NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第121話 sideA 彼を求める仲間




「………はぁ」ガタン

 ゲームからログアウトし、座席から起き上がりゆっくりと立ち上がる渚力蕗華(しょりきろじか)リディ・ドレイアム

 憂鬱な表情を浮かべて、テストルームを後にする。


「ウェンディ、ちょっといい?」

「あれ?ロジカもうテストから戻ってきたの?」


 ブースに戻るとまずはウェンディに話しかけた蕗華。そこに…

「おや?ロジカ君?夜まで戻ってこないかと思ってたけどもう来たのかい??」

 たまたまパーマーも居合わせた。

「チーフ!ちょうどいい所にいました!…今からアイザック部長の所に行くので、二人共付き合って貰えませんか?」


「「いいけ、ど??うん??」」


 蕗華の突然の申し出に、二人共ハテナマークが付いたまま、アイザック部長のオフィスに入って行った。






─ ─ ─ ─ ─


「…おや、どうしたんだい?」


「えーっと…何やらロジカ君から話があるみたいで…」

「部長、ちょっとよろしいですか?」

 神妙な顔付きの蕗華を見て、ただならぬ雰囲気をアイザックは感じ取った。


「分かった。先ずは座って話そう」


 アイザックは自分のデスクから離れて、来客用のソファーに移った。皆もそれに合わせてソファーに腰掛ける。

「デバックプレイ中に、ゲーム内で嫌な物を見つけました。」

「「「え!!」」」

 流石に開発陣だけあって、その話題には食いつかざるを得ない。

「ふぅ、ロジカ。…それは、発売に影響を及ぼすような事があったと認識して良いのかな?」

「直接には影響しないと思います。…ですが、我々には大きな問題です。」

「そ、そうか!いや〜僕はてっきりとんでもないバグでも見つかったかと思ったよ!!」

 とりあえずは胸をなで下ろすパーマー。

「バグ…そうですね、バグには違いないと思います。」

「ロジカ?何を見つけたの??」

 ウェンディが心配そうな顔で聞いてくる。

「…スクショしてきたので見せます。ただし、あまり気分の良いものではありません。でも、見る前に1つお願いがあります。」



「その、お願いとは?」

「天馬先輩の事です。正直に教えて下さい。『誰かに恨みを買っていたのですか?』」

「「「…え?」」」


 蕗華は自分の液晶パッドを取り出し、そこに映っている物を皆に見せる。


 残念勇者の墓、その最奥にある棺の間だ。壁全面、並びに棺の外にも内にも隙間なくビッシリと書き込まれている。





 不知火 天馬しらぬい てんまに対する、罵詈雑言の数々だった








「ひっ」「うへぇ」「………。」





 ショックを受け、小さく悲鳴を漏らす3人。



「……ロジカ。コレを私達に見せたという事は?」


「私の最も信頼のおける、天馬先輩の友人だからです!」

 蕗華は目に涙を溜めて訴えた。



「…そうか。教えてくれてありがとう。」


 アイザック部長はデスクに戻り、引き出しの奥からウィスキーを取り出すと、グラスに継いで一気飲みした。


「……ふぅ!落ち着いた。では話すとしよう。」

 ソファーに戻り、座り直すアイザック。

「まずは、この事について知っている事を話してもらいたい。パーマー、君は何か知っているか?」

「いやぁ…その、こんな事初耳でして…ちょっと分かりません。」フルフル

 パーマーチーフは震えていた。無理もない、気の弱い誰にでも優しいパーマーにとって、あの悪口の数々は彼の精神を大きく削っていた。

「ウェンディ、君はどうだ?」

「私も…分かりません。確かに、彼はこの分野において天才的でした。そのせいでシステムメンテナンス陣とは上手く行ってなかったのは確かですけど、ここまで恨まれているとは思いません。」

