NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第129話 sideB 灯台もっと暗し




 リトルに連れられて、岬の先端まで移動したハック一行。

 岬自体は晴れて居るものの、その先数十メートルの海からは大荒れの天気。岬の先端は、天気の境目のようになっていた。



「宝の場所は、この岬にある灯台から西へ51歩、北へ275歩歩いた所に有るってよ!」

 リトルが得意気に話す。







 しかし、どこをどう見ても岬には灯台など存在しなかった。




「君は…来る場所を間違えてはいないか?」

 ハックが最もな事を問いかける。しかしリトルは譲らなかった。


「間違いねーよ!地図で見た岬はここだ!勇者のオレが間違う訳ねーだろ!」

「しかしなぁ…」

「とりあえず、探して見ようよ!」


 タリエルの声によって皆はそれぞれの場所を探しに行った。


…が、ものの数分足らずで終わってしまう。

 岬の先端はかなり高い崖になっているのだが、それ以外にはほとんど木も生えておらず、灯台のような高い建物があったら直ぐに分かるのだ。


 結局何も分からずに、皆先端まで戻ってきた。






 アンジェラが1人、岬の先端で海を見つめている。




「大丈夫か?アンジェラ殿?」


「…ん?あぁ」



 ハックが声をかけるも、何故かアンジェラは元気が無さそうだった。

「…考え事してた。」


「そうか、あまり端まで行くと危険だ。もう少し手前に…っとっとっとぉ!?!?」ザラッ


 ハックは小さい石に躓き、転びそうになる。


「「「危ないっ!!!」」」


 それを見ていた皆が声を上げる。体勢を立て直そうするも、ハックは岬の先から真っ逆さまに…



「…ぐぁ!」ドカッ
「何やってんだハック!!」


 アンジェラが寸前の所で掴みかかり、ハック諸共崖とは反対方向へ飛び戻る。

 落ちはしない物の、無理やり引き込んだので擦り傷だらけになってしまった。


「いたたた…ありがとう!アンジェラ殿!」

「全くもう!危ない事するなよ!!」

「大丈夫!?」

 タリエル達も駆け寄る。

「あぁ、すまない。みっともない所を見せてしまったな。」


「おい!見ろよ!!」

 アンジェラが慌てふためき崖先を指差す。


「どうした?戦士アンジェラよ?」

「何も見えないけど?アンジー何かあったの!?」

「違う!見るのはそこじゃない!」


 アンジェラは立ち上がり、1歩ずつ確かめるように崖先に歩いて行く。

「…何か違和感を感じていたんだ。やはり『何も無い』!!」


「「「え??」」」


 アンジェラの後ろ姿に恐る恐る近寄るハック達。

 アンジェラは崖下の角張って尖った岩肌を指さしている。



「「「………え?」」」


「見ろあの岩肌を!尖ってる!」


「「???」」


「あれだけ海が荒れてるのに、岩肌がゴツゴツしている訳無いんだ!打ち付ける波に揉まれたなら、角は無くなって丸くなる!」


「「「…あぁ!!!」」」


「この岬…崩れて先が『無くなってる』ぞ!!」















 夜も遅くなり、一同は一旦海沿いの街ソラスタまで引き上げる事にした。


 リトルは灯台が無くなってお宝が見つからないショックと、街の中に入ると女性に絡まれるので夜は集落跡地で寝泊まりするといい、ガックリと肩を落として帰って行った。




─ガチャン
「ふぅ、帰って来たぞ。」


「カルガモット殿、おかえり」




 ハック達は1日目という事もあって、今日はソラスタの宿に泊まることにした。ココ最近は長旅で馬車での寝泊りが続いた為、1度リフレッシュする為にも必要経費と割り切って宿を取った。


