NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第112話 #1「剣」の、達人(カルガモットsub)
「…よし、では行ってくる」
「はい、お気を付けて。」
ここはザゥンネ家領主の家、住み込みで働いている給仕係に挨拶を済ませると、軽い足取りで森にカルガモットは駆け出して行った。
しかしその格好はいつもとは違い、かなりの軽装だ。上半身は裸で、初級冒険者が使う簡素なズボンだけを履き、足も裸足だ。腰にはいつも使っている愛刀とは違うこれまたFランク装備のロングソードのみを付けている。
「おはよー」
「おはようございます。領主様」
「あれ?プレートメイルがここにあるけどお兄ちゃんは?」
「計略の勉学に疲れたとの事で、朝から『剣の』、修行に向かわれました。」
「あぁ…そゆこと」
ダスキドはカルガモットがいつも使っている装備一式をまじまじと見つめる。
そしてあるのもに気が付いた。
「ん?…あれ?」
1枚の紙が装備の下に挟まる様に置いてあり、それを手に取り読む。
「ねぇ?お兄ちゃんこれ見てた?」
「いえ、装備を外されたのは出発する直前だったので、確認されていないかと。」
「あちゃ〜。…まぁ、いっか。」
ダスキドは給仕係が差し出してくれたコーヒーを飲みながら、その紙にもう一度目を通す。上級モンスター目撃報告書と書いてあった。
「『沼渡り』、ねぇ…」
一方、こちらはシャイガルの街。
ファステを出発したハック一行がシャイガルに到着し、旅の準備と休息を行っていた。
「…よかったねぇハックさん。シャイガルにたまたま技工士がいて」
「あぁ、全くその通りだ。次からは上手くやる。」
ハックが壊した魔導エンジンは修復されていた。今度は壊さない様にリミッターをしっかりとかけてある。
「それで?ここからはどうするの?」
ここに来るまでで1番頑張ったのはリディ(…の、ウィンダム・ウィズダム)だ。ハックは既に頭が上がらなくなっていた。
「リディ嬢。ここで軽く食事を取ってから領主の家へと向かう。まだまだ先は長いからな。」
「はーい。私は少し休ませてもらうわね。」
「おい!聞いたか!?」
朝食の買い出しに行っていたアンジェラがニコニコな顔をしてかえってくる。
「どうしたの?アンジー?」
「出たってよ!この街の近辺にさぁ!」
「何が出たのだ?」
「ドラゴンだよ!それも『沼渡り』の!!」
「「「ドラゴン??…沼渡り!?」」」
何故アンジェラが喜んでいるかと言うと、まずドラゴンに属するモンスターは全体数が少ない。希少価値のあるモンスターだ。
加えて、モンスターを討伐すると討伐数がカウントされて、それに見あった『称号』が手に入る。
戦士や戦闘職に着くものからすると、自らの武勲となる格好のチャンスなのだ。
「あー、すまぬアンジェラ殿。我々にはそこに時間をかける余裕はないのだ。」
「分かってる!でも…目の前に出てきたら『討伐』せざるを得ないよなぁ!?」
「それはそうだけど…でもアンジー、『沼渡り』なんでしょ??それ?」
タリエルが言っているのは「クラス付きモンスター」だと言うことだ。普通のモンスターよりもレベルは数段上の存在である証拠だ。
「ヤンド殿もカルガモット殿も居ない今、そやつに遭遇したらあっという間に全滅させられるだけだ。森は避けて通るとしよう」
「え〜〜!ハック頼むよ!」
アンジェラは珍しく感情を表に出している。
「私だっていつまでも生娘じゃ居られないんだよっ!なぁ!?」
「ぶっ!!!ば、バージン?!」
それまで黙って聞いていたリディが盛大に吹き出した。
「あれ?知らないの魔女っ子?戦闘職でドラゴンを倒した事のない人は冒険者として『乙女』扱いされるのよ?…あんたホントにこの大陸のそーぞーしゅなの??」
「し、知ってるわよそのくらい!!でも…」
リディは心底驚いていた。自分達が作り出した小さな設定の1つ1つが、ゲーム内ではこの様に適応される。天馬先輩の言っていた「生命を吹き込む」という作業の大事さを思い知らされていた。
「…な、なんでもないわっ!行きましょ!」
「「「ええぇ???」」」
自分から休むと言ったばかりのリディが、何かに気を悪くして足取り早く進むのを見て、ハック達の頭の上にはハテナが沢山浮かんでいた。
第112話 END
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