NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第83話 #7『レデュオン』と『ゴータリング』


「皆の者、先程の話は横で聞いていたが…こちらでも発見があったぞ。」

 ハックが図鑑を開いてこちらに見せてくる。




寄生樹:ボルガノバイド
危険性:極めて危険

 活火山や高温地帯に生息する、火や熱に極めて高い耐性を持つ植物性モンスターである。生命の少ない環境で育つ為、強い生命力を感知し根を張り巡らせる。稀に土の中で眠っていた種子に熱湯がかけられ発芽する場合もある。また雷属性の攻撃にとても弱く、この寄生樹に寄生された人物を状態異常:感電にする事によって引き剥がす事も出来る。




「あの蔦って、モンスターだったのか!?」


「でかしたぞ錬金術師!これで謎は解けた!!」

「どー言う事なのさ??」

「マホガートが剣を使いこなすに至らなかった理由だ!」

「「「え?」」」


「元から温泉が湧き出て居るという事は、昔活火山であった事には間違いない。大方、土の中にこの植物の種が混ざっていたのだろう。それがレデュオンと温泉の熱に反応して急激に成長し、そして無尽蔵に溢れ出るレッドマーキュリーの生命反応に引き寄せられマホガートに寄生した。」

「そうか…察するに最低限の生命エネルギーだけは残るように調整して指輪を装備していたので、その残りのエネルギーを全てボルガノバイドに持っていかれた。…結果は見ての通りだ。」

 ─無限に再生と破壊を繰り返すただの骸骨。マホガートの『創世の神に成り代わる』という夢は、呆気なく閉ざされた。


「なるほどなぁ〜これでこの一件の謎が解き明かされた訳だな。」

「いや、まだだ。」

「「「え?」」」

 カルガモットの発言に皆が注目する。

「最後の謎が残っている。『温泉の出なくなった原因』だ。」


「「「あ!!」」」

「その部分だけは分からなかった。先ずはあの骸を調べて、何故温泉が少なくなったのかを見てみよう。」

「「「おう!」」」








 皆で協力して、マホガートの骸骨から生えている蔦を切り取らない様に枝をかき分ける。すると…


「おん?こいつ右腕が肘から先が無くなってるぞ?」

「左手の指を見て下さい!全ての指に指輪が着いてますけど、小指だけ指ごと無くなっています!」


「左手に着いている指輪は4つ…と言う事は、無くなった右手に着いているのか?」

「水の中見たいけど、こうも沸騰してたら迂闊に近寄れないな。」

「良し、魔法で温度を冷やそう。マリーナ嬢、背中に着いて」

「かしこまりました!」

 マリーナがハックの背中に手を当てて、意識を集中し始める。それを見た皆はかなり後ろに下がった。勇者については小屋の後ろに隠れる程だ。


「連続魔法…氷の刃よ降り注げ!!<アイススパイク・ラッシュ>ッッ!」


ドドドドドッ



 ハックの杖から魔法が放たれると、池の中にだけ雨の様に氷柱が真上から降り注ぐ。



「うおすげぇ!一瞬で氷風呂になっちまった!!」

「勇者殿!時間が無いから早く潜って探すのだ!」

「えっ!?俺??」

「他の者だと死亡してしまうかもしれない!済まないが頼む!」


「わ、わかったよ!ちくしょー!!」

 勇者はマントや装備を外し、池の中に飛び込む。


ゴポゴポゴポ…


 そして直ぐに上がってきた。


「ぶはぁ!あったぞその剣!比較的低い所にある!でも底の方はまだ温度が高くて近付けねぇ!!」

「でかしたニセ勇者!して、指輪は着いていたのか?」

「いや、何も無い!肘から下の腕の骨はがっしり剣を握って居るが、指輪は付いてないぞ!」

「…なんと、では最後の指輪はどこに行ったのだ?」




「なぁ、もしかしてみんなが言ってる指輪って、これの事か?」

「「「…はい?」」」


 アンジェラがポケットから何かを出す。それは、紛れもなくマホガートの左手に着いている指輪と全く同じものだった。



「「「はぁぁぁあ!?!?!?」」」

「な!…何故それを持って居るのだ!!戦士アンジェラ!!」

「拾った」

「拾ったって…どこで拾ったんだよ!?」

「え?風呂の中」

「「「はい??」」」

「え!?もしかしてあの時ですか?」

 マリーナに心当たりがあるようだ。

「アンジェラさん、みんなでお風呂に入った時、お湯が少なくて取水口に腕を入れて中が詰まって無いか1度確認してたんですよ!」

「そう、そん時見つけた」

「なんで黙ってたんだ!」

「…だって、その後直ぐに男湯から悲鳴が上がってきて…それで有耶無耶になって忘れてた。」


「「「うぐぅ!!!」」」

 ハック、ヤンド、勇者の3人はドキッとしている。

「なんだ?男湯から悲鳴?」

「あ!おーおーカルガモット!そこについてはなぁ…」

「後で詳しい説明をするぞ!騎士殿!」

「そうですよ!元領主様!とりあえず今は問題解決の方を…」

「なんかね〜カモ領主。男湯にモンスターが出たんだってぇ〜」

「何!?モンスターだと!?」

 シィィィー!!!

