NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第105話 #5 『見よ、勇者は帰る』



 ─大陸の空がプログラムで埋め尽くされてから、3日が経った─



「おーい、荷物はもう大丈夫か??」


「ありがとう、勇者君。これで全部よ!」

「これから寂しくなりますねぇ」

「って言っても1ヶ月ぐらいの予定だろ?あっという間だよ」

「マリーナ嬢、サイカ殿の教えをしっかり学んで来るのだぞ?」

「はい!それじゃあ、ハック先生、マルマルさん。お元気で!」


 サイカとマリーナを乗せた馬車は、ファステの街を出発してサイカ夫であるシゲアキの故郷、『ヒガンの里』に旅立って行った。




 結論から言うと空がプログラムに覆われてから、『特に何も起こらなかった』のである。


 街の中も、フィールドもいつも通りの時間が流れている。


 変わったのは昼も夜も空の上に文字列が表示されているぐらいで、住民の生活には何も影響が無かった。



 その為、勇者パーティーのメンバーはむしろ何かが起きる前に先に行動しようと言う結論に至り…


初日にはカルガモット

2日目にはヤンド

3日目の今日はサイカとマリーナが旅立って行ったのであった。



「……さて、後はファステに残った俺達か。」

「うむ、では今日はアンジェラ殿の様子を見にスケアガーゴイルに行くとするか」

「お!いいねぇ!あそこのお茶好きなんだよな!行こ!!」


 サイカとマリーナを見送った勇者とハックは喫茶店スケアガーゴイルに立ち寄ることにした。









─喫茶店『スケアガーゴイル』



カランカラン…

「いらっしゃい…なんだ、お前らか」


「なんだとはなんだよ!」

「アンジェラ殿、お邪魔させて貰うぞ。」


「じゃあカウンターに座って。」

「ガバジュジュグ、ブブシュ」

「「マスターさんどうもです〜」」



 カウンターに座ってメニューを見始める2人。

「…なぁ」

「ん?」

「おい」

「…なんだ?アンジェラ殿?」

「な、何とか言えよ!」

「「え?」」

「服!!あと髪!!」

「「あ、あぁ〜」」


 アンジェラは前に働いていた時とは違って、しっかりサイズの合っているメイド服を着ていた。しかも髪型も前にハックにセットしてもらったツインテールを自分なりに結っていた。

