NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第110話 #10 『見よ、勇者は帰る』



─次の日の朝


「ハックさーん!!来たよ!!ほらコレ!!」

「良し!良かった間に合ったか!!」

「私帰って荷物の準備してくる!!」

「あぁ!頼んだぞ!タリエル!」



 朝から錬金術工房の前は大忙しだった。

 何やら、ハックと他にも世紀末風の男達があちこちに荷物を運び、整理しては大型の馬車に積み込むと言った流れでバタバタとひっきりなしに動いていた。

「何?どうしたのこれ??」

「お!リディ!いい所に来た!こっちを持ち上げるのを手伝って欲しい!」

「え!?あ!ちょっと!」

 訳も分からぬまま、荷造りに手伝わされるリディ。

「よっと!もう1段上に上げるぞ!せーのっ!」

「ちょっとちょっと!何なのよこれは一体!?」

「決まっているだろう!出発準備だ」

「まさか…ほんとにお仲間迎えにいくの!?」

「その通りだ!タリエルが間に合ったおかげで早く出発出来る事になった。もう今日中には出るぞ」

「え〜〜ちょっと待ってよ〜!!」



 リディは大きくため息をついた。まさかあの勇者○○を名乗る謎の男を探すだけでこんなにも面倒事に巻き込まれるとは考えもしなかった。

「昨日も言ったが来る来ないはそなたの自由だ。ただし、次の目的地までは強制的に着いてきてもらうぞ」

「何?なんなの次の目的地って?」

「先ずはシャイガルに寄る。そしてそこで休憩を取ったならば、『ザゥンネ家の屋敷』とその領地に向かう。」


「シャイガル?あっちの方ならここから少し遠いけど…そんな所行ってどうするのよ?」

「貴殿にはどうしても見てもらわなければならない物がある。」

「な、何よ?」


「口にするのも忌々しいが…『残念勇者の墓』だ」

「ざんねん勇者の墓ぁ!?」

 リディは全く知らないようだ。

「やはり知らぬか…しかし貴殿は運営としてあれは見ておかねばならぬ。勇者殿も『アレ』のせいで酷く心を痛めていたからな。」

「なんなの???」

「昨日の夜、アンジェラ殿とタリエルの3人で今後について話し合ったんだが…先ずはカルガモット殿を迎えに行く手筈になってな。その時に思い出したのだ。我々とカルガモット殿の因縁となった原因を。」

