NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第108話 #8 『見よ、勇者は帰る』




「ゼェ……ゼェ……ま、まだか?」


「ちょっと〜ハックさんさっきから5cmも進んでないじゃん!」

「弱いな、ハックは」フンッ

「アンジェラ殿!こういう役目は戦士であるそなたがやるべきでは無いのか!?」

「無理、制服汚れる。」

「くっそ〜〜勇者殿ぉ〜!!早く出てきてくれ〜!」

 ハックは先程から勇者○○の墓を掘り返していた。女性ばかりだったので必然的に肉体労働に向いてないハックが掘らされていたのである。

 ファステの街の通行人達はその姿を見て、あれやこれやと噂を立てていた。

「…まだかかります?」

「なんだと!リディとやら!ソナタがここに居ると言ったから掘っているのに手伝うは愚か急かすとは何事だ!!手伝え!」

「いや…お墓掘るとかなんか嫌だし…ねぇ?」

「ねぇ〜では無い!さっさとそっち側を掘るんだ!」プイッ

 ハックは穴(と言っても段差程度の)の中から這い出てスコップを投げ渡した。合計で30cmは掘ったであろうが、ハックは肩で息を付いていた。

「もうしょうが無いなぁ〜」

 リディは黒いメニューボードを取り出して操作する。

「……<無色透明で無味無臭サイレス・エアレンツ>、起動」

 一瞬、リディの前が青白く輝いた。


 …しかし、何も現れなかった。

「「「………?」」」

「じゃ、後はよろしく頼むよ。『ウィンダム・ウィズダム』ポチッと。」

 リディが更に操作すると目の前に突然2メートルを遥かに凌駕する大柄なフルプレートを纏った重戦士が現れた。


「「「うぉっ!?!?」」」


\ゴーン/


 重戦士は言葉を発する事なく、鐘の音のような音を立てるとそのまま地面を手で掘り出した。

「な、何者だ!?」

「急に出てきたわよね!?今!」

「何処から降ってきた訳でも無さそうだな…しかし凄い巨体。」

 敵意は感じられなかったのでアンジェラとタリエルは近くによって見てみる。

「……どう?驚いた?私のウィンダム・ウィズダムに」


「こ、これは…彼は何者なのだ?」

「運営だけが使える透明なNPCよ。」

「「「透明なNPC!?」」」

「そ、無色透明で無味無臭サイレンス・エアレンツって言うの。完全に透き通った存在なんだけど、鎧とか武器を装備させれば物に触れるようになるわ。バトルのテストプレイ様に作られた存在よ。」


