NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第95話 #25ep『娯楽と堕落の街カッポン』
─翌日─
「おーい!もうちょっと上げてくれ〜!」
「こうか〜?」
「あ、いいよそのままキープで!」
温泉宿の看板が取り外され、新たな看板が住民によって設置されている。その看板にはこう書かれていた。
『勇者○○温泉』と。
「うーん…なんか違和感あってしっくり来ないなぁ〜」
「ねー!マルたーん!!」
看板を眺めていた勇者の元に、タリエルが走って近寄ってくる。
「街の入口の方で確認して欲しい事があるんだって!」
「はいよ、了解〜」
タリエルと一緒に街の入口まで歩き進む勇者。
「お!勇者さん、お疲れ様です!」
「マルさん!チィーっす!」
「オッス!前失礼します!」
街ゆく人々は皆勇者を見る度に、声を掛けていく。
それは、この街が勇者の支配下に治まったからである。
「うーいみんなお疲れ〜」
「「「押忍!」」」
カッポンの人々は驚く程素直に勇者の支配下に治まることに同意した。何故なら…
「あ!マルさん!お疲れッス!こっちです!看板の文字を確認して頂けませんか!!」
「ふーむ、どれどれ…」
温泉の街『カッポン』へようこそ!!
旅の方、どうぞごゆるりとお過ごし下さい。(入浴は無料です)
*警告* この街は、勇者○○様の支配下の元、グロットン一家が仕切っている縄張りである。無法者はそれを承知の上、足を進めよ。
なお勇者○○様の手下には…
・前チャンピオンと互角だった豪傑の『女戦士』
・そのチャンピオンを一撃で倒した鬼の『狂戦士』
・一晩で賭博場を荒らした『現金の亡者』
・剣戟の達人でファステ領の『元領主』
・人喰いブッチャーの『一人娘』
・その乳母で、ブッチャーの元手下の『女忍者(現、主婦)』
・ボコボコにされたけど実は名家生まれの『魔導師』
…の、皆さんが居ます。不義を行う者を通報すると勇者○○様より恩恵を頂く事が出来ますので、騒ぎたい暴れたい方はどうぞご自由に。
「……良し!これでいい!」
「へい!分かりやした!取り付けます。…おーいこっち手伝ってくれ!」
そう声を掛けられて随分とガタイの良い作業員が大きな看板を持ち上げて運ぶ。その顔はどこかで見たそのものだった。
「ちゃんとしっかり働けよ?ゲロッ…『ガ』」
「もちろんです。このチャンスは絶対に逃がしません。失礼な真似をしてすいませんでした!!」
「いいって事よ!じゃあな!」
「ウス!!」ペコリ
それはどう見ても地下闘技場のチャンピオン、ゲロッギだった。しかし勇者は『ゲロッガ』と声を掛けていた。それは…
グロットン一家と今後の事で話し合った時、どうしても街を守る為に用心棒が必要だという問題が現れた。外から来る奴に舐められない、実績を持つ用心棒が。
そこで、勇者達は話し合って『ゲロッギ』を復活させる事にした。ただし勇者達が安易にキャラクターを復活させられると知られては困るので、『実はゲロッギには双子の兄がいて、毎回試合には交代で出場していた』という事にした。それでナユルメツに復活して貰ったゲロッギはこれから『兄』のゲロッガと名乗る事に皆で取り決めたのだった。
「……何が良しだ、勇者殿。」
「お?ハック、どうしたんだ??」ニヤニヤ
「どうしたもこうしたも無い!なんだあの看板の文字は!!何故私だけマイナスイメージが強いんだ!」
ハックは看板に書いてある『ボコボコにされた』という部分を指差し激怒している。
今この看板が設置されているのは街の入口に取り付けられる1番大きな看板なのだが、既に街のあちこちには大なり小なりの同じ内容の看板が設置されていた。
この看板のおかげでこの街に住む山賊や無法者達は大人しく勇者の支配に従っているのだ。このような事が書かれてこれに従わないのは命知らずか相当のマヌケだけだ。
ちょうどその時…
「うわぁ!ひったくりだぁ!?!?」バタンッ
