NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第117話 #6「剣」の、達人(カルガモットsub)


 薄暗い森の中を破壊しながら掻き分け、『沼渡り』のドラゴンが進んで行く。

 その先には自慢の白馬と姫君。

 辛うじてドラゴンよりも先にリディの元にカルガモットはたどり着く事が出来た。



「姫様!!どうかお下がり下さい!ここは危険です!!」バッ

「どわぁ!!びっくりしたけど…良かった生きてた!」

「ドラゴンは追い詰めましたがまだまだ手負いの状態、近くに居てはなりませぬ!」

 リディはカルガモットの話も聞かずに馬から降りてしまう。

「あの!カルガモット聞いて!私は…その、お姫様なんかじゃないの!私も闘えるから!だから…きゃ!!」ゾバォン


 先程リディが立っていた辺りに、スワンプドラゴンの泥のブレスが飛んできた。寸前の所でカルガモットが庇わなければ直撃していた事だろう。

「…ええい!ままよっ!!」バッ



ドズッ



ギャオオオォン!!!




 カルガモットは焦っていた。いち早くこのドラゴンのヘイトを自分に集めなければ姫様がやられてしまう。

 そこでカルガモットは、ドラゴン討伐の際にやってはいけないとされる悪手を選ぶ。




─ドラゴンの、片目を潰した。






 逆上したドラゴンはのたうち、狂った様に暴れ出す。目に突き刺さったカルガモットのロングソードは、その騒乱の中で抜け落ち、踏み潰されて砕けてしまう。


「姫様!乗って!!」ガシィ!
「きゃ!?」

 カルガモットはキレイホースに飛び乗り、なりふり構わずリディを抱き抱える。

「沼渡りの目を射抜きました!これで奴は絶命するまで私を追うでしょう!先ずはこの森を抜けます故、しっかり捕まって居て下され!!」


「いやぁ!!どーなってんのこれ!!」

「声を上げて居ては舌を噛みます!どうか落ち着いて!」

「この状況でどうやって落ち着けってのよォ!!」


 巧みな馬術でキレイホースは森の中を疾走する。しかも、カルガモットはわざと大きな岩や巨木、倒木の類いなど足止めになりそうな物のすぐ脇を通り抜ける。


 予想通り沼渡りのドラゴンは逆上していて、なりふり構わずそれらに突っ込んでから突き進むので、いくらか距離を離す事が出来た。














「ねーハックさーん」

「ん?なんだタリエルよ?」

「お腹空いたんだけど〜?」

「そうか、ならそこらの木の葉や木の根を食すといい。」


 森林の縁沿いに馬車を移動させるハック一行。タリエルは既に飽きた子供の様に駄々を捏ねていた。

「なーんであたしが木の葉っぱなんて食べなきゃいけないのさ!?ドイルドか何かだと思ってるわけ!?」


「おぉ、こりゃ失礼したな。えーっとキャッシュグールなら…そら、そこの焦げが酷くなって使えなくなったナベでも食すがいい。少しばかりは青銅も混じっているだろうしな」


「…ほんっとムカつく!!」バゴンッ

「いたっ!何をするか!!」

「いたいけな美少女がお腹空かせてるって言ってんだよ!?少しは養って上げようとか思わない訳!?このカイショーナシ!!」

「勇者殿が不在の今、我々の財政状況は非常に厳しいのだ!!前の様な贅沢な暮らしが出来ると思うなよ!!」

「ぜいたくぅ!?ちょっとお菓子が欲しいって言っただけじゃん!!大体にしたってウチが今貧乏なの、ハックさんが魔導エンジンぶっ壊して修理費かさんだからじゃんか!!!」ズガーン






▹タリエル の 痛恨の一撃!ハック は 防御力無視 の 精神ダメージを うけた!!瀕死の重体 だ !!





「うぐっ!…し、仕方のない奴だな、コレをやろう。」






▹ハックはアイテムから「高級フルーツのタルト」を取り出し、タリエルに与えた!効果はバツグンだ!