「「に、似合うよ?うん」」

「そうか!!良かった!!」

 しかしアンジェラは作業しづらいのか袖を捲っており、筋肉質で逞しい、うっすらと刀傷が浮かぶ腕を堂々と見せつけていた。

 それが、メイド服とツインテールに全くもって合っていなかった。



「えーっと…注文は…そうだなぁ。アンジェラが何かお茶入れてくれよ」

「わかった!マスターに聞いてみる!」

「私の分もそれでお願いする。」

「かしこまりました!」


 アンジェラが厨房に入っていき、マスターと話をしながら二人分のドリンクを作って持ってきた。



結果は…



「うーん。ただのお湯」

「うごっ!アンジェラ殿!ゴホッゴホッ!!凄まじく濃いぞ!?」



「……やっぱりか」


「「やっぱりってなんだよ!?」」



 流石に修行3日目ではそこまで技術の向上は見られなかったアンジェラだった。









─鑑定局ファステ支部



ガチャン

「おーいタリエル!」

「あ、マルたんおかえり〜」


「うん、やはりこの店にはソナタの店員としての姿が無ければしっくりと来ないな。」

「そう?ありがとね、ハック先生。2人は何してたの?」

「サイカとマリーナを見送って、その後アンジェラの所に行ってお茶飲んできた。」

「へぇ!いいなぁ〜。私も見送り行きたかったけどちょうどそのタイミングで冒険者ギルドから仕事入ってたんだよねぇ。」

「ヤンドも昨日あんなに朝早くに出発しなくても良かったのにな。それなら皆で見送り出来たのに。」

「ヤンド殿の場合はあの呪いのせいで馬車にも乗れないからな…1人で歩いて行くって言ってたけど大丈夫であろうか…」

「ま、ヤンドなら大丈夫っしょ!何とかなるわよ」

「それで、そちらの方はどうなのだ?タリエルよ。」

「ぜーんぜん返答無いね〜。向こうもそれ所じゃ無いかもだけどさ。」

「タリエルも時間かかりそうか。仕方無いよなぁ〜」


「ねぇ、2人はどーするの??」

「「え?」」

「みんなが帰って来るまでの間だよ!まさかずーっとプー太郎してる訳じゃ無いでしょ??」

「そう…だよなぁ」

「とりあえず明日は協栄ギルドか冒険者ギルドに行って何かクエストを見繕って来よう。…私としては少し資金稼ぎをしたい所なのでな」


「ん、了解!」

「なーんかマルたん腑抜けになったぁ??みんな居なくなったら途端に気が抜けてるよ〜??」


「ん〜?そうかぁ??」


「…まぁ、今日の所はこれで帰るとするか。勇者殿。」

「え?」

「たまには男同志で酒でも飲みながら話すのも悪くない。だろ?」


「うん。そうだな」

(マルたん大丈夫??)ヒソヒソ

(空があの様になってから考え事をする事が多くなってな。私が話を聞いてみるとするよ)

(おっけー!任せたよハックさん)


「それでは帰るとするか。」

「はいよ、また明日な、タリエル」

「はーい!今度はなんか鑑定する物持ってきてね!」



 そう言って2人は鑑定局から帰って行った。








─夕暮れ時、錬金術工房の前の草むらにて



 緩やかにそよぐ風が、辺り一面の草むらに波を立てていた。


 その波をぼんやりと眺める勇者。そのちょっと後ろに座って街を見つめるハック。


「…帰る事を考えていたのだな?勇者殿は。」

「あぁ、多分近いと思う。あの空が綺麗な空に戻った時、なんじゃないかなぁ〜って感じるんだよな。」


「そうか…」

「ま、でも戻ったとしても、永遠にこっちに来れなくなる訳じゃ無いからな。さすがに毎日は来れないかもだけど、ゲームだけが俺の今の唯一の楽しみだしさ。すぐ戻って来るよ。」

「そうか…うむ。」




「「……………。」」


 2人の間に言葉は続かなかった。

 ハックは無言で酒を取り出し、瓶を1つ勇者に手渡す。



「…ありがと」

「…気にするな」



カチャン


グイッ



 特に乾杯する訳でも無く、2人は酒瓶を交わして飲み始める。


「ふぅ。美味いなここのブドウ酒は。俺あんまりワイン得意じゃなかったけど、今となっては思い出の酒だよ。あはは」

「出来ることなら、勇者殿の世界の酒も飲んで見たいものだな。」

「うーん。それは難しいかなぁ〜」

「作ってみてくれないか?」

「酒を??ただの一般人に作り方なんて分からないよ」

「それは残念だ」


「「あはははは!」」


 2人は残念と言う言葉を聞いてカルガモットを思い出し、笑いあった。


「さて、工房の中に入ろう。少しぐらいならツマミも用意出来るぞ」

「おー俺も手伝うよ!さてとっ」



 勇者は立ち上がろうとした時、ブーツの紐が解けているのを見てしゃがんだ体制のまま結び直した。


「後もう少しすれば王都へ行くぞ。それまでは勇者殿にここに居てもらわなければ困る。王都にさえ拠点を構えればいつだって勇者殿が帰ってもまた会うことが出来るからな。」


「王都ねぇ……うーんっく……」


 勇者は紐を直すとそのまま立ち上がり、大きく背伸びした。


その時…






  ビュウウゥゥゥ〜




 先程までとは違い、少し強めの風が2人の間に吹いた。


「うおっと…さて入ろう。夜も近くなって寒気がしてきたな。」






……………コロン




「………ん?」


 ハックの足元に酒瓶が転がってくる。先程まで勇者が飲んでいた瓶だ。


「………勇者殿?」


















 ハックが振り返り勇者のいた方向を向いたが、辺りには誰も居なかった。












「…………勇者殿!?」











第105話 END


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