NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
第86話 #16『娯楽と堕落の街カッポン』
サイカの授業を終えた次の日。その人は1日フリーとなった。
日向で休む者。
装備を整える者。
今までの冒険を記録する者。
明日へと備え鍛錬に励む者。
疲れを忘れる為に楽しむ者。
皆それぞれ思い思いの一日を過ごす。そして…
─『カッポン』に夜が訪れた。
カッポンの街に入るにはどうしても門を通らなければならない。そこで…
「……ん?」
前にも会った、目の見えない門番が変わらずそこに立っていた。勇者達の『魂の匂い』とやらに気付いたのだろう。
「げひゃひゃひゃ!まさかこの街に再び戻って来るとは思わなんだ!」
勇者達に向かって笑って話しかける門番。
「………何も見なかった。いいな?」ズイッ
勇者がその一言だけ言うと、タリエルがお金の詰まった袋を手渡す。
「…………さて、小便でもしてこようかな。」
門番は受け取った袋の重さを確かめると、急にそこから席を外した。
「…良し、行くぞ。」
「「「はい!」」」
目深にローブを被ると勇者達はカッポンの街に入って行った。
─ ─ ─
「…事前に打ち合わせた通りだ。大きく二手に別れて奥の屋敷を目指す。カルガモットのチームは直接屋敷に、俺のチームは温泉宿裏口から潜入だ!」
「いいか!もしバレても強行突破で館を目指すのだ!」
「「「おう!!」」」
そしてチームに別れた。
勇者のチームは…
・サイカ
・マリーナ
・アンジェラ
カルガモットのチームは…
・ハック
・ヤンド
・タリエル
それぞれのチームは足早に移動する。サイカに教わった、極力人と目を合わせず、軽い足取りで、あまり大きく動く身体を動かさずという隠密スキルの基本に従い行動に移った。
この街に長時間いるのは危険だと判断し、比較的人の少ない様な時間帯に短期決戦を仕込む。─目指すはグロットン一家の住む屋敷だ。
勇者チームは慎重に温泉宿までたどり着く事が出来た。宿の裏側に回ると勝手口から中へと入り、素早く賭博場へと回る。
「確か…アイツここら辺に…あった」
トイレに向かう通路の隠しスイッチで地下へと降りる。闘技場への入口はナンバーロックになっていた。
「良し、俺が通り抜けて裏から開ける。」
勇者は黒いメニューボードを握りしめると、扉の中に消えて行った。数秒後に扉が開く。
「開いた!行こう!」
「この先って、闘技場になってるんですよね?」
「サイカとマリーナは初めて見るよな?しっかり俺かアンジェラに着いてきてくれ!」
「ユーシャ!この先はどうする?」
「あーっと…カルガモットの話なら来賓席の後ろが館への直通になってるらしい。そこに上手く忍び込もう!」
バァン!
扉を開き、ついこの前死闘を繰り広げた地下の闘技場へと降り立つ。今日も違法な賭け試合が繰り広げられていて、大賑わいだった。
「おい!アンジェラ!こっちだボケっとするな!!」
「…ん、おう」
アンジェラは金網リングを気にする。どうやら今日はチャンピオンは試合していないようだ。
来賓席の下へとたどり着くも、高さ的に1.5mは段差がある。流石にここにいきなり登り始めたら目立ってしまうだろう。
「さて、ここからどうす」「おーう兄ちゃん達!」
なんとそこに偶然にもアビーが居合わせた。
「地下闘技場で会うなんてどうしたんだ?また賭けに来たのかよ??」
「アビー!!ちょうどいい所に居た!!おい!サイカ金貸してくれ!」
「えぇ!?良いけど…どうするの勇者君?」
サイカは持っていた冒険用の資金の入った小銭袋を勇者に渡す。
「サンキュー!…良しアビー!また酒を奢ってやる!」
「おぉ!?ホントかい!?」
「その為に1つ頼み事聞いてくれ!この金を渡すからコレで好きなだけ酒を呑め!そのかわり酔っ払ったフリをして警備員に絡みまくれ!」
「なんだぁ??そんな事で良いのかよ??」
「良いんだ!ちょっとひと騒動起こしてくれればそれでいい!」
「だがこの袋…500G近くも入ってるぜ!?」
勇者はさらに自分の無限財布から100G金貨を1枚出してアビーの手に握らせる。
「頼む!!凄く大事な事なんだ!」
「……へへへっ!気前の良い兄ちゃん達の願いならなんでも聞いてやるよ!待ってろ!」
アビーは地下闘技場のバーカウンターに向かい抱えきれない程の瓶の酒を買ってくる。その瓶のひとつを1口飲んで…金網リングに酒瓶を投げ付けた。
ガシャン!
