NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第133話 sideA 彼を追う者




 相変わらず、開発チームは残業続きの忙しい毎日を送っていた。


 最も、蕗華とウェンディは別の意味で忙しかったのだが。





─夜、20時を過ぎた辺り。



「んじゃ、お先しますね。あなた達2人も無理しないでよ〜」

「あらソフィ、無理なんてしてないわ」

「こっちはクタクタよ〜差し入れならいつでも良いからねぇ」


 蕗華とウェンディに手を降ると、ブースに最後まで残っていたソフィはエレベーターに乗り込んだ。








「………行ったわね?」

「……えぇ、行ったわ」




 ついに二人きりになれたので、ここから彼女等2人の『仕事』が始まる。



「さ、こっち来て。また分かった事があるの」

「なになに?」


 ついこの前までいがみ合っていた2人だが、日が経つにつれてよりも戻っていた。


「ロジカ、画像が荒くて分かりにくいけど、ここのコーヒーブースの下の方、黒いのが見え隠れしてるでしょ?」

「う…うーん、見えるわね。」




 あまりハッキリとは見えないが、確かに拡大された監視カメラの映像には、人の足下辺りの所に時たま黒い物が見え隠れしている。



「これ、多分だけどスラックスと靴よ。どっちも黒い奴。」

「えぇ?あー、そうかも」



 そう言われて見れば、そうも見えなくも無い。


 ただし、画質があまり良くなく断定までは出来ない。


「でも……誰?黒いスーツ着てる人なんてウチに居ないわよね??そもそも、スラックスとかスーツ来てるのって、外回りの多いアイザック部長ぐらいだよ?」

「そうよねぇ…」


 ウェンディは座っている椅子に背伸びしながら大きく持たれかかる。



「後はプレゼンとか会議がある時のパーマーチーフぐらいでしょ?そもそも黒を使ってる人が居ないのよねぇ。」


 パーマーもアイザックも、どちらもブラウンやグレー系の色を好んで使う。開発チームで働く他の人は基本的に私服なので、この映像に映るようなしっかりとした黒のスーツを着込む人は皆無だった。


「ましてそんな人来たら、みんな注目するわよね??外から来たお客さんかもって。」

「誰も覚えてないのに、このブースに黒いスーツ姿の人って来れる??」




「「う〜〜ん…」」



 蕗華とウェンディは唸ってしまう。



「こんな時にパーマーチーフも出張だし…誰か居ないの?他に話しても良い信用出来る人!」

「そんな事言われても…」



 何が本当で、誰を信用していいのか分からない今、誰彼構わずにこれらの情報を流す訳には行かない。

 しかも産業スパイによってゲームが軍事転用される可能性があるなんて、世の中にですらも流せない情報だ。下手をすればゲームの開発自体が頓挫して、我々全員が一気に無職になるかもしれない。


 こんな時でも頼れる人と聞いて、天馬の顔が浮かんでしまう。蕗華は頭を振って考えを払拭する。




「ま、いいわ。気長に考えましょう。」


 そう言って今日のウェンディは帰り支度を初めてしまう。

「え?もう終わり??」

「しょうが無いじゃない。掴める情報が少ないんだもの。………あ」


 そうだそうだと言いながら、また端末を操作し始めるウェンディ。


「調べたいけど、調べられない物ならあるわ。」

「何?」

「コーヒーカップ」


「コーヒーカップ??」



 ウェンディは映像を指指す。



 すると、このファジャールなる備品係からその死角に居る誰かに紙のコップでコーヒーが渡される映像が流れる。


 ただし、受け取る手までは写っていない。ちょうど死角に隠れてしまっている。

「このカップ?」

「そう、これさえあれば指紋が取れるわ!」




「…………って、え?無理でしょ?」


 確かにウェンディの言う通りなのだが、何ヶ月も前に使われたゴミのコーヒーカップが手に入る可能性なんて完全にゼロだった。


「そ、だから今日はもう進展が無いのよ。」


「なるほどねぇ。しかも指紋って言っても、私達一般人に指紋も取れないし、例えあったとしても調べる手段が無いわ。」

「そういう事よ、あー疲れた。…ねぇ、飲みに行かない??最近仕事も忙しいし、気晴らし行きましょうよ!!」



「…えぇ、うーん、ごめん。もうちょっと残る。」


「ちぇっ!残念!!」


 蕗華がもう一度その映像を見直す。マウスを操作して、拡大しようとすると画面にポップアップが開く。


「うぅ!あぁもうこのポップアップウザったいわね!!」


「どしたの?ロジカ?」

「トラッカーボールのポップアップよ!会員登録してサポートを受けろってしつこいのよ!」


「あぁ、それね。」

 ポップアップを消して画像を拡大する。



「…ねぇ。紙のコーヒーカップを受け取ってるって事は…」


「そう、外から来た人よ。ウチの人間ならみんなタンブラー持ってるからね。」


「だよねぇ……」


 それだけが分かっても何も発展しない。外に居る誰かも何をしているかも分からない人を突き止めるなんて、砂漠に落ちたコンタクトレンズを探すような物だ。


「じゃ、私は帰るから後お願いね」

「ありがとう、お疲れ様ウェンディ!」

「バイバーイ」

 ウェンディもエレベーターに乗り込んだ。


「………さてと、私は…」


 残ると言ったが、これと言ってやる事は思いつかなかった。


 残ったのは、天馬を探す行為を諦めたく無かったからだ。




「よし、ログインしよう。」



 何故か自然にそう思った。1人で調べても効果が無いなら、他に協力してくれる人材達と意見交換した方がいい。そう思った蕗華は誰も居ないブースで1人呟くと、デスクの周りを片付ける。





 この時、ウェンディやパーマーチーフ達の他に嘘偽りなく今の蕗華に協力してくれるのは、画面の向こうのハック達NPCだけだと言う事に蕗華自身も気付いて無かった。




第133話 END

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