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第118話 #7「剣」の、達人(カルガモットsub)


「ハックさん!!どーすんのさ!!」


 タリエルは慌ててハックに詰寄る。

「どうするも何も、援護に行くしかないであろう!行くぞ皆!」

「待てっ!!」

 馬車のスピードを上げようとするハックをアンジェラが制する。

「何故だッ!?何故止める!?」

「奴は…カルガモットは任せるって言った!この状態でそれを言うって事は、何か危機を抜ける手段がある筈!」

「し、しかしだな!」

「…前からずっと気になってた。剣を持ってる時のアイツの違和感!!それが見れるかもしれない!!」

「「なにぃ!?」」


 サイカの訓練中、闇夜でカルガモットと手合わせしたアンジェラ。その前にもカルガモットとは対決していたが、同じ剣士としてアンジェラは感じ取っていた。





 カルガモットは「剣術」に関して何か隠し持っている。剣を合わせたからこそわかる、何かの『違和感』。






「…さっきのカモ、武器持ってた??私一瞬だったけど何も持ってなかった様に見えたんだけど!?」

「私も見てない!」

「な!?アンジェラ殿、ならどうして!?」

「…だからだよ。」

「「えっ!?」」

 どんどん遠くに離れるカルガモットを見つめるアンジェラ。

「見よう、あの男がドラゴンをどう捌くのか。奴の底力を見るいい機会だ!!」

「………あぁもう!これだから戦闘職は理解が及ばなくていけ好かないのだ!!取り敢えずはすぐ手を出せるまでの位置には近付くぞ!」

「「おぉー!!」」


グゥオオオオゴオオォーッ!!


 低いエンジン音を響かせ、ハックの操る魔導エンジン付きの馬車はスピードを上げてカルガモットを追いかけるのだった。








「さて、ここまで離れれば…ん?錬金術師、まさか追ってきているのか!?」

 ハックは愛馬キレイホースを走らせながら振り返る。あの馬車とはかなり距離を取った筈なのに、実距離はそこまで離れてはいなかった。


 …偶然にもそこに居合わせたパーティーメンバーは、自分の方を追いかけて来ている。

 ドラゴンを1人で何とかしようとしていたカルガモットにとって、旧知の仲間が居合わせた事はとてつもない幸運である。しかし、いくら仲間と言えどあの高レベルモンスターを押し付けるのは流石に気が引けた。


 だから、あえて仲間にも被害が行かない様に姫君を任せて離れた。


 それを、彼等は追ってきたのだ。自分カルガモットを助ける為に。

「…ふふっ!あの男…ハックも中々熱い魂を持っているようだな!!」


 思わず笑みが零れてしまった。クラス付きのドラゴンが追いかけて来ているというのに。


ギャオォォオオ!!!


ドバジャアァ!!


 「沼渡り」…スワンプドラゴンから泥のブレスが吐き出される。

 直射方向ではなく、斜め上方向に向かって吐き出されたので、カルガモットの頭上を通り越して泥が飛んできた。流石のキレイホースも目の前に濁流が現れてしまっては驚き足を止めてしまう。

「どうっ!良し、キレイホース!!このままいつまでも逃げて居られない!」

 ゆっくりと振り返り、スワンプドラゴンを見つめる。キレイホースはゼェゼェと荒く息をしていた。

「折角の『剣の』修行だと言うのに、剣を折られてしまっては仕方が無い。」

 片目から血を流し、自分に向かって猛烈な勢いで向かってくるドラゴン。そして遠目に見える仲間の馬車。いずれ仲間が近付いて被害が出るなら、『ここで決着を付けるしか』ない。





「使いたくはないが…致し方ない。」



 カルガモットは後ろ髪を束ねている部分から、小さな針の様な物を取り出す。

「…アイテム化、解除。」



 ペン程のサイズの針は、アイテム化を解除する事によってカルガモットの身の丈程の槍へと変化する。


 コレはカルガモットが持つスキルの1つ、<リザーブアーム>の効果である。

 身体のどこかにアイテム化された刃の付く武器を隠し持つ事が出来て、アイテム欄には表示されないというスキルだ。アイテム欄に入っていないので、盗みに関するスキルから守る事が出来るスキルではあるが、アイテム化してしまっている分隠し場所さえバレると触れられる誰でもそのアイテムが取得出来てしまう諸刃のスキルだ。

「取得:シルバースピア、装備」


 カルガモットは愛馬に跨りながら、細身の槍を装備し直す。

…その槍は銀の特性を持ち、かなり簡素な作りでなんの飾りもない物だった。



グォォォオオオォォ!!


 怒りを露わにして迫り来るスワンプドラゴン。

 対照的に、落ち着き払って息を整えるカルガモット。


 シルバースピアを装備した途端、カルガモットの雰囲気が変わる。全身から青い色のオーラが立ち上がる。それは、スキルによる攻撃力バフが発動している証だ。




「スキル発動。『杖に愛された騎兵スタッフ・ラブド・ヴァルキリー』、『人馬一体』」


 先程までの青いオーラが、今度は愛馬キレイホースとカルガモットの持っているシルバースピアにまで伝わる。


 更に一呼吸、深く息を付くと正面に向かって投擲の姿勢を取る。






ギャオォオオオォォォ!!!


 スワンプドラゴンはどんどん近寄ってくる。既にブレスの範囲内だ。


あと20m…

   15m…

    10m…



「危ない!!カルガモットォォ!!!」



 …遠くの馬車から、そう叫ぶハックの声が聞こえた。










「…必殺、『乾坤一擲』。」


















 バツンッ
















 カルガモットの手から放たれた槍は、静かに『沼渡り』に向けて飛んで行った。


















杖に愛された騎兵(スタッフ・ラブド・ヴァルキリー)

称号付きスキル:槍、格闘杖、騎乗槍に属する武器の熟練度超増加。加えて最終ダメージ値倍加。さらに魔法攻撃系の杖であっても戦闘ダメージを与える事が出来る。


人馬一体

パッシブスキル:騎乗時のみ、攻撃力を1.75倍。また、騎乗攻撃時に相手の防御に関するステータスを無効化


乾坤一擲(けんこんいってき)

アタックスキル:現在装備しているもの以外の武器装備を所持していない時のみ発動可能。投擲攻撃時にクリティカル率、命中率を大幅にアップ。クリティカル発生時にダメージ値を更に1.2倍させる。






















 ─ ─ ─ ─ ─




 突然動かなくなったスワンプドラゴンと、馬から降りて立ち尽くすカルガモットにやっとの事で追い付くハック一行。



「カルガモット殿!!無事だったか!?」


「あぁ、錬金術師。もう終わった」


 ハックに続いてタリエル、アンジェラが馬車から降りてくる。


「終わったって…このドラゴンどうしたの??」

「嘘だろ…見ろ!」

 アンジェラがスワンプドラゴンの胸の辺りを指差す。

…小さな穴が空いていて、その穴は尻尾の付け根の辺りまで穿いていた。


「よっ…と」グイッ

 カルガモットが地面に突き刺さったシルバースピアを回収する。


「さて、昼飯には早いが急がないとな。」

 カルガモットは颯爽と愛馬キレイホースに跨った。

「い、急ぐって??」


「なんだ、知らないのか?」

「「「え?」」」



「スワンプドラゴンの肉の下処理は、早めにやらなければ臭みが移ってしまうのだぞ?」


「「「………は???」」」


「…討伐完了だ。私のキャンプに案内しよう。」







「「「えぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」」」







 カルガモットは、「槍の一突き」で『沼渡り』、クラス付きスワンプドラゴンの討伐をたった1人で成功させたのだった。


第118話 END

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