その『マヌケ』が1人、通行人から財布を盗んで走り出した。すると…
「なにィ!?ひったくりだと?こいつはラッキーだ!!」
「とっ捕まえろ!」
「俺だ!俺が先だァ!!」
今までならこの街で犯罪が起きても、取られた奴が悪い程度にしか認識されなかったが今は違う。
皆勇者からの恩恵が欲しくて奪い合う様に犯罪者を捕まえるのだ。
「ぐっ!!クソっ!」ガシッ
「うおっしゃあ!!俺が捕まえたぜぇ!!」
「いや俺だ!足を引っ掛けて転ばしたのは俺だから、俺の功績だぁ!」
「俺だって3ブロック前から走って追っかけてたぞ!?おれだぁ!」
「ハイハイみんな落ち着いて」
「「「あ!マルさんチィーっす!!」」」
「こいつがかっぱらいです!捕まえました。」
「おう、連れてこい。」
ひったくりは雁字搦めにされて勇者の前に出される。
「ひぃぃ!」
「お前、『俺の街』から盗みを働いたな?」
「い、嫌だ!離せ!」
「おいおい勘違いするなよ?別に『盗んだ事』に怒っちゃいないぞ?盗まれる様な無用心な奴にも問題あるからなぁ?もし目の前にそんな奴がいたら俺だってそうする。」
「…え?じゃあ…」
「でも『盗む』っ事は『盗まれても』文句はない。そうだよな?そのつもりが無けりゃ最初から盗まねぇもんなぁ??」
「う…うわぁ」
「俺の街から盗むって事は、俺から盗みを働いたのも同じだ。だから俺がお前から盗んでも文句ねぇよなぁぁぁあ!??」
「ひぃ、ひぃぃいい!」
「お前は金を盗んだ。俺が考えるに、金と命は同じ重さだ。なら、てめぇから命盗っても問題無いよなぁぁ!!あぁ?」
「すっ!すみませんでしたァ〜〜!!!」
「…良し、連れてけ。さっき捕まえるのに協力した奴は1列に並べ!褒美だ!!」
勇者は1人ひとりに100Gづつ金を渡す。
「「「アザーっす!!」」」
「おー、次も頼んだぞ〜」
協力してくれた住民達は勇者に一礼して元いた場所へと戻る。その一連の騒動を眺めていた勇者チームの面々はため息をついた。
「…なんか、マルたんってさぁ。」
「そう思いますか?タリエルさん」
「うーん、自分もたまにそう思いますが…」
「アレはねぇ…」
「完全に悪役」
「言っただろう?だから奴は『ニセ勇者』なのだ。」
「うーむ、根は悪い男では無いのだがなぁ…」
「「「どう見てもカタギには見えないよなぁ(よねぇ)〜」」」
別に元から礼儀正しかった訳では無い。
真面目に働いてはいたものの、時に見せる仕草や言葉使い。
普段は頼りない1面も見せるが、相手の弱さにするりと入り込む鋭さ。そしてその度胸と威勢。
そして最もビジュアルを崩しているのは勇者らしからぬ愛用の武器、『ドス』。
元からこの街に住んでたと言っても違和感を感じない程にその仕草は馴染んでおり、「ヤクザ者」以外の何者でも無かった。
「あ!おーいみんな集まってたのか!」パタパタ
勇者が手を振り近付いてくる。そしてそれを迎える仲間達のあまり良くない顔色に気付く。
「ん?なんかあったか??」
「「「別にぃ〜」」」ジィィ〜
「???」
「それよりそろそろお昼だけど、これからどうすんのさー?」
「あ、そう言えば旅に必要な物買えたのか??」
「…どこの店行っても定価の半分ぐらいの値段まで下げてくれたわ。流石にやりくり上手のサイカ母さんでも、ここまで安くは買ったこと無いわ!」
「むしろ…ここまでやられると申し訳なくなってきますね。」
「良いじゃねぇか!ぼったくられるよりマシだろ??」
「「でもねぇ〜」」
「ではニセ勇者よ。必要な資材も買えたし、ファステに向けて出発しよう。今から出れば夕方にはファステに付けるぞ?」
「おいおい待て待てカルガモット!いっちばん大事な事忘れてるぞ??」
「何かまだ用事があるのか?勇者殿??」
「決まってるじゃないか!温泉だよ!!俺達で復活させたんだから最後に一風呂浴びて帰ろうぜェ!!」
第95話 END
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