NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第93話 #23『娯楽と堕落の街カッポン』



「それじゃあ、俺達の最後の戦いに、乾杯。」

「…乾杯。」カチャン

 カシリアとグラスを交わす。そしてゆっくりと最初の1杯を2人は飲み干した。


「っっっくはぁ!!」

「ぷふぅぅぅー!!コイツはいつ飲んでも効くねぇ!」


 2人は顔をしかめる。美味しいという意味よりも、あまりのアルコール度数の高さにだ。







「多分5分もしないウチに決着が付くだろうから、私達は帰り支度を進めよう。」

「そうだね!」

「マルマルさんもあの『能力』使うのホント好きですねぇ。」

「噂には聞いてたけど、『アレ』ってかけられるとどうなるの??」


 皆の視線がタリエルとマリーナに集中する。

「…頭の中が真っピンク色に染まって、マルたんの事しか考えられなくなる。」

「「ワァオ」」

「私も1度勇者殿の『恋の魔法』にかかった事があるが…アレはとてつもない影響を及ぼすな。」

「え!?それって男の人にもかかるんですか!?」

「そーよヤンド!だから気を付けてなきゃマルたんに『お持ち帰り』されちゃうよ?気をつけてね!」

「そんな…リーダー…」

「流石に勇者殿だってそこまで節操のない訳では…」






「「「いや、あるか」」」ウンウン




 最早決着が付いたと言っても過言では無い最後の試合は、勇者チームに取って余興ぐらいの感覚でしか無かった。リングサイドで応援する人も居なかったのである。





「そう言えばまだ聞いて無かったねぇ。名前は?」

「俺か?俺の名前は○○だ。勇者○○」

「…なんだいその名前は?偽名かい?」

「いやまぁ諸事情あってだな…」

「まぁいいか。本名名乗れなくなる奴なんかこの街に沢山いるからな。…ほらとっとと次行くよ。」クイッ

 カシリアが手で仕草をすると、バーテンダーが2人のグラスに酒を注ぐ。

 また同じタイミングで2人は飲み干した。どちらも表情をしかめる。


「……くぅ、それで?なんでこの街に戻って来たんだ?」

「…温泉に入りに来た。後は俺の仲間のカルガモットがあんたらに話があるからそっちで聞いてくれ。」

「!!もしかして、温泉ってお前らか??」

 温泉という言葉を聞いた時、カシリアの目は少しの間だけ大きく開いた。多分また温泉が湧き出した事を言っているのだろう。


「……………さぁな。」

 その仕草を感じ取り、勇者は少しだけ濁した。

「フン!そう言う事か………礼を言っておく。」

「…え?」

「なんでもない。次行くぞ。」


 そしてさらに2人は次のグラスを飲み干した。


 3杯目以降から、2人の顔は少しづつ赤くなり始めた。他愛もない会話を繰り返し、酒を飲む。6杯を過ぎた辺りからカシリアは身体のバランスを崩し始めた。


「…うっ…ふぅー、ふぅー。」

「大丈夫か?なんなら、チェイサー1杯挟んでも問題ねぇぞ??」

「う、うる…うるさい!」

「そうか、じゃあ次だ。」

「分かってる!!くはぁ…」グイッ


「ぐぁぁ〜キツイな。この酒!」

「あんた…惚れた方が負けなんて言ってたが…はぁ。一向に口説き文句の1つも言ってこないじゃないか?」

「ん?そろそろ惚れて来ただろう?」

「バカ…おえっ。バカ言ってんじゃないよ!!はぁ〜〜」ガクガク

「どうした?…ゲフッ。そろそろ酒が回ってんだろ??酔うと相手に惚れやすけなるからなぁ。ハハハ。」


 勇者には余裕があった。何故なら、『ステータス変動不可』のデバック能力のおかげで『泥酔』までには行かないからだ。最も、カシリアはそんな事知る由もないが。



 そして10杯目を迎えた。

 カシリアは大きく肩で息を付いている。最早テーブルに手を着いていないと姿勢も保てない程だ。

「くそぉ〜〜!!ゲハッ!!ぜぇ、ぜぇ。てめぇ〜何かイカサマしてるんだろう!!」

「なーんのことかぜんっぜんわからんなぁ〜。あー具合い悪い。多分だが酔って俺に惚れたからフラフラしてるんじゃないのかぁ〜??」


 二人ともぐでんぐでんの状態だが、パッと見カシリアの方が限界だった。


「まだ…まだ行けるからなぁ〜私はぁっ!!」

「そんなに無理すんなよぉ?この後相手にならないんじゃこっちも困るからなぁ〜うぇっ」

 目の前のグラスには既に次の分の酒が注がれているが、中々口を付けられない。

(…そろそろ締めだな。)



