NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第94話 #24『娯楽と堕落の街カッポン』



 カルガモットとワバズは第3回戦が始まる前に先に屋敷の中へと移動していた。


「今頃姉貴が俺の仇を取ってくれてるさ。その時は覚悟しておけよ!」

「…随分と自信満々だな?勝負も見ていないと言うのに。」

「そりゃそうだ!俺達グロットン一家は実力でこの街の権力者に成り上がったんだ。今まで散々な目に沢山会ってきたが…それが今の俺達を作り上げたんだ!だから負けねぇ!!」

「ふむ、そうか。では最後の試合が終わるまで待たせて貰おう。」

「フン!!覚悟しとけよ…その時がお前とファステの最後だからな!」



 その時、地下闘技場からの通路から人の話し声と足音が聞こえてきた。

「来たぞ!!どうやら俺達の勝ちみたいだな!姉貴の声が聞こえる!」

 確かに、女性と思われる声がする。音はどんどん近付いてきた。


ガチャン

「お帰りなさい!姉貴!!勝負の方は順調でしたか?」


「…あぁワバズ、待ってたのか。もちろん私達の全面降伏だよ。」


「…はい?……えぇっ!?!?」



 カシリアの言葉も信じられなかったが、もっと信じられなかったのはカシリアが勇者と腕を組んで歩いていた事だ。


「よぉワバズ!だっけか?そう言う事だから仲間のロープを外してくれないか??」

「…と、言う事らしい。さっさと外してくれ。」グイッ


 カルガモットは縛られた腕をワバズに突き出す。ワバズは状況が理解出来ないものの、数年ぶりに上機嫌になっている姉の姿を見て従うしか無かった。


「…どうなってやがんだ!?」ブチッ

 カルガモットは縛られた腕をさする。

「で、貴様はどんな汚い手段で勝てばこの様な結果になると言うのだ?ニセ勇者よ。」

「失礼な奴だな。『勝ちは勝ち』だぞ?」

「なら、何故他の仲間がシラケ切った表情で貴様を見ているんだ?」



「「「じぃ〜〜〜」」」

「ま!まぁ!とりあえずコミュランクは下げとくか!あはは!」パチッ

 勇者がウィンクをすると、カシリアから登るピンクなオーラは一瞬で消え去った。


「…………ん?」

「どうだ?正気に戻ったか?カシリア。」



「………うぇぇえええぇぇ!!」ゲロゲロ


「うわぁぁぁぁ!?」




 正気に戻った途端、カシリアは嘔吐した。状態異常『泥酔』の1歩手前まで飲んでいたカシリアだったが、勇者○○に全力で惚れるというバフのおかげで体勢を保てて居たのだろう。それが解けて、一気に酔いが回ったようだ。


「うわぁ!姉貴!!大丈夫か!?」

「これはまずい!と、とりあえず寝室に連れて行くぞ!」

「こりゃそれよりも風呂が先だ!」

「バカ!こんなに酔ってて風呂なんか入ったら余計酒が回っちまう!」



 何とか勝負は着いたものの、何とも締まりのない終わり方だった。









「…………ぅん?」


 カシリアは自分の寝室で目が覚めた。

「大丈夫か!?姉貴!」

「うぅ〜、くはぁ。…ワバズ、済まないドジった。」

 カシリアが目覚める前にナユルメツがある程度会話が出来る最低分だけ回復させておいたので、二日酔いで潰れる事は無かった。


「…もう話は出来る状態か?」

 カシリアのベッド脇には、ワバズの他に勇者とカルガモットが座っていた。

「てめぇ等…一体どんな手を使いやがったんだ?」

「ふふん、そう簡単に手の内晒す奴なんかいねぇさ。」

「……………分かった。負けを認める。」


 勇者とカルガモットは少し驚いた。もっとごねたり言い訳を言ってくるかと思っていたからだ。随分と素直に認めたカシリアを不思議に思った。一方ワバズの方は不満タラタラという表情だが。


