NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第90話 #20『娯楽と堕落の街カッポン』


リコ・コーポート
種族:ダークエルフ


 鑑定局員養成所でのタリエルの同期に当たる。

 凄く『頭の固い』男性で、規定やルールを破る事を絶対にしないタイプ。物事の判断を百分率で計算し、0.001%でも分の悪い方を絶対に選ばない。そのキッチリとした融通の効かない性格と、非常に優秀な危険察知能力を見込まれて<危機管理鼠リスキー・マウス>の称号を卒業と同時に得た。養成所卒業の成績は卒業生中トップ10の中で4位。

(因みにタリエルは7位の成績)


 現在は、タリエルが不正取引を行ったとしてその監査に派遣され、そのままファステ出張所の鑑定局員として店主をしている。







「うふふ、ファステの鑑定局員さん。頼んだよ」

 カシリア・グロットンが不敵な笑みをこぼし、金網リングの上から退出する。


「うわぁ、コイツが相手ってかなり不味い。ちょっとピンチ」

「し、知ってる奴なのか?」

「知ってるも何も!養成所時代の私の同期だよ!しかも私よりも成績良く卒業してるし!!」

「「「マジかよ!!??」」」

 ハックは「しまった!」と言うような表情をする。文字通りタリエルよりも優秀な「金に汚い者」が相手となると相当に分が悪い。第2回戦は早くも暗雲立ち込める様相となってしまった。



「断る」

 だが、本人からの拒否の一言で皆ガクッと前のめりにつんのめる。

「な、なんだ!?断ったぞ??」

「当然だ。ここで賭けをするなんて聞いていないからな。では帰らせてもらう」

 そう言って<危機管理鼠リスキー・マウス>はリングから降りようとする。


「ちょ!ちょいと待っておくれ!!」

「…何を?待つ必要が??」

「確かに!アンタを呼んだのは別の用事だ。」

「…私は出張鑑定と、公正取引の確認の為に呼ばれた。ゲームに参加するつもりも予定も無い。…では」

「待って!!『代打ち』の話はさっきしたじゃないか!」

「…それに肯定的な返答をした覚えは無いが?」

「だから!アンタには報酬を2倍出すって言っただろう!それでどうなんだ??」

「…出張鑑定や、公正取引に対する報酬とは『鑑定局』への報酬だ。いくら積み上げられても、それによって私の懐が温かくなる事は無い。」



「あーヤダヤダ。これだから頭の固いネズミさんは話が進まなくて困るよ。黙って自分の財布に入れればいいじゃんか」フフン

 タリエルが茶々を入れる。

「…うるさいぞ、キャッシュ・グール。私は貴様とは違うのだ」


「なぁ!鑑定局員さん!!『代打ち』してくれたら報酬の3倍を別でアンタにプレゼントする!!それなら構わないだろう!?」

「そうは言われても…あなた方の家業の責任を私に取らされるのは「5倍!」」

 <危機管理鼠リスキー・マウス>の眉がピクっと動く。


「試合の勝ち負けにはこだわらない!!負けたって責任は問わないよ!そこに座って、1回ゲームをしてもらうだけでいい。それで報酬の5倍をアンタにくれてやる!ただし、次のゲームに勝てたらさらに倍の10倍出す!何も考えずにそこに座って、相手とゲームをしておくれ!!鑑定の報酬とは勿論別さ!!」
 



