NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第122話 sideB 選択肢と可能性
リディと別れてから、何日か経過した。
魔導エンジン付きの馬車とは言え、ハックの魔力にも1日の走行距離には限度があり、やっとの事で次の目的地まで差し掛かる事が出来た。
「えーっとぉ?確かこの山なんだよね?曲がる所。」
タリエルが目の前にそびえ立つ大きな山を指差す。
「そうだ、あの『コウロン山』を向かって右側に進めば、山間の谷の中にサイカ殿の故郷、『ヒガンの里』がある。…反対に、左に進むと海沿いの街に出るらしいな。」
「海かぁ〜私まだ見た事無いんだよねぇ〜!いいなぁ〜!」
「タリエルよ、遊びに来た訳では無いのだぞ?」
「わかってるよォ!ハックさんの意地悪!」
ハックとタリエルが馬車の近くで言い合いをしている。山の手前には大規模なキャラバンのキャンプ地があり、そこで休息と物資調達を行っていた。
「ふぅ!水と食料はあらかた手に入ったぞ!」
買い出しに行っていたカルガモットが馬車まで帰ってくる。
「戦士アンジェラは…まだ来ていないか。」
「アンジーは装備品見に行ったって!もしかしたらもっとかかるかもよ!」
「なるほど…そらっ!錬金術師!」ポイッ
「うおっ!とと!」ガシッ
カルガモットはハックに紫色の液体が入った瓶を投げ渡す。
「差し入れだ。丁度よく調合師が居たものでな。これで英気を養ってくれ」
それは、MPを回復させるアイテムだった。
「…済まないな、ありがとうカルガモット殿」
「気にするな、御者を代わる訳にはいかないからな。これぐらいはさせてくれ」
ハックの顔は元からダークエルフ特有の青色をしているのだが、魔導エンジンにひたすら魔力を注ぎ込んでいる為か更に青くなっていて、目の下にはくまが出来ていた。
「……うぉぉぉい!!こっち来い!!」
「「「ん?」」」
遠くでアンジェラが手を振って、こちらに来いと叫んでいる。
「どうしたのだ?」
「なんか慌ててるね?」
「いいから早く来いって!!おーい!!」
皆はアンジェラの元に行くことにした。
─ ─ ─ ─ ─ ─
「おいっ!さっきの話、もっかいみんなにしてくれよ!!」
アンジェラは大柄な戦士の一団を捕まえて、何やら興奮気味に捲し立てている。
「いいけど…いてて!お前ホント馬鹿力だな!」スリスリ
「ど、どうしたの?この人達?」
「ん?あぁ、良い武器持ってたから腕相撲で勝負して譲ってもらったんだよ!」
「「「え、ええぇ」」」
「それよりもさっきの話だよ!」
大柄な戦士は腕を擦りながら答えた。
「この山、海沿いに出る方向に行くと、ソラスタって街に出るんだけどよぉ。どうやらそこの海辺には人魚が沢山出るみたいなんだ。」
「「「人魚!?」」」
「あぁ、人魚が沢山出るって事は…つまりアレがあるかも知れねぇって話だ」
「アレ、とは何の事だ?」
「知らねぇのか兄ちゃん達?『魅惑真珠の貝』だよ!」
「魅惑真珠の貝ィィ!?!?」ガバァ
タリエルが猛烈に食いつく。
「魅惑真珠の貝って!とんでもないお宝よ!」
「まぁ…それはソナタの食い付き具合を見れば分かるが…それ程の物なのか?」
「だって!!それから魅惑真珠が取れるんだもん!1粒2万ゴールドはするわよ!!」
「「「2万ゴールド!?」」」
「まぁ、あくまで噂だけどなぁ。そんじゃま、俺達はこの辺で」
そう言うと戦士の一団は帰って行った。
「アンジー!ナァイスな話を掴んでくれたわ!!」
「しかしな…我々には向かうべき先がある。確かに、勇者殿なき今は財政的にもキツいが…」
「何言ってんのハックさん?」
「「「え?」」」
「1粒2万よ?ひとつぶ!」
「いやそれは聞いたが」
「ふふーん!ならこれはどう?…その貝は、一定時間毎にアイテムをドロップする。」
「「「………は?」」」
しばし沈黙が続いた。
「「「ええぇ!?って事は!1粒2万ゴールドを何回も取れるのか!?」」」
「いっしっしー、まさにその通り!」ニヤニヤ
ハックは目眩を起こして倒れそうになった。勇者〇〇の無限100ゴールド財布ですらも、かなりの恩恵だったと言うのに、その何倍もの大金が手に入る。
それを考えると、心が揺らいだ。
「うっ…うぐぐぅ…!!」
「ほらほら〜?行きたいでしょう?海沿いの街にぃ〜!」
「いや!ダメだ!!!」
ハックは寸前の所で理性を保った。
「我々は仲間を再び集めて、勇者殿を探しに行くのだ!それまでにおいて全ての優先事項は、1、仲間を集める!2、勇者殿を探す!だ!!」
ハックは無理に叫んだ。
…そうでもしないと、海沿いの街へと出発してしまいそうになる自分の足を抑える為に。
「う〜〜ん。もぅ、わかったよ!…マルたんの為なら仕方ないもんね。」
「…え?なんだ…その、嫌にあっさりと納得するのだな?」
「え?」
「え?」
「「「…………………。」」」
痺れを切らしたカルガモットが声をかける。
「あーゴホン!と、言う事で我々はヒガンの里に向かう。それでいいな?錬金術師」
「あ、ハイ」
「なんだよもう少しいい生活が送れると思ったのになぁ〜〜せっかく腕相撲で勝っていい情報手に入れたのにぃ」
露骨に悔しがるアンジェラ。
「そもそも、我々には本当にあるかどうかも分からない物を追いかける余裕は無いのだ。行くぞ。」
「「「はーい」」」
せっかくの儲け話を不意に振った事によって、チームの士気はだだ下がりだった。
そこに、先程の一団が馬に乗って通り過ぎて行く。
「おーい!」
「ん?」「あぁ、さっきの」
「海沿いの街に行くなら気を付けろよ〜!最近この辺りに『リトル勇者』ってのが出るみたいだからなぁ〜!」
「「「はぁぁぁぁ!?!?」」」
戦士の一団は、それだけ言い残すとあっという間に通り過ぎて行った。
第122話 END
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