「では、話をこのまま進めさせてもらう」

 勇者と顔を合わせてから、カルガモットが仕切った。


「我々がこの街に戻った理由は1つ。この街を無法が蔓延る状態のまま放って置けないからだ。だがその前に1つ聞きたい。街の手前にあるあの『墓』はなんだ?」


 カルガモットが少し厳しい口調で話す。




「………アレは、この街に元住んでいた人達の墓だ。」


「ほう、やはりそうか。ではその理由を聞かせて貰いたい。」


「…アンタらはあたし達がここの住民を皆殺しにして乗っ取ったと思ってるんだろう。だがそれは違う、我々グロットンがこの街を守ったのだ。」


「…どういう事だ?」

「数年前に遡るが、グロットン一家は旅の途中で壊滅の寸前まで行った事がある。その時辿り着いたのがこの街、カッポンだ。」

「それで?」

「昔からここら一帯には傷を癒す温泉が出ると評判だった。あたしらはそれを求めていたんだよ。だが当然、山賊にそんな場所を貸し与えてくれる訳がないと思っていた。…だけど、この街の人達は違った。」


「うん?」

「どんな奴でも、ここの温泉を求めて来る奴には平等に癒しを与える。そう言ってくれてその時の町長は我々を歓迎してくれた。しばらく傷が癒えるまで滞在する事を許可してくれたんだ。」


 カシリアは俯きながら話を進める。

「正直言って本当に助かった。ウチらみたいな与太者に親切にしてくれるなんて思っても見なかったからねぇ。だからあたし等は休ませて貰う代わりに、ここの街を守る事にした。」

「ほぅ!」

「だって当然だろ?良くしてくれるならそれ相応の対価は支払うべきだ。いくら無法者だってそこら辺の流儀は抑えてる。あたし等と街の人との関係は上手く行ってたが…そう長くは続かなかった。」


「何があった?」

「温泉が少しづつ出なくなってきた。それだけならまだよかったんだけど、今度はそれに合わせて流行病が伝染してきた。」

「病だと!?」

「元の住民ばかりが病に罹って次々に倒れて行った。何とかしようとしたが、どうにもならなかった。温泉に浸かれば治ると思っていたが、その温泉も日に日に出なくなって行く。…心無い人があたし等みたいなモンに温泉を貸したからバチが当たったとか、呪いがかかったって噂話を流しやがったんだが…それでも住民達はあたし等を気遣ってくれた。」

「そんな事があったのか…」

「結局、1年も経たずに街の住民は全滅した。温泉も出なくなった。でもあたし等は一宿一飯の恩義は絶対に返すのが掟の野盗だ。だからこの街をそのまま守る事にした。命の泉で身体を癒す者を拒まずに受け入れられるように。」

「…ふぅむ。」


 カルガモットは腕を組んで、何かを考える様に上を見上げた。


「でも、変化が起きた。グロットン一家がこの街を抑えたって噂が出てから野盗や山賊の類の連中がここに集まる様になった。それで気付いたんだよ。真っ当に生きてない連中にだって心休まる場所が必要だって!!」

「それでこの街を温泉街にして、それらの類の者を受け入れたのだな…」

「そうさ。それがこの街の、新しいあたし等のカッポンの成り立ちさ。」

「1つ疑問がある。ファステ領の人間が誰か来なかったか?」

「…来たよ。アンタの父親、前ファステ領領主がね。でも直ぐに帰った。」

「…何?」

「野盗の群れに占拠されてるって噂を聞いて、幾人かの衛兵を連れてここに来た。…でも、街の前の墓場を見て帰った。」

「どういう事だ??」

「分からない。『この墓はお前らが作ったのか?』と聞いて来たから、そうだと答えた。…そしたら、今のアンタ見たいな考えるポーズして、何も言わずそのまま帰ったよ。」


「父上はきっとこう考えたのだろう。死者を手厚く弔う様な者を心配する必要がないと。…なるほどだから『何も見なかった』という体でこの街の話は私に伝わらなかったのだな。」


 カルガモットは全てに答えを得られて納得した表情だ。

「分かった。そうであるならば私も関与しない。ただし、それらはこの街だけに止めておけ。ファステ領や他の地域に進出するな。それならば手出しも口出しもしない。」

「ありがとう。話の分かる領主さんで助かるよ。」

「…『元』、領主だ。」

 そう言ってカルガモットはスっと後ろに下がった。


「…でもよぉ?俺達はそれを守るが、他所から来た奴らはそれを知らねぇし守るもんも守れねぇぞ?それはどうするんだ??」


 ワバズは最もな事を言った。


「…よし、話は聞いたから、コレから俺がチームの代表として、今回の勝利の対価を言う。…多分それでこの問題は丸く収まる筈だ。」

 ハックが横から口を挟む。


「何を求めるのだ?勇者殿よ?」
































「カッポンは、俺の支配下に入ってもらう。」



















「「「「はぃ!?!?!?」」」」











第94話 END

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