NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第119話 #8「剣」の、達人(カルガモットsub)




「…なんと、姫君は天上人ゲームクリエイターであったのか…」


 ここはカルガモットのキャンプ地。

 ハックから事の経緯を聞いたカルガモットは、大きく天を仰いだ。

「そうだ。多分だが、リディは我々NPCをクリエイトする立場の人間だったのだと思う。さすがにそうでなければ貴族の真の名など知る由もないからな。」

「ハッキリとは覚えていないが…彼女の顔は見た事がある気はしていた。本当に…この大陸では何が起きても不思議ではないな。」

 色々と思う所があったのだろう。カルガモットは神妙な顔つきで考え事に耽っていた。


「なぁ!そろそろ良いだろう!!」

 アンジェラが食い気味でカルガモットに迫る。

「何?どーしたのさアンジー?」

「何の用だ?戦士アンジェラよ」

「ユーシャの事も伝えたしさぁ!!さっきからこっちは滾って仕方ないんだよ!!ヤろう!!カモ領主!」

 顔を真っ赤に染めてカルガモットに詰め寄るアンジェラ。それを見てヤレヤレと言った表情のハック。

「…アンジェラ殿は、カルガモット殿の『槍の作法』について手合わせ…」

「いい、皆まで言わなくても分かる。」

 渋い顔をしてカルガモットはシルバースピアを手に取り、少し離れた場所に移る。


「…全力の、本気の本気で殺すつもりで掛かってこい。チャンスは1太刀だけだ。」



「おうよ!!!!」

 まるで恋する乙女の様に頬を赤らめ、期待に胸を膨らませるアンジェラ。それとは対照的に、冷めきった反応を見せるカルガモット。




「…剣に指を掛けたなら、それは『戦闘開始』の合図と見なす。」


 カルガモットはあえて槍の穂先を低く構えた。それは、相手に手加減しているという意味だ。

「…フン!!ジョートーだ!!行くぞ!!」



 アンジェラも加減されている事に怒りを露わにする。深く腰を据えて、居合切りの姿勢を保つ。





「ふぁ〜あ、何やってんの?アンジーも好きねぇ」モグモグ

「放っておくのだ」ゴクン



 緊張感張り詰める2人とは違い、のほほんとドラゴン肉を食べるタリエルとハック。















「でりゃぁ\バツンッ/ぁぁぁ!!」






 アンジェラは確かに抜いた。


しかし、それよりもっと早く、カルガモットの放つスピアが、アンジェラの頬を掠めて飛んで行った。




「……くぁっ、かはぁ!!ゼェゼェ」ガクッ



 アンジェラは崩れ落ちた。大怪我等はしていないものの、頬には切り傷が一線入ってしまった。髪も数本切れた。ただ、それよりも『傷が付いた事すら気付かなかった』事の方が、ショックは大きかったのだ。



「ちょっと!危ないじゃん何してるのよ!!」

 あまりの様子にタリエルがアンジェラに駆け寄る。


「ふん、戦士アンジェラとて戦うとなれば、無傷で帰れるとは思っていまい。」

 そのカルガモットの発言に怒ったタリエルはカルガモットの尻を蹴飛ばした。

「あんたねー!!女の髪切ったんだよ!!何ふざけた事言ってんのさ!!!」ドンッ

「…チリードルさん、これは戦闘職の世界の話です。貴女には難しいかもしれない。」

「だからって!!」


「キャッシュグール、やめてくれ。捌けなかった私が悪い」

「で、でも!」

 アンジェラは立ち上がり、身体の埃を払った。そしてカルガモットの方を向いて、姿勢を正して礼をした。

「…うしっ!ありがとうございます!!」


「ん?あぁ」


 怒って掴みかかって来ると思っていたカルガモットは拍子抜けしていた。


「カモ、凄い腕だな。どうして今まで隠した?」


「…私は、槍という槍に愛されていたのだ。この世に生まれ落ちてから。」

「「……え?」」




「槍を持つべくして産まれたと言っても過言ではない。それ程槍の扱いに長けていた。だが……私は騎士だ。私には槍の技術だけでは足りないのだ。」



 カルガモットは暗い顔をした。


「…そして、生まれ持った運命だけでは無く、自分が何かを実力で掴み取れるという事を証明したかった。」


 ギュッと拳を握り締めるカルガモット。彼は成人を迎える前にスピア格闘杖スタッフ騎乗槍ランスのスキルのほとんどを取得してしまっていた。それは通常では考えられないスピードなのだが、彼の生まれ持っての称号付きスキル、『杖に愛された騎兵スタッフ・ラブド・ヴァルキリー』が彼の運命を縛った。父である先代ザゥンネ領主も、カルカルガモットは槍の道で生きていけと彼の人生を細めてしまった。

