NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第107話 #7 『見よ、勇者は帰る』




 リディと名乗る古風な魔法使いの女は、自らが『運営』だと名乗り出た。そして、『勇者○○』の事を『嘘つき野郎』と呼んだ。

「ハックさん、この人ホントに運営なの??」

「運営以外の人間で勇者殿を探す訳がない。…我々の造物主に対してこんな口を聞くのも何だが、一体貴様は何しに大陸ここに現れたのだ!?」

 ハックは持っている杖を前方に構えた。

「ぞ、造物主…!?」

 リディはキョトンとした表情で固まってしまった。杖を構えたハックが怖かったからではない。単純に造物主と言う言葉に引っかかっていたのだ。

「…あー、ん。…そう……そう言う……えー意外。そうかそう言うふうに捉えてたんだ。」

 リディは腕を組み顎に手を当てて考え始めた。

「あの人どうしたの?」

「さぁ……わからん。」




「ん、わかった。質問します。何故あなた達は現実世界があると知っているのですか?」

「…それを素直に答えると?」

「ってか、あの人に聞いてそれを知ったんでしょ?…でもなぁ…ま、いいからさっさと合わせてよ丸丸に。」

「………?…知らないのか?」

「何が?」

「マルたんは向こうに帰っちゃったよ?」







「………はぁぁぁぁあああぁぁああぁぁ!?!?!?!?」








 リディは突然大声で驚き叫んだ。あまりの大声だったのでハックもタリエルもビックリした。


「なんだその様な声を出して!まさか本当に知らないのか??」

「知らないも何も帰れる訳無いじゃない!!だってログイン人数…あ、そっかNPCなのか。でも帰ったって、『ログアウト』した事を言ってるならそれはおかしいわよ!!」

「「はい??」」


 リディはポケットからある物を取り出してそれを2人に見せた。


「「うあっ!?」」

「だってこの街に居るって表示出てるもん!!あなた達隠してるんじゃ無いの!?」


 リディの持っていた物は、勇者が持っていた物と全く同じ『黒いメニューボード』だった。違っていたのは、書いてある文字がしっかりと読める物だったという事だ。


「ねぇ!アレ持ってるって事はやっぱりホントに神さまなんだこの人!!」


「ちょっと!あなたまだ疑ってるの?てか、神様って私の事??」

「待て!それよりも聞きたい!!勇者殿はこの街に居るのか!?」

「はっ!?そうだよ!マルたんここに居るの!?」



「…あなた達も探してるって事は、ホントに居ないのね。うぁ〜こりゃめんどくさい事になったなぁ〜」


 リディは帽子のつばを掴んでぎゅっと握り悔しさを顕にした。












 ハックとタリエルはリディを連れて店の外に出た。


「聞きたい事は沢山ある!しかし勇者殿の情報が先だ!まずはそれを教えて貰おう!!」

「こっちだってあんた達NPCにはたっっっくさん聞きたい事あるんだから!先ずは丸丸の居場所を掴んでから、それからたっぷり聞かせて貰うからね!覚悟しなさい!!」

「二人共ケンカしないで!まずはマルたん探すの先でしょ!?」


 なんやかんやと言い合いながら、リディの黒いメニューボードが指し示す方向に歩いていく。そこにあったのは…



『大魔道飯店』だった。




「「……え?」」キョトン

「ここよ!この食堂の辺りを指し示してるのよ!<サーチ:NPC>で検索してるから間違い無いわ!!」


「しかしなぁ…」

「ここにいる訳がないよ?」

「いいから探すわよ!あんた達も手伝いなさい!!」


「「あ!ちょっと!!」」



 リディはズカズカと大魔道飯店に押し入っていく。


 そして数秒後にはズタボロになった状態で店の外につまみ出された。


「「あ〜やっぱり」」

「おうハック!!それにチンチクリン!!なんだこの無作法な女は!!いきなり厨房の中に押し入ってきやがったぞ!!トンマの仲間か!?」


「「いいえ、違います」」キッパリ

「なんなのよ離しなさいよこのスケベオーク!!いつまで人のお尻触ってんのよ!!」

「うるせぇ!!二度と来るな!!」ブォン

「キャア!!」ドシン


 怒り狂ったミンギンジャンに投げ飛ばされ、リディは尻もちを付いた。


「うえ〜んなんなのよぉ〜!!なんであたしがこんな目に合わなきゃなんないのさ〜!!」


「そりゃあミンギンジャン殿の店でそんな無作法を働いたらな…」

「今のはどー考えてもアンタが悪いわよ〜」

「うるさい!でもここに居るのよ!ほら!!」


 リディは黒いメニューボードに映るマップの様な物を見せる。確かに指し示す所は大魔道飯店の近くだった。

「ふ〜む…ん?待てよ??このマップで行くとこの点は店の外にならないか??」