 <危機管理鼠リスキー・マウス>は襟元とネクタイを少し緩め、『これは仕事ではない』と大きめにアピールする。


「…そこまで言うのならば、少しの間『個人的な休憩時間』を頂くとしよう。その間に私が賭博場を使用しても問題は無いな??」

「そう!それでいい!!」

「ケッ!!!」ペッ

 タリエルが唾を吐く。あれだけ賭けには礼儀作法をと言っていた本人が不満タラタラのようだ。


「良かろう。ここから先は、私個人リコ・コーポートとしてこの席に座らせてもらう。挑戦相手の名前を教えてくれ。」ガタン

 リコは賭けの席に着いた。


「あーい変わらず!ホンットに気難しくて頭の固い奴ね!…今は『タダの』タリエル・チリードルよ!よろしくッ!」ガンッ


 タリエルも乱暴に座席に着いた。


「あいつら…何か因縁でもあるのか??」

「在学中か…はたまた店を取られてクビにされた恨みか。そのどちらかだろう。」

「タリエルちゃーん!頑張れー!!」

「頑張ってね!タリエルちゃん!」



 身体を清め終わってヤンドとサイカも応援席に駆けつける。


「チリードルさーん!私は無事だ!!私の為に危険な戦いに参加する必要は無いぞー!!」


「だ〜れがカモ領主の為戦うかってんの!べーだ!!」

 カルガモットの『残念』な声援に、タリエルは余計に激怒していた。



 試合の準備が出来た事でカシリアに急かされた会場アナウンスが放送をかける。


 
「そ、それでは両者揃いましたので第2回戦を始めます。第2回戦の種目は…『カード対決』「断る」」



 またもやリコが『物言い』を挟んだ。


「ちょっとなんなのよリコ!さっさと試合始めなさいよ!!」

「私は席に座っただけで、何の賭けかまだ決めてない。」


「えーっと…試合内容は既にブラックジャックと決まっていて…」

「雇い主、私は降りる。」

「なんなのよ今度は!!」

 カシリアもリコの態度に煮え切らないようだ。

「ここにいる皆はタリエルコイツがどのような者か知らないだろうが、相手は養成所イチ金にがめつい女だ。数ある伝説のひとつに無類のカード勝負好きという物があってな。…食事のチケットをポーカーやブラックジャックで手に入れて、在学中1度も自分の金でメシを喰った事が無いのは有名な話だ。」


「うぐっ!!なんで知ってるのよ!?」

「誰しも腹の減ったグールには近寄らない。…それだけの話だ。」


「「「うーん。確かに」」」ウンウン

「ねぇ!!なんで味方側の人達が1番頷いてんのよムカつく!!」ムキー!

「『代打ち』!なんの試合なら勝負してくれるんだい??」


「…折角ポーカー用のテーブルを用意して貰って悪いのだが、私はこの女とカードやダイスの類で賭けをするつもりは一切無い。大方バレない様にギャンブラー特有の運を上げるバフをかけるつもりだろう。」


「な、何の事かな〜」ひゅ〜


 タリエルは下手くそな口笛を吹いて誤魔化す。


「雇い主、小さな『ダガー』をひとつ貸してもらおう。」


「え?えぇ、いいけど?」

「それをテーブルの中央に突き刺してくれ。」

ピクッ

 それを聞いたタリエルが、一瞬真面目な表情になる。

「こんな物でどうするのさ?」ドスッ

 カシリアがテーブルに細身のダガーを突き刺した。


「ゲームは、『セルフ・エスティーム(自尊心)』を行う。…賭け金は、1Gだ。」

 そう言うと、リコは自分の手元に1Gの硬貨を1枚場に伏せた。


「………………ハァ。」チャリン


 タリエルも観念したのか、同じ様に1Gをテーブルに置いた。





「「「な、なんだ??『セルフ・エスティーム』って???」」」



 リングの上の2人以外、勇者チームはおろか見ている観客の全員が知らないゲームの様だった。


「…おや?皆さんは知らないのか?手元に何も無くても出来る素晴らしいこのゲームを??」

「済まないが、聞いた事無いゲームだよ。このダガーを使って何をするんだ?」


 カシリアがリコに問いただす。




「…簡単さ。先にダガーを抜いた方が、設定された金額で『自分の負け』を買うんだ。負けを認める証拠に、自分の指を切って血の付いたゴールドを相手に払うのだよ。」




「「「「はぁ!?」」」」






 リコの提案したゲームとは、1Gで自分の負けを買うという前代未聞の賭けだった。



第90話 END

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