NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第123話 sideA 彼、という人物



 ─あの会合があった次の日。



 時刻は夕暮れ、場所はパーマーの行きつけダイナー、『ウェストブリッジ』



「さて…」


 コーヒーを飲むアイザックが話を進めようとするも、皆静かだった。

 ピザを食べる時は幸せじゃなければならない、と言うのが信念のウェンディも、浮かない顔をしながらピザを食べていた。

「誰か、新しい発見があった人は居るかな?」


「「「…………。」」」


 皆、黙りこくってしまった。



 1日経ったと言うのに、収穫はゼロだった。蕗華に至ってはあまりにも日常業務が忙し過ぎて、ほとんど捜索に時間を割くことが出来ないでいた。


「思い通りには、中々行かないものさ。」

 アイザックは空気を変えようと皆を励ますが、乾いた笑いになっただけだった。


「では、まずは現状報告をしよう」

「「「はい。」」」



「では、私からします。」

 最初に口を開いたのはパーマーだ。

「えーっと…人事部に確認した所、人事部では通常通りの手順で辞めた為に特に疑問に思っている事は無いようです。…他の部署でもやはりストレスが原因で多くの人が出入りしているみたいで…正直そこまで覚えていないそうです。」


「そうか。」

「…でも彼、テンマの奴。どうやら辞める直前にバリスタ(コーヒーメーカー)を壊してたみたいで…その修理費だけは覚えてた見たいです、人事部の人。トホホ」

 そう言ってパーマーは1枚の領収書を出す。125ドルの記載と、パーマーのサイン付きで。

「それは…済まなかったねパーマー。サインされているならばもうその料金はウチでは立て替えられない。」

「で、ですよね〜アイザック部長」ガックリ



「じゃあ…今度は私が。」

 今度はウェンディが語りだした。


「今日はとりあえず、ロジカの代わりにデバッグプレイを一日中してたんですが…残念ながら不審なデータは見つけられませんでした。」

「うん、ありがとう」

「そもそも、あるはずの無いデータを探すってのがとにかく手間で…今は闇雲に手当り次第確認しています。」




 数秒の間の後、ウェンディは手に持っていたビールの瓶の残りを一気に飲み干す。


「……っくぁ!!ちくしょーテンマの奴〜!!面倒な事巻き込みやがって〜!出てきたらガーリックポーク食べた口で30回はキスしてやるんだからァー!!」

 余程今日の探索が応えたのだろう。ウェンディは珍しく少ない本数で酔っていた。


「ウェンディ、探しているのはどう言った所なんだい?」

「えぇ?えーっと…ダンジョンが隠せそうな所とか、マップとマップの間に出来たデッドスペースとかですかね?」

「ふむ…」

 アイザックは考え込んだ。


「逆に…考えてみよう。ロジカの見つけたロケーションは、通常プレイヤーが入り込めないような空間だったのかい?」

「え?それは…限りなく不可能に近い条件ではありますが、ゼロでは無いです。」

「やはりね。」



「「「え?」」」


 3人はキョトンとした。アイザック部長が何の事を言っているのか分からなかったからだ。


「思うに…あの場所は、テンマ本人に見つけさせたかったからそのような設計にされていたんじゃないか?」




「「「……あぁ!!」」」

 3人は思った、そう言われてみるとそうだと。

「つまり…テンマの探し出せそうなアラを見つけて、そこを探しこんで見ればあるかも知れないんですね!?」

 ウェンディはメモを取り出し、猛烈に書き込んでいく。ゲームデザイナーにとって、今浮かんだアイディアというのは何よりの宝だ。そしてそのアイディアとは、何時思いつくのか確かでは無い。その為、常にメモを持ち歩いている。


「うっひょお!!これで明日からの仕事が捗りますよ!ありがとうアイザック部長!ハグしてキスしても良いですか!?」

「ハハハ、今度にしておくよ」



「こんな時…いつも革新的なアイディアを生み出す奴がいないと、ホンットに困るわ〜……あ」


 それは、不知火天馬を指していた。


 そして、ここに集まる皆が1番痛感している事でもあった。



「あの……ごめんなさい」


「良いんだよ、ウェンディ。…我々も彼に甘え切っていたんだろうね。彼の発想に。」




「「「………………。」」」





「さて、気を取り直して今度は…」



「あ、ハイ。」

 蕗華の番が回ってくる。

「すみません。私は今日ほとんど調べられなくて…一応、部長からもらった連絡先を調べたんですけど、日本にある警察署の固定電話からかけられているってのまでは分かりました。その…インターネットで。」

「うん、ありがとうロジカ。大きな収穫だ」

「ごめん…なさい」


「気にする事は無いよ。皆それぞれが自分のポテンシャルで戦っているんだ。辛い時はお互いサポートしなくてはね。」


「はい…」


 蕗華は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。言い出しっぺの自分が、1番何も調べられていない。