「え?」

「どれどれ…あ、ホントだ。こっちの道路の近くだからお店じゃなくてこっちだよ…おん?」

 タリエルは自分で指さした方向を見て首を傾げた。

「おっとこれは…」

「何?何があるの??」


 リディはキョロキョロと指さされた方向を見るも、小さい岩と木が1本生えているだけで辺りには何も無かった。

「じゃなくて!コレだよ!多分だけど…」


 タリエルは下を指さす。その木の下に置いてある岩の方だ。


「え?どれ??」

「コ、レ!!『マルたんのお墓』!!」


「おはっ!?お墓??」


「あー、少し経緯を話そう。長くなるしスケアガーゴイルに行かないか??」

「はーい」
「なんなのよちゃんと話してよ!」

「「だから話すってば!!」」

「あ、はい」シュン…








 ハックとタリエルは、喫茶店『スケアガーゴイル』にてお茶を飲みながら今までの経緯についてリディに説明した。

・勇者○○が現れた事
・勇者○○は黒いメニューボードを所持していて、ある種の能力が使えた事
・1度現実世界に帰る様な演出があったが、その時空から落ちてきて命を落とした事
・その後にプレイヤーからNPC属性に変更されて本格的に現実世界に帰れなくなってしまった事。



「ふぅ、成程。そんな事があったのね…」

「そういう訳だ。これが我々の知っている勇者殿についての情報だ。」

「さ、今度はそっちが話す番よ!」


「珍しいな。知り合い?」

「「あ、アンジェラ!!」」

 メイド服姿のアンジェラが接客しに来た。

「ちょうどいい、アンジェラ殿もこの話に加わってくれ!」

「マルたんの事が分かるかもだって!!」

「何!?ユーシャ??」ガダン

 アンジェラも席に付いた。


「何この…ごっついメイドさん??」

「<可もなく不可もなくユージュアリー>のアンジェラだ!ユーシャのパーティーメンバーで戦士!」

「ユージュア…あぁ!アンジェラね!」

「…うん?知ってるのか?」

「あぁいえごめんなさい!こっちの話!私、リディって言います。」

「よろしく」ギュ

「いたた!凄い力ね!」

「いいから話はじめてよ!魔女っ子!」

「魔女っ子!?失礼ね貴方よりも歳上よ!」

「あぁもう話を続けてくれ!」

「「は、はぁ〜い」」



 今度はリディが話始めた。自分はゲームの開発チームで、テストプレイの日に自分が間違って勇者○○をNPCに変えてしまった事と、この前こっそり隠れてファステに現れ、その時に初めて勇者○○とコンタクトを取った事を。

「今は…ゲーム配信に合わせてデバックプレイの許可が正式に降りたからこうやってゲーム世界に来てるって訳。」

「デバックプレイ?」

「ゲームにバグが無いか実際に試して見て粗を探す事よ。私はその権限を持って居るからコレを持ってるの」

 そう言ってリディは再度黒いメニューボードを取り出して見せる。


「おぉ!ユーシャと同じ!!」

「1つ質問がある。空がああなってしまったのはそちらが関係していると見て間違い無いか?」

「あぁあれ?そうよ。細部の情報をアップデートしているだけだから心配要らないわ。」

「アップデート??」

「あー、気にしなくていいわ。このゲームがより良い世界になるって事だから心配しないで。」

「「「は、はぁ」」」

「ねぇ、なんでマルたんのメニューボードは読めないの?」

「それについては回答出来ないわ。そもそもなぜあの人が持ってるかも不明なの。コレは権限を持っている人にしか扱えないハズだし、例え他人に奪われてもメニューボードと同じで消えてしまうわ。」

「でも、マルたんのはアイテム化してたよ?私触れたもん。」

「…ぇえ!?ホント??」

「それは確かだ。私も触る事が出来た。」

「待ってよほんと頭痛い…こんな事になる訳無いのよ!そもそもゲームに人が取り残される事自体がおかしい話なの!」

「まてまて!それを我等に言われても困る!」

「そうよ!1番困ってたのはマルたんなんだからね!!」

「…で、ユーシャの話はどうなったの?」


「「「そうよ!」」」ガダン

 アンジェラに核心を付かれて3人は立ち上がった。

「アンジー!マルたんこの街にまだいるかもだって!!」

「え!?本当なのか??」

「それが…どうやら勇者殿の墓の下に居るらしい。」

「ユーシャの墓の下!?居なくなってからもう何日も経ってるぞ?」

「詳しい事は分からない。けど、あなた達に手伝って貰うわよ!」

「な、何をするのさ?」

「……決まってるじゃない。『墓荒らし』よ」

「「「墓荒らしぃ!?」」」



第107話 END

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