 3人はタリエルに向かって静かにしてろというジェスチャーをする。


「その様な公共場所、しかも街中だと言うのにモンスターとは放っておけぬ!帰ったら私が成敗して…」


「「「いいから黙ってろ!残念領主!!」」」


「な、なんだ貴様達…!?」


「もういいから話進めましょ!ね!」

 サイカの仲裁でとりあえず事なきを得た勇者達(?)だった。









「アンジェラ殿、それを見せてくれ。」

「はいよ」

 アンジェラはハックに指輪を渡す。その指輪なのだが指輪だけなのでは無く、骨の様な物にがっちりハマっていて取り出す事が出来なかった。

「これ。なんか詰まってるから後で取り外そうと思ってた」

「これは…指輪が外れたのではなく指の骨ごともげてしまったのだろう。」

「骨っぽいと思ってたけど、まさかそのまま丸ごと指だと思わなかった」


 アンジェラは怪訝な顔をして手を払う。

「それでも効力発揮してないよね?」

「多分だが…身体から離れすぎて別物扱いされてしまったのだろう。」

「付けて見るか??」

 ハックが骸骨の左手に指輪付きの指を近付ける。すると、吸い付く様に左手の小指に繋がった。

 くっ付いた指輪は青い光を放ち、水を作り出し始めた。

「なるほど。蔦が成長する圧力で小指の1本だけがちぎれてしまった。それで水を精製するゴータリングは2つとなり、全体の水の量が減った。…それが温泉の出なくなった理由だ。」

「じゃあ…これで解決?」

「いいえ、終わってません。」


 サイカがスっと前に出る。


「この者に、裁きを与える必要があります。」


「サイカ…」「サイカ殿…」

「冒険料理団の生き残りとして、ミンギンジャン団長と我が夫の無念を晴らします。」



「うむ。確かに彼女にはその権利がある。」

「そーだな、その通りだ。」

「よくも…こんな事しておいてパパに会いに来てたなんて…許せません。」

「1つ提案なのだが…この肉も何も付いてない骸骨にトドメを刺した所で味気ないだろう。1度肉体を元に戻すと言うのはどうだろうか?」

「賛成!!サイカだけじゃないよ!皆だって苦労したんだから!こいつのやった事に!!」

「では、この骸骨を引き上げましょう。念の為、皆武器を構えて!」

 ヤンドの声で全員が身構える。

「では蔦を切って引き上げるぞ!右腕は池の中だから反撃してくる可能性は少ないが、注意は怠らない様に!」

 カルガモットとアンジェラが蔦を切り払い、マホガートの骸骨を池から引き上げる。


ジュウ〜!!


 温泉のから引き上げると、肉体が次々に構築されていく。内蔵、筋繊維、皮膚と成形していき、全てが完成した後、マホガートは目を開けた。


「……………。」


 マホガートは、ピクリとも動かなかった。動かなかっただけでは無い。1度開けた目も瞬きしなかった。

(ねぇ!どうなってるの??)ヒソヒソ

(わからん…死んでるのか?)

(不老不死なのに?どゆこと??)



「…私が調べよう。」

 ハックがゆっくりと近付き、杖の先でつつく。何の反応も無かった。次に杖の先に電撃を走らせ、首に当てる。…それでもマホガートはビクともしなかった。

「どういう事だ?」

「意識を…失っているのかしら?」

「なんか…それだけじゃないような気がする。…ナユルメツ!」




「はいはい」


 スウッと人の居ない場所からナユルメツが現れる。


「コイツがどうなってるのか、調べられるか?」

「お安い御用さ、ブレイブハート」



 ナユルメツはマホガートの傍に近寄りしゃがみ込むと目をしばらく見つめる。


「………うん、わかったよ。」


「「「どうなんだ!?」」」


「コイツはもう生きちゃいない。魂が存在しない、あるのは肉と骨だけ。レッドマーキュリーを飲んだんだろ?所詮通常の人間に『不死』など耐えられる訳が無いのさ。」


「ど、どういう事だ?」


「んー、ブレイブハートに分かりやすく言うと、これは最早『キャラクター』では無いって事さね。人の形をしたただのオブジェクト。一応アイテムによる効果で不死属性は付いているけどねェ」


 ナユルメツは、ニヤニヤ笑いながらマホガートを見つめていた。




第83話 END

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