 皆がそれぞれ身支度や入浴などを済ませている間、カルガモットはソラスタの村長に会いに行っていた。



「村長に話を付けて見つけてきたぞ、数年前のまちの地図だ。」


「ふぅむ…アンジェラ殿の睨んだ通り、灯台はあの岬の先端にあったのだな。」



 少し茶色く滲んだ地図上では、今の岬の形よりも長く伸びていて、その先に灯台がある事になっていた。


「どうやら、前は海が時化てもこの灯台があったおかげでいくらかは漁に出れたらしい。しかし今はそれが無くなり、灯台の灯りも無く本格的に漁に出られていないそうだ。」

「それはこの街に取って由々しき事態だが…誰も解決しようとはしていないのか?」

「みな、人魚の噂を信じて動こうとしないらしい。まぁ、浅瀬で取れる海産物もあるので経済自体は何とか回せているようだ。」

「…ソラスタも大変だな。」


 宿の窓から、遠い海で渦巻く荒れた海を見つめるハック。


 空に浮かぶ更新プログラムの羅列が、まるで星空に見えて不思議な光景になっていた。






「〜〜〜〜!!」
「いや!〜〜!!!!」







「何やら、隣の部屋が騒がしいようだぞ?」

「気にするなカルガモット殿。気にしたら負けだ。」



 カルガモットは薄い壁の向こうから聞こえくる、けたたましい騒ぎ声に気を払った。ハックはどんよりとした表情だ。







「いや!ダメ!!〜〜!」
「いいだろ!〜〜〜!!!」







 …隣の部屋は、もちろんタリエルとアンジェラの部屋だ。前の勇者のようになりたくないハックは、あの手この手を使ってカルガモットと同室を選んだ。





「2人は一体この夜中に何をやっているのだ??」

「ふん、またどうせロクでもない事を…」












「いいからヤラせろ!!!」ドンッ














「「は?」」

 一際大きく聞こえたその怒鳴り声は、ハッキリとそう言っていた。


 ハックとカルガモットは、伝説の魔物かもしくは本物の幽霊でも見たような表情で、お互いを見つめ合った。




「い、今のは「シッ!!聞かなかった事にしろッ」」



 ハックはアイテム袋から魔除のお守りを取り出し、何やら小声で呪文を唱えている。




「いや、聞こえただろ錬金術師!チリードルさんに何かあったのでは?」

「静かに!魔除けの呪文の邪魔だ!」

「しかし…」







「オラァ!さっさと!!〜〜〜こっち来い!!」ガンッ
「いやよ!私は自分を安売りなんてしないわ!〜〜〜!!絶対にヤラせないん〜〜〜!!」ドンッ






「き、聞こえただろう!今のは流石に!!」

「ふぅ…魔除けの呪文は唱え終わった。これで悪しきものの声は私の耳に入らなくなる。」

「おい!錬金術師!!」




 ハックは必死に自らの精神世界に逃げ込もうとしたが、そうは問屋が卸さなかった。


 けたたましい音と共に、服がヨレヨレになったタリエルが泣きながら部屋の中に入ってきてしまった。


「ちっ!!」
「チリードルさん!?一体何が!?」



「うっく、えっく、びぇぇ〜ん!アンジーが無理やり私をぉ〜!!」

 タリエルにしては珍しく、本気で涙を溜めて部屋に逃げ込んで来た。

 ハックはそれを見て盛大なため息をこぼす。

「さ、さぁ、こちらへ。一体何が…」



「ゴラァ!出てこいキャッシュグール!!」ドガァン



 かなりの薄着のアンジェラが部屋に飛び込んで来た。どうやら相当酔っ払っているようだ。


 カルガモットはとりあえずタリエルに自分のベッドの毛布を掛けて上げると、完全に目の座ったアンジェラの前に立ち塞がる。


「なんだぁ〜!?邪魔すんなよカモ領主ぅ!!」

「落ち着け戦士アンジェラよ!一体何の騒ぎだ!!」

「このあたしからぁ〜、ヒック、逃げようったってそうはいかねぇぇんだよキャッシュグール!」


「助けてカルガモット、ハックさん!酔ったアンジーが無理やり私に…」


「な、なんだと!?英雄色を好むと言う言葉があるが…仲間にする事ではないぞ!戦士アンジェラよ!!」


「うるせぇぇ!なんだったらお前があたしの相手するかぁぁ!」

 はだけた服のまま、アンジェラはカルガモットに詰め寄った。流石のカルガモットも目のやり場に困り果てる。


「き、貴様の相手だと!?やめないか、はしたない!!」


 普段ならこのような場でも気丈に振る舞うカルガモットだが、アンジェラの格好と先程から聞こえていた部屋の声にすっかり当てられてしまっている。顔が赤くなり、まともにアンジェラの方を見れないでいた。




「助けて!カルガモット!ハックさん!!」


「よかろう!仲間の為に私が貴様の熱を覚ます!!歯を食いしばれ!」



 カルガモットは諦めたのか、色に疼くアンジェラにビンタをかまして目を覚まさせようとする。



…が、




バチィィィン!!


「何!?」


 カルガモットがアンジェラに放った平手打ちを、アンジェラは対角の手で叩き返した。両者とも、顔面の前で手を繋いでいるような形になった。


「いいじゃねぇかカモ!まずはお前からだよぉぉ!!」

「うぉぉ!?よせっ!!」






 酔ったアンジェラは、その繋いだままの手の形を利用して、剛体術のようにカルガモットをベッドの方向へ投げ倒し…
















 …たのでは無く、そのままベッド脇のテーブルの上に手を組んだまま付いた。









「……は?」

「は?ってなんだよ?」








「おい、タリエルよ。」

「な、何かな?」ビクッ




 ハックがシラケきった表情でタリエルを問い出す。




「…先程、『無理矢理』と言っていたな?無理矢理何をされたのだ?」


「え??えぇ〜っとぉ〜」シラー


「チリードルさん!これは一体何なのですか!?戦士アンジェラは何をしようとしているのだ!?」




「や〜だからぁ〜」テヘッ


「答えろ」スッ


 ハックは氷のような眼差しでタリエルを睨みつける。手には戦闘用の杖を携えていた。



「そ、それはもちろん、花も恥じらう乙女二人きりと言ったら決まってるでしょ??」

「ハッキリ言え。」





「おらぁ!!勝負だカモぉ!!」

 アンジェラは何故か握りしめたカルガモットの手に力を込め始める。


「うぉぉ!?ちょ!ちょっとまてアンジェラよ!」

「そっちが来ないなら行くぞゴラァ!!」ビターン!


「いっった!!何をする!!」


 アンジェラはカルガモットの組んだままの手を机に叩き付け、歓喜の声を上げている。


「か、賭け事しようって話になったんだけど…アンジーったら、腕相撲じゃ無きゃ勝負しないってさ!」キャピ





 やっと意味が通じて、やはり下らない事だと首を振るハック。






 どうやらタリエルはいかがわしい事ではなく、酔っ払ったアンジェラに無理矢理『腕相撲』をさせられそうになっていたらしい。



第129話 END

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