「透明な…意思はあるのか?」

「残念だけど自由意志は無いの。私はウィンダム・ウィズダムって名前付けてるけど、命令を受けた時だけ音を発するのみよ。」

「ほえぇ〜!凄いよハックさん!ホントに鎧の中身空っぽだ!」

「これは面白い!」

 タリエルとアンジェラは鎧の隙間を覗き込んだり、手を入れてみたりしている。

「こ、こらよさんか二人共!」

「いいよ〜そのくらいじゃ敵対反応しないし。しばらくここで様子見てましょう。」

「……………待て。」

「な、何かな?」ビクゥッ

「………最初から彼に掘らせていれば良かったのでは無いか??」

「え?…あ、ちょっと忙しいからまた後でね」イソイソ

「おい何処に!逃げたか…」

 リディは責められると思ったのか姿をくらました。残されたウィンダム・ウィズダムは文句も言わず手で土を掘り進める。

「……私もこのような存在に生まれ落ちていたらこうなっていたかと思うとゾッとするな。同情するぞ、鎧の戦士よ。」


 タリエルはウィンダム・ウィズダムの上に乗っかりバランスを取りながらキャッキャウフフと騒いでいる。アンジェラに至ってはヘルムを取り除いて鎧の中身を観察していた。








 ─約30分後。



「ねぇ〜そろそろ掘れた??」


 ひょっこりリディが現れた。色々な食べ物を手に持っている。

「待ちくたびれたぞ!あの後鎧の戦士殿がものの10分もかからずに穴を掘り進めたのだが、棺が現れてからはその上から動かなくなってしまって開けられないのだ!」

「あら意外と浅かったのね。じゃわかったわ。」

 リディが近付くとウィンダム・ウィズダムは立ち上がり、3歩程穴から下がった。

「…………。」

「ん?どうした?」

「一応…ここが座標としては丸丸の居る場所で合ってるんだけど…」

「ならさっさと開けてよ魔女っ子!」

「今になって冷静に考えると…何で墓の中なのかな〜って。もし…中身がとんでもない事になってたらちょっと…」

「何を言っておる!勇者殿は死なない身体なのだから大丈夫だろう!」

「そうよ!もし死んでても店長の『ハンバーグ魔法』で何とかなるから余裕っしょ!」

「は、ハンバーグ?…何だか分からないけど、じゃあ、開けるわよ?」

 リディが目配せをすると、ウィンダム・ウィズダムが石の棺の蓋を開ける。



 そこには…




 予想に違わず、カラッカラに干からびて屍蝋化した状態の遺体が横たわっていた。



「「「うわぁぁ!!!」」」


 3人は思わず顔を顰めて仰け反る。


「ちょっと!!どうすんのよガッツり見ちゃったじゃない!!気持ち悪い!!」


 リディは棺から離れてえずいている。



「「…………あれ?」」

 ハックとタリエルも最初は気味悪がっていたが、ある事に気付き遺体をのぞき込む。

 最初から平気だったアンジェラは、遺体の顔をじぃっと見つめていた。


…その、『赤い布に包まれた』遺体を。

「…ちょっと!!あなた達良くそんなものマジマジと見つめて平気ね!?」

「……いや、これって……」

 ハックが遺体を指差す。

「え?何??」

「いやだから…」

「えぇ?」

 リディが恐る恐る棺にまた近付き、中を覗き込むと…








 ─ガバァッ─


「ひっっっっ!!?!?ぎゃぁぁあああぁ!!!!?!?!!??」





 なんとその屍蝋化した遺体は勢い良く起き上がり、リディの足首を掴んだのだ。


─バタン

「あー!魔女っ子倒れちゃった!!」

「驚いて気絶したのだろう。アンジェラ殿、足の方を持ってくれ。」

「分かった」


 ハックはリディの肩を持ち上げ、アンジェラと一緒に気絶したリディを運ぶ。


─それを行っている間も、棺から遺体はゆっくりとした動きで這い出てくる。


「よっこい!しょ!…以外に重いなこの魔法使い見習いは」

「デクノボー、手伝ってくれない。」

 アンジェラはウィンダム・ウィズダムの鎧をコンコンとノックする。全くの無反応だ。

「…それで、詳細を教えてくれるかな??」

 ハックは取り乱す様子もなく這い出てきた遺体に話しかける。


 遺体は大きく伸びをすると、ポキポキとあちこちの『骨』を鳴らした。


「う〜〜〜っん!と!!よく寝たぁ〜〜!!」

 遺体は軽い準備体操の様に身体を動かすと、何かの魔法の類を発動させる。真っ赤な煙が吹き上げて遺体を包み込む。



─中から現れたのは、いつもの肉体の『ナユルメツ』だった。

「で?わざわざ本体の私を掘り起こして何の用だい??」

「何じゃないわよ!何でナユルメツがマルたんのお墓で眠ってるのさ〜!」

「なんでって…そりゃあ主人の居ない墓穴なんて他に無いだろう?死体は墓所で寝るもんさね」

「「「な、納得」」」

「このお嬢ちゃんは?」

「それが…勇者殿に会いに来た『運営』らしい。」

「ブレイブハートに??それでどうなったんだい?」

「ユーシャ、この前急に姿を消した。多分帰った見たい。」

「えぇ!?」


 ナユルメツは珍しく驚いていた。

「勇者殿と入れ替わりでこちらに来たようだが、その、『リディ』とやらが言うにはまだこの街に居る反応が出てるとかで、その指し示す地点がここだったのだ」


「なるほどぉ〜!それは多分だけどあたしがブレイブハートの生命エネルギーを吸ったからじゃないか?」

「どゆこと??」

「今のあたしの身体に流れてるのはブレイブハートの命の一部見たいなもんさね。さしずめ、それが影響して誤作動を起こさせたんだと思う。」


「そういう事か…つまり勇者殿はやはりこの大陸には居ないのだな?」

「…………ちょっとまって」

 ナユルメツは地面に伏して、土の匂いを嗅いだ。


「ん……ん?……うーん」

 立ち上がり、顔を顰めるナユルメツ。

「どう?分かるマルたんの事?」

「居ない…とも言いきれない。」

「「「えぇ?」」」

「なんだろう…分からない。ただ、居なければ居ないって分かる。でも現在位置は分からない。」

「…って事は?」

「100%居ないとは言いきれない。でもこの大陸にいる可能性は限りなく0%に近い。」

「なにそれ〜!!結局何も分からないじゃん!!」

「まぁ、帰ったとしてもまた来るさね。ブレイブハートなら」

「その通りだといいけど」

「勇者殿が居ないとなると、ナユ殿と連絡が取りたい時はどうすればいい?」

「あー、分かった。これをやる」


 ナユルメツは左手で左の胸を揉みだした。

「「「え!?ちょ!」」」


ズボォ!!

 なんとナユルメツは自らの手を胸の中に突き刺した。

「「「うわぁ!?!?」」」

「ん…はいよ。」ポイッ

 そう言ってナユルメツはハックに投げ渡した。…自らの『骨の一部』を。

「私の『肋骨』さね。用がある時はこれを地中に埋めておくれ。そしたらそれを合図にその場に現れるから。」

「そ、そうか…それでは丁重に扱わさせてもらう」フルフル

 ハックは震える手でその骨をアイテム袋に閉まった。骨は完全に干からびていて、血や肉片等は着いていなかったが薄気味悪い事には変わりなかった。

「じゃ、私はまた寝るから用があったら呼んでおくれよ。それじゃあね」

 ナユルメツが再び棺の中に横たわり、まるで布団でも被るかの様な軽さで棺の蓋を自ら閉めた。




「……………。」

「と、とりあえず、埋め戻そう。」

「え、えぇ。」



 今度はアンジェラも手伝い、3人で墓穴を埋め戻した。


リディは今だ気絶したままだった。




第108話 END

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