NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第106話 #6 『見よ、勇者は帰る』




 あれから何日か経った。




「………はぁ〜。暇だねぇ〜」

「ふむ…そうだな」



─鑑定局ファステ支部に入り浸る日々。


 それは、ハックとタリエルにとって『いつもと変わらない日常そのもの』だった。





「………マルたん、いつ帰って来るかなぁ〜」

「ふむ……そうだな」



 そう、勇者がこの大陸こっちの世界に来る『前の』日常だ。




「………ねぇ、ちょっと聞いてる?」


「ふぅむ………そうだなぁ」



バシンッ


「ハックさん!」

「なんだ騒々しい。私は魔導書の執筆に忙しいのだ!」

「さっきからそれ!全然進んで無いじゃん!!」



「え?……あ」


 ハックは手元を見た。それは魔導書の新たなページに意味の無い文字を書き加えては黒く塗りつぶした、落書きの様な物だった。







 結局あの日の晩以降、勇者はファステこの街から居なくなった。プレイヤーが大陸に押し寄せたあの日、彼は嵐の様に現れて、そして颯爽と消えてしまったのだ。





「しっかりしてよ!こんな時だからこそ頼りにしたいのになんでハックさんの方が腑抜けになってんのさー!」

「すまない。考え事をしていた。」



「はぁ〜〜〜。」ガクッ

 タリエルはカウンターの上に大きく項垂れた。

「マルた〜ん…寂しいよぉ〜」

「そうだな…」


 勇者○○がこの店に現れるまでは、この大陸が作られた物だと唯一知ってる2人であり、2人で誰にも相談出来ずに協力してきた仲だった。


 今は違うが、元の関係に戻っただけの2人には計り知れない程の喪失感が心に残った。


 それほどまでに、『勇者○○』と言う存在は大きかったのだ。





「………ん!!良し!!」パチッ



 タリエルは両頬をパチンと叩くと気合を入れ替え、店の奥から大きめの木箱を持ち運んでくる。


「何をするのだ?」

「決まってるでしょ!?マルたんが帰ってきた時の為に、私に必要な事を進めるのよ!」

「必要な事?」

ガチャンッ

 タリエルは木箱をカウンターの上にひっくり返した。出てきたのは…


「なんだこれは…?クロスボウにスリングショット、投石器に投げナイフ…これは…シュリケン?それと吹き矢にチャクラムにブーメラン…何だこの武器の山は?」

「じゃーん!!店員割引で買い揃えた私の武器よ!」

「こ、こんなに使うのか!?」

「違うわよ!前にカモだったかが言ってたしょ?私に足りないのは『遠距離武器』だって!身長差を活かす為に遠くから攻撃出来る手段が必要だって!とりあえず手当り次第揃えて使って見るのよ!」

「なるほど!適正がある物を探してそれを使い込む訳か。考えたな。」

「そ、これからは1日1時間ぐらいなら外出て練習も出来るし、マルたんが帰ってくる前にどれか1つでも使える様にしておきたいのよ!」

「…わかった!私も協力する。それに魔法系の飛び道具もあれば手段の範囲が広がるはずだ。少し調べて用意しよう!」

「さっすがハックさん!錬金術師も伊達じゃ無いわね!」

「ソナタに腑抜け呼ばわりされる程落ちぶれては居ないからな。どれ、早速調べるとするか。」



 タリエルはカウンターの上の武器を綺麗に並べて、それに見合った使い方の本を探す。

 ハックは魔力や低級魔法を込めて爆発させる投擲系のアイテムについて調べ始める。こういったアイテムは魔法が使えない者が使用するのでハックにはあまり馴染みが無かったからだ。