「…ふん、わかってんじゃん?」
ニヤリ

「くっっ!!なんという屈辱!!」


 ギリギリと睨みつけるハックと、対称にニヤニヤしたしたり顔でタルトを頬張るタリエル。


 そこにスっとアンジェラがお茶を差し出す。

「…ん。お茶」

「え!?あ!あぁ!ありがとアンジー!!でもちょっと今は要らないかなぁ〜!あはは!」

「おいタリエルよ。そのタルトは私の秘蔵スイーツだぞ?お茶やコーヒーの類があった方が食べやすいだろうに。」


 至極当然な事を言っただけなのに、ハックは何故かタリエルから睨まれた。

「…??どれ、要らないのなら私が貰おう。」

「はいどーぞ。」

「では、頂くとしよう。」


 そのお茶を、1口飲んだハックの表情が引きつる。紫色の数字が表示され、1桁代分のMPが回復された。



「あ、アンジェラ殿、ゴホン!済まないが、馬車の後方…ゴホッゴホゴホ!!後方を見てきてくれ!!頼む!!」

「ん?あぁ!わかった!」

 アンジェラは後ろの荷物室へと入っていく。今の馬車は前のとはサイズが違うため、居住スペースと荷物室を分けて使っていたのだ。


…そして、アンジェラが荷物室へと入っていくのを確認して、ハックが盛大にお茶を吹き出した。それを見てタリエルがケラケラと笑う。



「な!なんだあれは一体!?気付け薬だってもっとマシな味がするぞ!?苦味えぐみ渋味の集大成みたいなあのお茶はなんだっ!?」

「うっひゃっひゃ!アレやばいよね〜!!アンジーまだお茶作成のスキル上がって無いから、取り敢えずお茶はクリエイト出来るけど味がやばいんだよ〜!!私も寝起きに貰って1発で目が覚めたもん!」

「…あのお茶でMP全回復するぐらいなら、1度絶命して復活してもらった方がマシだな…」

「本人は悪気あって作ってる訳じゃ無いからね!ちゃんと飲んで上げてよっ!」

「しかしなぁ!」

「おーい!!!」

「「な、何!?アンジェラ!?」」


 様子を見に行かせたアンジェラが慌てて帰って来たので、思わず上ずった声で反応してしまう2人。


「何か森、ヤバいぞ!!」


「「………え?」」クルッ

 御者席に座るハックと、そこの縁の部分に腰掛けるタリエルが森の方に振り返る。



 森の中は何かがバキバキと木々を押し倒して、とてつもないスピードで進行しているのが遠目でもわかった。



「「え???」」



 その内…




バキバキバリバリバッゴォォオン!!





ギャァァアアアオオオォォ!!!!!




「「「う!うわぁ!!ドラゴンだぁっっ!!!」」」


 突如、大型のスワンプドラゴンが森から飛び出して来たので、驚いて馬車の方向を変えるハック。

「なんだアレは!?規格外のサイズだぞ!?」

「ね!!もしかしてアレ…」


「『沼渡り』だなっ!!」ガチャッ


 剣を手に取り飛び出そうとするアンジェラ。

「「ちょちょちょ!!やめー!!アンジェラ!!!」」

 2人に押さえつけられながら、何とか飛び出そうとするアンジェラ。そこに…



「おーい!!!」


「ふぇ?聞いた事のある嫌な声が?」

「ふむ…プライドを鼻にかけたようなこの声は??」

「なまじ腕は良いからいけ好かないこの声は…」







「「「カルガモットぉ!?!?」」」






 何と猛スピードで森から離れる馬車の隣を並走して、いつの間にかカルガモットがそこに居たのだ。


「貴様等、ちょうどいい所にいた!姫君を頼む!!」


「へ?わ!!ちょっと!!!」

 なんと受け取る準備もしていないのにカルガモットは人1人を投げて渡してきた。アンジェラとタリエルが慌てて手を伸ばし、投げられた女性を受け取る。


「スマンが姫を頼んだぞ!!良いな!!」


 そう言うとカルガモットはどんどん馬車から離れて行った。





ポ、ポカーン


 探し求めて居た人物が、森の中から急に現れて、『姫』を押し付けて単騎でドラゴンの方に向かってしまう。


しかも…その姫なる人物が…



「「「ど、どう見てもリディだよね?どゆこと??」」」

 あまりのスピードで森の中を疾走してきたので、途中で目を回したリディだったのだが…

 そうとも知らず取り敢えず馬車の中に寝かせた物の、3人は誰も現状を理解出来なかった。



第117話 END

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