NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第116話 #5「剣」の、達人(カルガモットsub)
「失敗…だったわね。あの名前で呼ぶの」
キレイホースの背に乗せられて運ばれるリディ。先程のカルガモットの対応の仕方を見てまずかったと反省していた。
大陸を治める各領地に住む貴族。
そのそれらを束ねる大陸の王がいた。そして、領地をもつ領家には、『決して人に伝えてはならない名前』というものがある。
王のみが呼ぶ事を許された呼び名だ。産まれてから死ぬまでの間、大概の貴族はその名を呼ばれる事が無く一生を終える。
リディはその名でカルガモットを呼んでしまった。何故なら…
「そう…『設定』してキャラメイクしたの、天馬先輩だもんね。…忘れてたわ」
不知火天馬が創りし、この大陸に生ある者として産まれたキャラクター、『カルガモット』。
その全てを、リディこと渚力 蕗華は傍らで見守っていた。
彼が行っていた、生命を吹き込むと言うキャラクターメイキング。
その技が、カルガモットと言うNPCに生命を与える。
「このまま残して置いていくなんて出来ない!」
リディは慣れない手つきで手綱を操作すると、キレイホースは反転して元きた道を戻る。
カルガモットは、リディからすれば子供の様な存在だ。彼の後ろにある、今は行方知れずの先輩の個性を、リディは感じ取っていた。
「はぁ、はぁ、たぁぁっ!!」
ガキィン!
カルガモットはつかづ離れずの距離を保ちながら、『沼渡り』に切りかかる。
いくら剣技の補正がかかっているとは言え、Fランクのロングソードでは2桁代のダメージを出すのが精一杯だった。
そしてこの距離にこだわるのはひとつ。
グルルルロロロォォ…
「…ふっ!!」ズバァッ!
ギャオォ!!
喉を唸らせるような鳴き声に合わせて、「沼渡り」のドラゴンの喉笛に切りかかる。沼渡りは口の中に溜めたドロのブレスを吐き出してしまった。
「ブレスキャンセル」…ブレスの体勢に入ったドラゴンに対し、的確に弱点を攻める事によってブレス攻撃をキャンセルさせる事。タイミングと攻撃場所が合っていないと発動しない。
先程からカルガモットはブレスキャンセルを連続成功させている。今、防具をほとんど何も身に付けていないカルガモットにとってブレス攻撃は死活問題だ。防ぐ手段は他のスキルにあるものの、魔力がそこまで多くないカルガモットには乱発出来ない。
だからドラゴンからは離れず、ブレス発射のタイミングでキャンセルさせ、むしろドラゴンの動きを封じているのだ。
「ふぅ…あとこのまま…1時間って所か?気を抜く事無く集中すれば勝てる!」
あと1時間ブレスキャンセルを成功させ続ける。それは並大抵の冒険者には不可能な話だ。まともな回復アイテムも無く、防具は紙と同様。
頼みの武器はFランク。それも、先程からの連戦で耐久値がどれほど残っているのか…
「…流石に熊の様にはいかないな。しかし、これでこそ修行の甲斐が有る!来いッ!」
剣を握り直し、クルクルと剣を回すとステップを変える。
さらに距離を詰め、クリティカルダメージを狙いに行くカルガモット。
─しかし、流れが変わった。
…ガルルゥ
ドラゴンの鼻先が、カルガモットから隣の森の方へ向き変わった。
それはリディとキレイホースが逃げて行った先の森だ。
「おいドラゴン!!」ボァァ!!
カルガモットがアイテムを使い、初級の炎魔法を放ってドラゴンの顔面に攻撃する。
「何処を見ている!?お前の相手はこちらだぞ!!」
ドラゴンの指先に切りかかり、そして爪を見事に切り落とす。ドラゴンの類はプライドの高い生き物で、自分の身体の1部を切り落とす様な攻撃を受けると逆上して襲い掛かって来る性質がある。カルガモットは「あえて」それを狙ったのだ。
…しかし、その効果は無かった。
ドラゴンは1歩、また1歩と森の中に入って行こうとする。
「何故だ?急に向きを…ハッ!?」
…かすかに聞こえた。聞こえたく無い声が。
「………〜モット…おーい!」
「クッ!!姫様、戻られたか!?」
先程逃げて行ったはずの姫の声と、愛馬キレイホースの蹄の音が聞こえてしまう。
そちらに合わせて、ドラゴンも歩みを進める。
「不味い!!間に合えッ!!」ダッ
最早こちらに興味を向けられないと思ったカルガモットは剣をしまい、全速力で声のする方に駆け出した。
第116話 END
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