「良し、もう良いぞカシリア。次は飲まなくて良い。リタイアしとけ。」


「はぁぁ!?何言ってんだあたしはまだ飲めるぞぉ!!」


「…俺のお願い、聞いてくれよ?なぁ?」パチッ



 勇者はウィンクをした。酒が回って完全に気の抜けたカシリアの瞳目掛けて。




\テテーン/ CPU カシリア とのコミュが上昇しました。ランクは、9です。


「わきゃ!?」ビクッ


 カシリアはしゃっくりともくしゃみともつかないような奇妙な声を上げて身体ごと跳ね上がった。


(…ん?コイツ、CPU属性だったのか。ふむ。)


 カシリアはあからさまに『酔い』とは違う動悸に支配されていた。


「どうした?大丈夫か??」

「うぇっ!?なん!なんでもないわ!!」

「そうか?具合悪いのか??心配だなぁ。」スッ

 そう言うと勇者はカシリアのグラスを持つ手に自分の手を重ねる。


「うわぁ!?何しやがる貴様!!」バッ


 あからさまなリアクションでその手を払い除けたカシリアを、観客は不審に感じ取っていた。





「…なんだ?グロットンの姉御、今おかしく無かったか??」
「もう限界まで酔ってんだろ!ついにあの強欲年増の負けるところが見られるぜ!」
「何だか分からんが挑戦者頑張れ!!もう少しでそいつがくたばる所を拝めるぜ!!」


 観客からの野次は少しづつ大きくなっていった。



「こいつら…人が弱ってるのいい事にいい気になりやがって…」

「ん??カシリア弱ってるのか?大丈夫か?」

「だから!さっきからなんで優しくして来るんだよ!!なんなんだよおまえはぁ!!」

「俺はシンプルにカシリアが心配なだけだよ?心配しちゃ悪いのか?」

「意味わかんねぇぞ!敵だろ敵!!」


「敵同士なら、心配しちゃいけないのか?」ズイッ

 勇者が少しづつカシリアと距離を詰める。

「あ、当たり前の事だろう!」

「…敵同士なら、気になっちゃいけないのか??」ズズイッ

「な…馬鹿野郎!!」

「だったらなんでさっきから目を逸らすんだ?気になってるのはお前の方じゃないのか??」

 ピッタリとカシリアの隣まで来る勇者。しかしカシリアはそこから動けなくなっていた。

「うぁ…うぅ。」

「…惚れたんだろう?負けを認めろよ。」

「な…何言って…」


「カシリアッッ!!」ダンッ!

 ビクゥッ

 勇者が大きく机を叩き、その衝撃でまたもやカシリアは跳ね上がる。


「負けを認めろ、もう飲むな。悪い様にはしない。」

「なんだっ…」




 チュッ





「「「ううううおおおおえええええ!?!?!?!?」」」





 勇者がなんとカシリアにキスをした。

 あまりの出来事にカシリアよりも観客が驚きの声を先に上げた。本人はと言うと唇に手を当ててトロンとした目で勇者を見つめている。











「棄権しろ。『負けました』って自分の口で言え。…そうしたら『抱いて』やる。」













「「「はぁぁあああぁぁぁぁぁああ!?!?!?!?」」」
















「ま…負けました。」コクリ


















「「「えぇぇぇぇえええぇぇぇえええ!!!!!?????」」」











 そこでハッとした審判が慌てて鐘を鳴らす。会場アナウンスも慌てて試合結果を告げる。

カーンカーンカーンッッ


「だ、第3試合『飲み比べ』は、まさかのカシリア・グロットンの一目惚れにより勝者、勇者○○!!」







 拍手なんて1つも起こらなかった。


 喝采もない。野次や罵声の類も聞こえない。



 ただただ、目の前で起きた一連の出来事が信じられなくて観客は顎が外れんばかりに口を開いて見ていた。




「「「…………。」」」


 一方、勇者チームはリング上でひとりガッツポーズする勇者○○を、まるで便所コオロギでも見るかの様な目で勝利した仲間に軽蔑の眼差しを送っていた。





第93話 END

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