NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第88話 #18『娯楽と堕落の街カッポン』


 リングへと両手を縛られた両者が上がる。盛り上がりも最高潮だ。

「…初めに言っておく。」

 ヤンドが怒りを抑えながら語りだした。

「なんだぁ?怖気付いたのか??」

「自分は…呪われている。」

「はぁ?」

「戦闘が始まった途端に、暴力の意識に飲み込まれてしまう」

「…なんだそりゃ?そんなのちっとも脅し文句になってねぇぞ??」

「自分は、今までこの呪いを恥じていた。一緒に行動する仲間にまで影響を与えてしまうこの呪いに。だけど…」

「だからどうした??」

「自分は今日、初めて自らの『殺意』を持ってこの呪いを使う。だから、試合が始まってしまえば確実に君の息の根を止めると、そう覚悟を持った上で試合に望んで貰いたい。そうでなければこのまま立ち去るのだ。」


「「ぶっ!ぶあっはっは!!」」

 ゲロッギとワバズはヤンドを笑った。

「随分とお優しいこって!安心しな俺達も『殺す気』でやるからよぉ!」

チャンピオンコイツはこの闘技場で無敗なんだ!その相手に情けを掛けるってか?冗談も程々にしやがれ!」

「誰か…連絡を取っておきたい人は居ないのか?」



「…いい加減にしろ!!」ガシャン!

 ゲロッギが金網を蹴る。


「舐めやがって…手加減のひとつでもついてやろうかと思ったが、ここまでコケにされちゃ話は別だ。最初から全力で行く!いいな!ワバズの旦那ァ!!」

「あぁ、モチロンよ。必ず殺せ!」


 ワバズが両者の手を縛るロープを切り、リングから降りる。

 その姿を見送り、リングの上に二人きりになるとヤンドは仁王立ちの姿勢を取った。目からは真っ黒いオーラが立ち上がっている。






「やべぇな、ヤンド相当本気でキレてる。」

「もしかして…ちょっと離れてた方が良くない??」

「…そのようだな。今のヤンド殿が暴れたら私達だけでは抑えきれないかもしれない。」

 ハックと勇者は壁を使いゆっくり立ち上がると、タリエルとマリーナの肩を使って歩き出した。


 …少しでもリングから遠ざかるように。










「それではこれより試合を開始する!!ルールはどちらかが完全に死ぬまで戦い続ける事!両者離れて!!」




 お互いが背中を合わせ、金網をしっかりと握る。






「それでは…第1回戦!レディ…ファイト!!」



カーンッ!!



 ゴングが鳴った。


「うおぉぉ…お?」



 最初に異変に気付いたのはゲロッギだった。




「ごぉぉぉがぁぁぁあああううぅぅああぁぁああ!!!」


 ヤンドの身体が、不気味に隆起する。今まで戦士としては細身の方だったヤンドの身体が、あっという間にゲロッギの2倍は軽くある様な体型へと変化した。


「な…なんだぁ??」


 いつもとは違う、より凶暴で凶悪化したヤンド。全身からは真っ黒い殺意のオーラが溢れ出ている。



 ─そして、ゆっくりとヤンドは振り返った。



「ひいっ!?!?」ビクゥッ



 ゲロッギは恐怖した。その顔は、まるで悪魔や鬼と言った凶暴と名の付くようなモンスターを足して割った様な、人間とは思えない顔に変化していたからだ。そしてそれを見て恐怖したのはゲロッギだけでは無い。金網にかぶりついて見ていた観客達も、皆金網より1歩引いた。





「な…なんだありゃ?」
「ば…バケモノ!」
「モンスターだぞありゃ!!」
「う、うわぁぁぁ!!」


 観客からの悲鳴にも似た罵声を浴びて、ヤンドは『笑った』。



ドスン…


ドスン…



 いつもの<素手の凶戦士ベア・セルク>状態のヤンドなら一瞬で飛びかかり、あっという間に決着を付ける。だが今回は違う。



 完全に『虐殺』を楽しむ為に、歩いて近寄った。


「うわ…なんだそりゃ!聞いてねぇぞ!!俺は降りるぅ!!」



 背中を見せて情けなく逃げようとするゲロッギ。しかし入口は固く閉ざされていた。


「ぐるろぉぉぉぉおおお!!」


 唸り声なのか、叫び声なのか…ヤンドは人が発しているとは思えない様な『音』を口から出し、ゲロッギに近付く。


「や!やめろ!降参だ!!俺はおりる!!」


「何やってんだチャンピオン!!戦え!あんなのコケ脅しだろうが!!」


「いやだっ!!だったらお前がたたかえ!俺は嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だっ!!」ガシャガシャン!