 ウェンディは気丈に振舞っていた。いつでもその体格同様、どっしりと構えるタイプの彼女は落ち着いて物事を考える事に定評を受けていて、焦らず、迅速に対応出来る人だ。

「ロジカ、君は…1番彼と接していたポジションだ。何かきっかけになる様な事に覚えはないかい?」

「わかりません。…本当に信じられません。彼が恨みを受けていたなんて。」

 蕗華も最初は気丈に振舞っていものの、少しづつ涙を流し始めていた。

「………そう、か。」

 アイザックは顔に手を当てる。

「彼の退職についてだが、当人からの申し出と、書類に不備も無く正式に受理された。しかし彼はその理由について何度聞いても答えてくれなかった。」



「「「…はい。」」」


 それについてはみんな知っていた。アイザック部長よりも先にその事を聞いていたからだ。

「だから、彼に関する情報と言う物は一切手元に無いし、コレを話すのはある意味コンプライアンス違反となる。だからこの話は聞かなかった事にして欲しい。」

「何ですか!?何か知っているんですか!部長!」

 食い気味に詰め寄る蕗華。



「すまない。何も知らないんだ。そして、彼の行方を探しているのは我々だけではない。」



「「「え?」」」



「ニホンの警察もだ。シラヌイ・テンマについて聞かれた事がある。」


「「「……ええぇ!?」」」ガタンッ


 『警察』と言う言葉を聞いて、皆驚く。




「どうやら…居なくなったと言うのは本当らしい。彼の家族が失踪届を出したとか。それで1度だけ警察から連絡が来た。」


「それで?アイザック部長はなんて答えたんですか?」


 ウェンディがアイザックに聞く。

「正直に答えたさ。住んでいた場所も聞かれたので教えた。しかし…皆も知っている通り、彼は退職前から住居を移していた。」



 不知火天馬は引越した。それも全員が知っていた。


 何故なら、退職が分かった後、連絡の取れなくなった彼に会いに行こうとちょうどこの3人でアパートを訪れた事があった。しかしそこには既に別の人が住んでいて、退職の2、3ヶ月前には出ていったらしい。




「失踪の調査が来たのは、あのテストプレイの後だったかな。日付は忘れたが、メモを見れば分かる。」



「テンマァ〜!何やったんだよお前〜!!」

 パーマーはついに泣き出した。


「そ、その連絡来た人って、分かります!?」


「あぁ、連絡先を受けている。…しかし、この人は直接会った訳でもないし…私は正直言って彼の失踪を伝えた事を後悔している。」

「え!?どう言う事ですか!?」

「連絡が来たのはそれっきりなんだ。普通なら何か進展が無ければ、何回かこっちにまた電話が来たりしてもおかしくないだろう?それに、君達にだって連絡が行ってもおかしくない。」


「確かに…変ですね」

 ウェンディが首を傾げる。

「だからこの連絡先には連絡しない事にしたんだ。彼が不利な状況にならない為にも。」


「…分かりました、慎重に調べます。」


「さて、話は変わるが、この写真のロケーションは何処だい?」

「えーっと…ザゥンネ領になります。本来その場所にはこのようなダンジョンが設定されてない場所でした。」

「─今も有るのか?」

「……私の独断でしたが、全て消去してきました。スクショだけして。」

「…良かった。発売以降にこんな事が発覚しては会社を揺るがす一大事だ。」

「な、なぁ!もしかして……他にも有るのかなぁ!?」


「わかり…ません」ギュッ

 パーマーのその質問に、蕗華は手を握りしめた。



「よし、こうしよう。」


 アイザックは立ち上がり、ホワイトボードに書き出した。



「ロジカ、ウェンディ。君達2人には、優先的にテストプレイの申請が通るように指定しておく。だからこのような誹謗中傷がもし見つかったのなら、証拠集めとそれらの除去をして欲しい。」


「「はい!!」」


「パーマー、君には荷が重いかも知れないが…人事部と交流を多く取ってくれ。気の優しい君なら怪しまれない。何か社内におかしい噂や、態度の悪い人間が居ないか調査して欲しい。」

「わ、分かりました」

「私は、システム部や運営チームにそれとなく情報収集をしてみる。そうだな、定期連絡でコンソールを使うのは辞めよう。ただし、ここに毎回このメンバーが集まると怪しまれるから…」

「決まった日に、パーマーチーフの行きつけのダイナーでどうですか?それなら社員交流って事で怪しまれないと思います!」

 ウェンディがドヤ顔で指名する。


「いいね。ではそうしよう。…あくまで日常業務が優先ではあるものの、皆、気を引き締めて取り掛かってくれ。」

「「「はい!」」」


「彼は…テンマは今、もしかしたら困った状況に居るかもしれない。それを良く考えて皆行動するように。いいかな?」

「アイザック部長…ありがとうございます!!」


「…我々の、『友人』の為だからね。」



「「「はいっ!!」」」




 こうして、開発グループ内で不知火天馬への調査チームが組まれる事が決定したのだった。


第121話 END

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