「おうおうチャンピオンはどうしたぁ!!俺はチャンピオンの試合が見たくてコッチに降りてきたんだぞばかやろう!!」ヒュン
更に別の瓶も投げつける。
「おい貴様!止めろ!!」
警備員が取り押さえようとアビーに近付く。その警備員に向かって更に酒瓶を投げ付けたが…別の客の頭にぶつかって割れた。
「…何しやがんだこの野郎!!」
投げつけられた客は隣の客がやったと思いそいつをぶん殴る。そうやってどんどん騒動が悪化し暴動状態へと陥った。
「うひょお!アビーの奴派手にやったなぁ!!」
「ユーシャ!行くぞ!」
「おう!」
暴動になったおかげで勇者達はすんなりと来賓席に登る事が出来た。
「…良し、カルガモットの話だと…コイツだな?」
座席の後ろに隠れるようについていた扉を勇者がくぐり抜け、先程と同じように内側から鍵を開ける。
「さ!開いたぞ!みんなおくれるな!」
「マリーナちゃん!着いてきてね!」
「はい!!」
勇者達は薄暗い通路をひたすら走る。
しばらく走ると通路の先に明かりが見えてきた。
(よし!ここからは隠密行動だ!サイカが先頭行ってくれ!)ヒソヒソ
(みんなゆっくりでいいから音に気を付けてね!)
(((イエッサー!)))
サイカが人の気配を察知しながらひとつひとつの曲がり角で止まる。安全が確保されれば次へ、確実に館の中心へと足を進めて行く。そして…
(!!)
(どうした?サイカ?)
(この部屋の奥、誰かが椅子に座ってこっちを見てる!)
全員が足を止めてサイカを見守る。
(…目的の人物かしら?でも…?)
(ここまで来たら先制攻撃だ!どうせあとちょっとでカルガモット達も来る。行くぞ!)
(あっ!ちょっと待って勇者君!!)
サイカの静止も聞かずに勇者は部屋の中に飛び込んで行く。その後ろにアンジェラとマリーナ、最後にサイカが着いて行った。
「…おい!」
シーン
勇者が声を掛けたが、その椅子に座っている者は反応しなかった。
(…なんだ?)
違和感を感じ、勇者は少しづつ足を進める。暗い部屋の中ではその椅子に座っている者の表情は分からなかった。
「聞いてるのか?おい!!」
再度声を掛ける勇者。それでも反応が無かった事に勇者は首を傾げる。
「…誰だ?」
更に近付き、その座っている者の顔を見て…
「!!!しまっ…」「うおらぁ!!」
ドゴォン!!
壁際に隠れていた『ゲロッギ』が、勇者の首筋に強烈な一撃を喰らわす。そのせいで勇者は気絶してしまった。
「勇者君!」「ユーシャ!!」
武器を構えて助けに行こうとするも、前からも後ろからも警備員に取り囲まれていて身動きが取れなくなってしまった勇者チーム。
「…随分遅かったな?もうお仲間は待ってられないって嘆いてたぞ?」
隠し通路の扉を開き、ワバズが現れた。
「アナタ、何者なの?」
「おいおい聞いて無いのかよ?お前らこのグロットン一家に用があってここまで来たんじゃ無いのか?」
「つまり、お前が姉弟の片割れか。」
「そうさ、ワバズ・グロットンだ。そこの友達にはもう自己紹介したんだがな、もう忘れちまったかもなぁ。」
「友達?……ハッ!?」
アンジェラが注意深く見渡す。先程の位置からはちょうど見えない所にカルガモット、タリエル、ヤンドが座らされていた。
「まさか…貴様!!」
アンジェラが剣を抜き飛びかかるも、大人数に取り押さえられてしまう。
「おいおい大人しくしとけよ。………そこの友達見たいになりたく無ければなぁ。」
そう言ってワバズが椅子を指差す。
椅子に座って居たのは、ボコボコにされて動けなくなっていた『ハック』だった。
第86話 END
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