 ワバズに脅されるも、必死に逃げようとするゲロッギの耳には届かない。


「ごぉぉうううああらぁぁぁあ!!」


「ひいぃぃぃ!!嫌だァ!!」





 どんどんと近付いてくるヤンド。立ち向かうなんて事はゲロッギの頭には無かった。一刻も早くここから逃げる。その生物の本能にも似た感情だけがゲロッギを支配してしまった。


「やめろぉぉ!!来るなぁぁぁ!!」



 そして、お互いの『間合い』へと入った。


「がぁ!ごわぁ!はぁぁ!うばわぁぁぁああ!!」

「ひぃ!ひぃぃぃ!ちくしょォォォ!!」ブンッ

 破れかぶれで殴りかかる、ゲロッギの視界に最後に入ったのは…


 観客席でニヤニヤと笑うアンジェラだった。














「ばぉぉぉおおおぉぉおお!!」ボグンッッッ!!

 






 ヤンドの放った一撃は…





 流石に首を引きちぎる…までとは行かなかったが、完全にゲロッギの首の骨を折り、首の皮1枚繋がった様な状態にさせるには充分な一撃だった。




 力なくゲロッギはその場に倒れ込む。





「うがぁぁあ!!うがぎぃぁあああ!!」バゴンッッ!!ドゴンッッ!!


 そしてそのゲロッギに対して更に容赦なく攻撃を繰り返すヤンド。



 リングの上が血飛沫と肉塊まみれになるのに10秒もかからなかった。



「ぜはぁ!ぜばぁぁあ!!ぐぉぉぉおあおおあああ!!」



 ヤンドが雄叫びを上げる。







…だがそれだけでは終わらなかった。




「ぐじゃあああぉぉお!!」バシィィン!!

 ヤンドは金網に飛びついた。ワバズの方に行こうとしているのだろう。金網を何度も何度も殴り付けた。



 そして、そうこうしている内に金網を素手で引き裂いた。



「「「あーあ」」」クスクス



 勇者とその仲間達だけはあっけらかんとその惨状を見て笑っていた。



 そこでようやく、観客達が怯えて逃げ出す。



「…う、うわぁぁぁ!!」
「アイツ出てくるぞ!逃げろ!!」
「やべぇ!チャンピオンが一撃で殺された!!」
「ば!バケモノぉ!!」


「ぐぎゃあぃいいおおぉぉ!!」

バリバリ!バリリィ!!

 ヤンドが上半身が通り抜けられそうな程の穴を金網に空けて…ようやく<素手の凶戦士ベア・セルク>化が解けた。会場にいる誰もがヤンドに殺意を抱かなくなった証拠だ。

「……!終わったか」

「意外と早かったね、戦意喪失するの」キャハハ

「ま、ヤンド相手に持った方なんじゃ無いの??」

 勇者達はニコニコと笑っている。


「テメェら…何なんだよアレは!!」



 ワバズが目を真っ赤にして勇者達に喰って掛かる。

「え?いや、俺達の仲間の拳士だけど?」

「ふざけんな!!あんな人間いてたまるか!!」ドンッ

「…と、言われてもなぁ。」

「そうですよ!相手がどんな人かも確かめないでケンカふっかけてきたのはそっちですよ!」

「ゲロッギも馬鹿な奴だ」

「自業自得よねぇ…うふふ」



「テメェら…ほんとに人か??こんな事許される訳無いだろ!?」



「「「先に手を出しといて何言ってんだか…」」」クスクス


 勇者達はワバズの戯言を一向に相手にしなかった。



「…で、次は誰が出るんだ?」



「はぁっ!?」




「だから、次の試合だよ。3回勝負だろう??」



「ふ!ふざけ」ガッシャァン!!




 リングから聞こえた金網の音にワバズが振り返る。



「おい!!最初の勝負は終わったのかっ!レフェリーが試合終了を告げないのであればまだ戦い続けるぞ!!」




 血塗れになったヤンドが叫ぶ。ワバズに向かって。


「しっ…試合は終わりだ!アンタの勝ちだ!!」


「…ならボケっとしてないでさっさと次の試合を始めろっ!!『この程度』で無抵抗な仲間を傷付けられた分の腹いせが収まると思ってるのかぁ!!」ガシャン!!

 ヤンドが更に金網を叩いて叫ぶ。



「まっまて!待ってくれ!!」

「誰も試合に出てこないならこっちから向かうぞ!!いいのかっ!!」ガシャアン!

 ヤンドは金網を叩いて煽る。



「ほ〜ら、次の試合望んでるんだしさっさと始めてくれよ、興行主の弟さん?」

「ぷくく!ヤンドもマルたんも煽り方上手いねぇ〜!!」

「でも、当然の事なんだし仕方無いわよねぇ。自分から3回勝負なんて言い出したんだし。」

「さて…次の挑戦者が何秒持つか私達の中で『賭け』をしないか?」

「ハック先生!それ良いですね!!」

「でもみんな1秒後に賭けたら賭けにならないんじゃないか??」



「「「うわっはっはっは!!」」」

 勇者達はゲラゲラと心の底から笑っていた。

 それを見てワバズの膝がガクガクと震えて居る。



「おい!聞こえてるのか!!早く次の挑戦者をだせぇ!!」


 ヤンドが、血塗れのリングの中央で吠えに吠えまくっていた。



第88話 END

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