「と、とりあえず!今日は既に収穫があった訳だ!!みんなでそれを祝おう!」


 パーマーチーフがわざとおどけて賑やかな振りをする。


「そうよ!まずは私達のモチベーションを上げなきゃね!」

 ウェンディもそれに乗りかかる。



 そこに、丁度料理が運ばれてきた。パーマーチーフおすすめの、「ジャーマンポテト&フィシュフライ盛り合わせ」だ。


「ワァオ!いつ見ても凄いボリューム!」

「よし!…えーっと!すいませんバドワイザー4つ!…新しいビールで乾杯しよう!」


 栓が空けられたビールが4つテーブルに出されて、パーマーチーフがチップを払う。

「それじゃあ!今日の苦労と明日からの僕達の栄光の為に!かん「オイ!パーマーじゃないか!!」」


「え?あぁ!リンドさん!」

 乾杯のタイミングで、パーマーは誰かに話しかけられた。ウェンディ、蕗華、アイザックの知っている人物では無かった。

 席から離れ、ひとしきり世間話をすると、パーマーは帰ってきた。

「いやいやごめん!丁度知り合いが居てさ!…凄いよな?聞いてくれる?」

「何?どうしたのチーフ?」

「高校時代にバスケットを教えてくれた人なんだよね、リンドさんって。もう何年も前の話だけど、ついこの間別のバスケットチームのコーチとして彼が写真に写っているのを見つけてさ。もちろん『Bluebird』でね!」


 Bluebird(ブルーバード)とは、世界規模で使われているSNSの1つで、誰でも簡単に情報を発信できるアプリケーションソフトだ。青い小さな鳥のアイコンで有名である。


「その時その写真のコメントに、この人に僕も教えてもらった事がある!って残したんだけど…なんと本人と繋がってさぁ!そしたらなんと1ブロックしか離れてない所に住んでるってのが分かったんだよ!!」


「へぇ〜〜凄い偶然ねぇ!」


「いやぁホント世間って狭いよね〜!あ、ごめんみんな!乾杯の途中だったけど…どうしたの?ロジカ?」


 蕗華は物凄い表情で固まっていた。




「と、友達!!」



「「「え?」」」





「天馬先輩の!友達!!誰か知ってる人いる!?」





「「「………あっ!!」」」ガタン


 全く持って、発想の中に無い事だった。


 社内に行方を知っている人が居なければ、社外の交友関係で知っている人が居るかも知れない。


 ついあの誹謗中傷の所為で内部の犯行と言う視野に捕らわれていたが、ここの中で得られる情報が少ないのなら外に目を向ければいい。

 彼が居なくなったショックでそんな事も思い浮かばなかったのだ。


「そうだ…そうだよ!テンマの友達なら知ってるかもしれない!」


「良くやったよロジカ、いい発想だ。」

「じゃあテンマ先輩の知り合いに片っ端から…」

「待って」


 それを、ウェンディが止めた。



「ねぇ?あの妙ちきりんなプログラムの天才に、誰か話しかけてる所見た事ある?」



「……あ、」


 蕗華は固まってしまった。


 同じ部署の人間でさえ、今ここに居る我々4人以外に不知火天馬に話しかける人物はいなかった。

 何故なら、彼の話はとても理解しにくいからだ。


 本人は自分の中で答えが分かっているため、言葉の端々を略して会話する癖があったのだが…慣れていないと、それは全く人に通じなかった。

「そっ、かぁ。天馬先輩だって事忘れてたぁ〜」


 ふにゃふにゃと机に伏せる蕗華。

「…ねぇ?あなた1回天馬の部屋に行ったこと無かったっけ?」

「あ、あります…デスクトップ運ぶの手伝えって言われて入りました。…でも、その時部屋の中に1枚も写真無かったんですよ。それについて会話してたんで覚えてます。」


「あちゃ〜」

「テンマの部屋には1枚も写真が無かったのかい?」


「はい…家族の写真もありませんでした。」

「そう…か。ふむ」

「何?じゃあまた振り出し!?もう期待させないでよロジカァ!」




「………ちょっと待って!」



 眉毛を釣り上げ、ひたすらにスマホを打ち込む蕗華。


「何してるの?」

「ブルバーです!…っと!やっちゃいました!!」


 悪い顔に、Vサイン付きでスマホを見せてくる蕗華。その画面には…


「おいおい良いのかよテンマ怒るぞぉ!?」

 パーマーチーフは頭を掻きむしった。蕗華は、天馬の写真をBluebirdに載せてこうコメントを打った。





「探し人。知ってる人いますか?最初に名前が分かった人に25コイン」



「あーらロジカ!やっちゃったわねぇ〜!でもテンマ、いい気味よ!うふふ!」

 ウェンディはコレを見て笑った。パーマーは焦った。



 何故なら、天馬はこの手のSNSに自分の情報が上がるのを病的に嫌がるからだ。

「…ふぅ、さてちょっとした鬱憤も先輩に返せた事ですし、飲み直しましょう!」

「「さんせーい!」」

「では、今度は私が」

 アイザック部長が席から立ち上がる。


「我々に途方もなく困難な道程を残してくれた友人に!」

「「「友人に!」」」


\キュポン/ ガチャン



「「「……ん?」」」



 今、確かにグラスをぶつける前に音がした。


Bluebird独特の、『通知音』だ。



「うそ…でしょ?」



 蕗華は自分のスマホを覗き込む。





そこには…







「知ってる。テンマでしょ?昔付き合ってた。てかアンタ誰?」




第123話 END

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