…その結果、カルガモットは剣も槍も使える騎士の最上級職業とされた、伝説でありザゥンネ家の先祖にも当たる『勇者』という職業に強く憧れたのだ。自らには決まった運命など無いと言うことを証明する為に。







─その為に彼は、『剣の』、修行を行っていた。本当は槍なら何にでも勝てる。だが、槍での勝利はカルガモットにとって自らの可能性を否定する事になるからだ─







「………なるほど。だからユーシャとの戦いでも、槍を出さなかったのか。」


 アンジェラはニコリと笑うとカルガモットの胸を拳でチョコンと小突いた

「やっぱすげぇ、アンタ。悔しいけど、槍どころか、剣でも適わない。」





「…フフフ、ありがとう。戦士アンジェラよ。」


 アンジェラの、技術に対する賞賛を受けて、カルガモットも素直にそれを受け止めた。


 優しい笑顔だった。







「………しかし、これは凄いな。」


 ハックが木に突き刺さり、中ほどまで貫通して止まっているシルバースピアをまじまじと見つめる。それは先程カルガモットが投げた物だ。


 タリエルも近寄り、その槍を引き抜こうとするがビクともしない。


「うんしょ!!うーん!!!!…はぁ!全然抜けないよどうなってるの??」


「チリードルさん、私の投げた槍には『貫通属性』が付きます。」

「貫通!?こんな太い木も貫いちゃうの!?凄いね!」

「…わたしにとっては、息を吸うのと対して変わらないんですよ。……本当に。」ズボッ


 軽くスピアを引き抜くカルガモット。その顔はまた曇った表情に戻っていた。




(しかし…凄いと言う表現で事足りるのか?これは)



 ハックは別の木を触って見ている。先程スピアの突き刺さっていた木の手前に生えていた木だ。



 指より太い程の穴が空いている。










『つまり、カルガモットの放った槍は、手前の木を貫通して、次の木をも貫いて止まったと言う事になる』











 音も聞こえずに、木々を対して揺らす事なく槍は貫いた。そんな事が人の能力で可能なのか?




 槍に愛されるとはどう言う苦悩なのか。ハックはその空いた穴を見て、少しおぞましさを感じていた。





「わきゃああぁぁぁ!!!」




 突然、けたたましい奇声が馬車から聞こえてきた。




「「「あ、忘れてた」」」



 その声は馬車で気絶していたリディだ。キレイホースに足を舐められて、それに驚き飛び起きたのだった。


「何!なんなの!?馬!?あ!ドラゴン!ドラゴンは!?!?」



 今まで寝ていたからうるさく無かったものの、飛び起きてそうそう騒がしくするリディ。



 カルガモットが近付き、優しくリディの頭を撫でて、ニコリと満面の笑顔を見せる。


「安心して下さい。ドラゴンはこのカルガモットが討伐しましたから。もう大丈夫です。」


「ふぇ!?あ、ありが…とう。」

 カルガモットの仕草に赤面するリディ。




「……おいおい、良いのかキャッシュグール?」

「そうだぞ?このままでは危なくないか?」


「へ?」

 アンジェラとハックがニヤニヤと笑ってタリエルに近付く。




「アンタの白馬の騎士カルガモット、うかうかしてると新入り魔法使いリディに取られちゃうよ?」






「ムッカァァ!!!あんな奴!どーだっていいっつーの!!!!」



 タリエルがハックとアンジェラを追いかけ回す。それを見てリディもカルガモットも笑っていた。






「なぁ、そう言えばどうしてそなた等はここに来たのだ?まさか私に会いに来た訳でもあるまい?」








「「「あ!!!!!」」」



 タリエル、アンジェラ、ハックがカルガモットに詰め寄る。


「「「そうだよ!忘れてた!!」」」


「ど、どうしたのだ?皆よ?」




「「「残念勇者の墓!!」」」



 カルガモットはその聞きたくない言葉に、また顔をしかめたのだった。



第119話 END

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