「…まぁ、なんでも良いわよ。で?そこに行けば何が分かるの?」

「その前に1つ聞く。勇者○○殿が持っている不思議な力をそなたも使えるのだな?」

「え?そうだけど…てか、私の方が本家本元よ!!」

「では、『おぶじぇくと移動』、と言う技も使えるか?」

「はいぃ!?」

 リディは心の底から驚いた。何故ならそれは運営陣の中でも極一部しか使えない様に設定された『隠しアイコン』だったからだ。

「ちょっと!丸丸ってそれまで使えてたの!?それじゃあ、あちこちの地形変えられちゃうじゃない!!」

「待て!落ち着けリディ!勇者殿はその機能を悪用したりなどしない!!」

「ふん!信用出来ないわねぇ!…で?その能力がどうしたのさ?」

「勇者殿は…二度と人目に触れないように『残念勇者の墓』をその能力で封じてしまったのだ。だから、現時点では誰もその場所には入れない様になっている。」


「何!?勝手に閉じちゃったの!?」

「あれは…あの場所は永遠に忘れ去られるべき物だ。その点については我々全員が同意している。」




 ハックの表情に影が指す。本気で言っているとリディにも感じ取れた。

「わ、分かったけど、どうしてそこに連れていくの?」


「…………うまく表現出来ない。自分の目で確かめて欲しい」

「え?」




 その時、荷造りを手伝っていた世紀末風の男達の1人がハックに声を掛ける。



「おーーい!!錬金術の先生ぇ!あとは良いのか??」

「あぁ、すまない。こちらの物さえ片付ければ終わりだ。」

「はいよっ!じゃあこれが…約束の『鍵』だ」

─チャリン

「………あぁ、確かに受け取った。」

「それじゃあ、頑張って勇者のにぃちゃん探して来てくれよっ!俺達も寂しがってるって、伝えてくれ!」

「すまない、皆の衆。」

「それよりいいのか??本当に…」

「良い!決めた事だ…もう未練など無い。」



 ハックは遠い様な目をして錬金術工房を見つめると、ギュッと目を閉じた。



「……分かったよ。じゃあ受け取るからな!!」



 男達は錬金術工房の中に入って行った。


「…………どうしたの?」

「何でもない。こちらの話だ…さ、私はまだ準備があるので昼に大魔道飯店で落ち合おう。そこで昼食を取ったら出発だ」

「え?えぇ…」


 何だか少し寂しそうな表情で、荷造りを続けるハックだった。














─昼頃


 大魔道飯店にて




「おうおうねーちゃん」

「ん?何だ店主」

「なんだじゃねーよ。お前トンマの所の戦士だろ?」


「トンマ?あぁ、ユーシャの事か。そうだが?」

「ここはお前の働いてる見たいな喫茶店じゃねーんだ。待ち合わせなら他所でやりな!そこに座っていいのは飯を頼んだ奴だけだ!」

「……肉盛定食、白飯大盛りで」

「ふん!………あいよ」



 ハックとの待ち合わせに1番最初に来たのは、アンジェラだった。

「すいませーん。錬金術師のハックって…あら?」

 そこにリディがやって来た。

「よぉ」

「…鎧姿の方が似合ってるわね。」

「まぁな」



「「……………。」」




「………座れば?」

「あ、はい」





「「…………………。」」


「えと「うん?「はい肉盛定食お待ち!!」」」ドンッ



「「………………。」」


「ど、どうぞ」

「……いただきます。」コクッ



ガツガツ、モシャモシャ



「「……………。」」




「…ん。」スッ

「え?」

「メニュー。頼めば?」

「あ、あぁ、ありがとう。」


「…………。」ジィー

「すいません、店員さん」

「あぁ?俺は店長だよ!」

「ごめんなさい店長さん。パスタ的なものある?魚介系の」

「はぁぁ!?ウチは定食屋だぞ!?」

「えっごめんなさい!」


「……………待ってろ」フンッ



「あ、あるんだ…」



「「………………。」」




 なんとも会話の続かない2人であった。



 勇気を振り絞ってリディが口を開く。



「あ、あの」

「何?」


「『あなた』って、どんな人なの??」

「…………。」

 アンジェラは腕を組んで考え込む。

「…戦士。『普通の戦士』、それが私だ。」

「ふ、普通の戦士?」

「そうあるべくして生まれた。だから私は普通でいる事に生き甲斐を感じる。」

「……………そう」



 リディは、何故か酷く悲しそうな顔をしていた。



「……………?」


「…なんでもない。なんでもないわ」

「…そうか」

 そこに、ミンギンジャンがパスタを持ってくる。何やらカニ系モンスターらしいトゲトゲしたハサミがいっぱいパスタの中から突き出している。

「…今あるのはこれだ。食いな」ゴトンッ

「…ワァオ、凄いビジュアルね」


 リディはトゲに絡みついた麺をほどきながら口に運ぶ。

「ん!おいしい!!」

「……ここ、サービスは最悪だけど味だけは絶品」

「おい!!聞こえてんぞ!!!」ガンッ


 厨房の奥から怒鳴り声が聞こえて、2人は首を竦める。


「…プッ」
「アハハ!」


 自然と2人の間に笑みが零れた。



「こっちの食事がこんなにもおいしいと感じるなんて思わなかったわ。これは病みつきになるわね」

「そうなのか?逆にユーシャは以前故郷の食べ物の事を恋しがっていたぞ?確か…はんばっが?だっけ?」

「えーっと…ハンバーガーかしら?」

「そうそう、早く喰える飯らしい」

「早く?……あぁ、『ファーストフード』の事ね。確かにずぅっと食べれなくなったら恋しいかも。」

「昨日も沢山食べ物を持ってたな?」

「えぇ、どうしても確かめたかったのよ!体感機越しに感じる味覚ってのがね。不思議でしょうがなかったわ。」

「…??」

「や、なんでもない。こっちの話よ」

「そうか」






「「………………。」」


 また2人の間に沈黙が訪れた。だが表情はお互い少しだけ柔らかくなった。


「ねぇ、アンジェラ。」

「何?」

「私達、お友達になれるかしら?」

「…いいよ」



「「………………。」」

 リディはニッコリと笑っていた。

 アンジェラは反対に照れくさそうにしていた。



─ガチャン

「お、どうやら先について居たようだな。」

「2人でゴハン食べてたの?…何だか面白い組み合わせねぇ〜」

 ちょうどそこにハックとタリエルが店の中に入ってきた




「…飯ぐらい食べるだろう」



 アンジェラが続けて答えた。


「…だって友達だからな」


「「へ?」」


 リディは、酷く赤面した。




第110話 END

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