険悪になり、私はその家名争いに嫌気が刺して家を出た。」


『………それで?』


「錬金術士として、1から出直そうとした。私の苗字を聞いても反応が無いような土地を目指して旅をした。何年も渡り歩いたが、遂に見つけたんだ。大陸のずっと東にある、旅立ちを意味する名の街があると。」


『ファースト・ステップ…ファステだね?』


「ファステにたどり着く頃には既に『錬金術師』として活動していた。そこで旅で貯めた貯蓄を全て使い、錬金術工房を立ち上げたのだよ。」


『なるほどねぇ……それにしても嫌にさっぱりしてるねぇ?』


「…そうだとも」スッ


 ハックは軽々と立ち上がる。


「当時は虐殺やら魔術士として有るまじき行為だと両親からも責められた。…でも、改めて思う。私は私の行いに未練は無い!!」



『へぇ?アレが最も正しい選択肢だったのかい??』

「そうとも!!」 


 ハックは自信に満ちた表情をしていた。自らの闇を受け入れ、飲み込んだのだ。


「姉様…ユース・ファミア・ブラックスワンの為に、そして、それを信じた自分の為にも!!最も正しい選択肢とは、『自らの選んだ選択肢』だと!ハッキリ言おう!!」



 フワッと一瞬、辺りが明るくなった。海底は真っ暗闇ではなく、薄暗い水の色へと変わった。






「おめでとう」

 懐かしい、優しい声を後ろからかけられて、ハックは驚いて振り向く。







 天から降りてきた溢れんばかりの輝きの中に、…『彼女』はいた。




「やっと自分の心を許せましたね?『ハック』」


「ファミ…ユース姉様!!」

 亡くなった時より少し前の、まだ元気だった頃の姿でユースは現れた。ユースはロウランではなく、ハックの名前で呼んでくれた。

「貴方をずっと見守っていました。ずっと後ろめたい気持ちを心に隠していましたね?」


「私は…こんな事をして、姉様に許して貰える訳が無いと思っていました。」

「…でも、それは貴方があなた自身の心を縛っている事に他なりませんでした。そして貴方は自分を許した。本当の意味で、私と貴方を救ってくれました。」


「ありがとう…ございます。ユース姉様」

「さぁ、あなたの本当の力を必要としている人の所に戻りなさい。」

「ですが…姉様!!」


「………それから、サジリアスあの人の事も許して上げなさい。可哀想な人だったのよ。身体が弱くて辛い気持ち、貴方は誰よりも分かっていますよね??」



「そんな…姉様!!」

 堪えきれずに涙を流すハック



「さぁ、飛び上がって。貴方には羽が有るのでしょう??貴方の事を…いつまでも見守って……」


「待って!!行かないで下さい!!姉様ぁ!!」バッ


 ユースの幻影を追って飛び上がるハック。


 しかし、どんどんとその魂の輝きは離れて行ってしまう。


「待って!待って下さい!!」


 海底を走りながら追いかけるハック。



 …そして遂に。



「うううおおおぉぉあああぁぁぁ!!!!」




バサァッ!!!




 ハックの背中に、再び黒衣の羽が戻った。


「ユース姉様ァァ!!」


 羽の力を使い、全速力で追いつこうとする。



 しかし、追いつこうとすればする程、姉ユースの姿は遠く『大きく』なって行く。


「姉様!ユース姉様ぁ!!」




 …そして




ズォン!!



「………うわぁ!!??なんだ!?」




 何か大きな物が目の前に立ち塞がり、慌てて踵を返すハック。もう少しで激突してしまう所だった。


 姉、ユースの姿に重なる様にして現れたのは、巨大な女性を象った謎の物体だった。


「な、なんだコレはッ!?石像…??いや、違う!!」


 見えた物体に向けて、接地式の灯りを灯す魔法をいくつか放つハック。

 …顔だけでハックの身長程はある、女性を象ったかなり巨大な彫像が海底に沈んでいた。


 その女性の彫像は、柱の様な物を掲げており、左右にはそのまま繋がる様にして壁が付いていた。


 掠れるような文字で何か壁に書いてある。

 ハックは恐る恐るその文字に近付いて読み上げる。


「セン…ト、レーヌ……セントレーヌだとッ!?」


 慌ててもう一度確認する。女性の彫像は下半身が『魚』の様になっていた。

 近過ぎて壁にしか見えなかったソレを、今度は離れた場所から確認すると…



「な、何と巨大な…大陸にここまで大きな物があるなんて聞いた事が無いぞ!これがセントレーヌ…世界で1番大きな…」





 ハックは改めてその巨大さに驚く。






航海船人魚……」






第140話 『黒鳥の羽』(ハックSub)END

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