 やるべき事が見えた今、2人の目には先程までの気の抜けた様子は見られなかった。むしろ1分1秒が惜しいまでに感じられた。





 ─全ては、勇者○○が帰ってきた時の為に─
















ガチャ


「あの…すみません」




 鑑定局に誰か来客が来た。


 なのにタリエルは接客しなかった。何故なら、武器のハウツー本を読みふけって居るうちに眠りこけてしまったからだ。



「……奴ならその本の下に居る。用があるなら呼び続けるがいい。」


 仕方なく店主の代わりに接客をするハック。


「うわぉ!びっくりした!誰も居ないかと思った…あなたは?」

「私か…?」

 知らないのならば答えてやろう。そう思いハックは颯爽と立ち上がる。


「この私を知らないと見ると初めての来訪者だな?ならば教えてやろう。私こそ漆黒なる深淵の追求者、ハック・ザ・マスターアルケミスト!この街で最も優秀な錬金術師だ」
 

「は、はぁ。どうもありがとうございます。アルケミストさん?」

「ハックで良いぞ」

「それで、このお店の人って…本の下??」


 本の山を押しのけてタリエルが立ち上がった。寝ぼけ眼に口からはヨダレを垂らしている。


「…ん?ヤバ!お客さん!?…ゴホン!こちらは鑑定局ファステ出張所、タリエル・チリードルがお受けします。買い取りですか、それとも鑑定です…ふぇっへっくちゅん!」

「汚い奴だな。来客だぞ、鼻をかめ」

 タリエルは紙を取り出しズズーッと鼻をかむ。

「えーっと…それで、ご要件は??」

「あ、えーっと…物を買いに来た訳じゃ無いわ」

「それでは鑑定ですか??」

「いえ、そうじゃ無くて…」


「「??」」



「人を探しに来たんです。さっき食堂に行った時にここなら分かるって聞いたから」


「「え??」」


「丸丸って人探してます。勇者○○って人を」


「「えぇ!?」」



 その女、古風な魔法使いと言った出立ちのピンク色の髪の女は、確かにそう言った。











「それで…勇者殿にはどう言った要件なのかな…えーっと…」


「えと…リディです。リディ・ドレイアム」

「わかった。リディ殿。」

「ちょっと…個人的な事で話があるので内容は言えません。」

「「個人的な事??」」


 タリエルとハックは顔を見合わせる。

「ねぇ…あなた何処から来たの?」


「えと…プリウェイ…です」

「「プリウェイ!?」」

 タリエルが地図を出す。ハックものぞき込む。


「あなた…随分遠くから来たのね?そんな所からマルたんを探しに?」

「マルたん?…あぁ、あの人の事ね。すぐ済む用なんでいる場所だけでも教えてくれれば良いんです。教えて下さい。」



((あやしい…))


 プリウェイは王都のすぐ近くにある街。そんな所から何故勇者を探しに来たのか。そもそも何故その様な遠くに勇者○○の存在を知っている人物が居るのか。

 2人の抱くリディに対する不信感は募るばかりであった。

「ねぇあなた何者??」

 シンプルにタリエルが疑問をぶつける。

「や…ただの冒険者です」

「リディ殿、パーティーメンバーはどちらに居るのだ?」

「パーティーは…いません。私一人です。」

「ふぅむ。おかしいな。そんな遠くから単身で来られるとは。失礼だがレベルはいくつだ?」

「え!?いや…1です」

 ハックは相手に気付かれないように身構えた。タリエルと一瞬目線を合わせ、警戒するようお互い合図する。


「その様な遠くの街から従者も連れずに初級レベルの者が行き着ける程ファステへの道程は甘くない。もう一度聞こう。そなた何者であるか?」

「や、だから人を探しに来ただけで…ただの冒険者です」

「そんな訳無いでしょ!あなたマルたんに何するつもりなのさ!!」

「ちょっと!話を聞いてよ!探してるだけって言ってるじゃない!」






「…まさか、勇者殿が『現実世界』とやらから来た事を知っておるな??」



「「な!?」」


 ハックの発言を聞いて2人が絶句する。

「この大陸に『勇者』と言う職業は存在しない。それなのにその名前を聞いて疑いもしない。ましてやレベル1となると周辺地域の情報すら乏しいはずなのにプリウェイから真っ直ぐここを目指した。つまり…」

「つまり…??」

「最初からそれらの情報を知っていてファステに来たのだろう。そうであろう?『運営殿』」


「えっっ!?!?」


 タリエルが絶叫しその女を振り返る。




「うあ〜〜も〜〜なんなのよなんであんた達知ってるのよ!もうまどろっこしい!大体にしてなんで私が気を使ってあなた達と話してるのにそんなにズケズケ人の事言い当てられる訳!?信じられない!!」


 その女…『リディ』は地団駄を踏んだ。

「そうよ!私は運営よ!!あんた達の仲間の嘘つき野郎勇者○○をとっ捕まえに来たのよ私は!!」


「「う、嘘つき野郎…?」」






第106話 END

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