NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第82話 #6『レデュオン』と『ゴータリング』



 特に変わった事も無い温泉の源流。そこの淵にある一体の骸骨。再生しては破壊されを繰り返し、その度に絡まる蔦が成長する─


 この奇妙な光景を目の当たりにして、勇者達の謎は深まるばかりだ。しかもその骸骨を、元料理冒険団の一員でミンギンジャンの配下だった男、マホガートだとマリーナは言う。


「見間違いなんかじゃ有りません!あれは…幼い頃に見たマホガートさん本人です!!」

「サイカは見たか!?」

「…ごめんなさい。私はマホガートって人に会ったことが無いの。大魔道飯店に数回来た事があるみたいだけど、その時いつも配達に行ってたり買い出しに出ていたりとタイミングが合わなくて…」


「そうだったのか。でもなんで料理人でレアハンターの冒険者がこんな所でこんな末路になってるんだ?そもそも、ここはハック並に魔法が使えなきゃ近付く事も出来ないような場所だろ??」


「「「うーん…」」」

 考えても一向に頭の中が混乱するだけだった。


「もう少し辺りを検索しよう。」

「あ!ちょっと待って!!さっきの手帳!」

 タリエルは崩れたカバンから手帳を持ってくる。

「とりあえずこれみんなで読もうよ!」

「どれどれ…」

 手渡された勇者が手帳を開く。




 見つけた。

 ついに念願のレデュ───

用意し───3つの水のゴータリングと─

───水の底に──

─もう後には戻れない。


──────────

──────────

─ブッチャー。済まなかった。

──ハメて───まさか──

────手に入れた『血』は、仲間の代償──

意を決して──飲む────

『魔─回復』『自─治癒──加』
『水の精製』×3
『レ───マ──リー』
『レデュ─ン』

───これで私は、創成の神だ。

   ─マホガート・コブルガッド




 勇者は1度手帳を閉じた。


 全身にビリビリと感じる、『見てはいけない』と言う恐怖と後悔。


「ど、どしたの??」

「ニセ勇者よ。何が書いてあった?」

「…サイカ、マリーナ。俺は…この途中途中しか読めない手帳を、君達2人は読まない方がいいと思う。」

「「え?」」

「知らなくていい事だって…世の中にはあると思う。でも、もし知りたいなら覚悟を持って読んでくれ。」



「…貸してみろ」

 勇者の手からカルガモットが手帳を取る。

「………ふむ。」

 最後のページを見て、カルガモットは難しい表情をする。


「勇者はそう言っていたが、私は見るべきだと思う。」

 サイカの前に、手帳を突き出すカルガモット。


「………わかりました。」


 少し緊張しながらも、その手帳を受け取るとゆっくりページを開く。


「……………。」ギュウッ


 手帳を持つサイカの手には力が入っていた。

「……私は読んだわ。あなたはどうする?」

 今度はマリーナの前に手帳が突き出される。

「え…私……どうしたら…」

「自分で決めてここまで着いてきたのだろう!マリーナ嬢!どうするかは自分で考えるのだ!」

「……ハイ!」パシッ

 ハックの声で決意を固め、手帳を受け取り読み始める。



「……え?これって…」


「どうやら…ミンギンジャン料理長と冒険料理団をハメる為にわざと退団した見たいね。」

「…って事は!?」

「待て!結論を急ぐな。順に整理して考えなくてはならぬ。」

「あ!俺手帳持ってるからそれに書き込んで行くぞ。先ずは何があったか時系列で追って箇条書きしよう!」

 勇者は手帳を取り出す。


 ─それは、奇しくもミンギンジャンから餞別に貰った手帳であった。










「先ずは…『レデュオン』という名の伝説の武器がこの世に存在した。それは創成の神が作った、もしくは使ったとされるもので、常人では扱えない炎を吐き出す剣だ。」


 勇者はそれを書いていく。


「他の手帳からも「長年の夢」と読み取れるように、マホガート氏はこの武器の発見に固執していた。…そして、この武器を使う為に必要な条件も研究していたと見える。」

 カルガモットの意見を書き込む。

「それとは別に料理人としての1面もあった彼は、『レッドマーキュリー』についても着目していたんですね。」

「ここで質問だ。使ったら必ず死んでしまう剣があったとして、それを使いこなす為には何が必要だ?」

「「「えぇ?」」」

 皆は頭を傾げる。

「あ!わかったー!!「死ななくなる事」だよ!だから不老不死を求めたんだ!」


「「「あ!なるほど!」」」


「うむ、チリードルさん正解だ!」

「うわぁーい!カモ領主に褒められてもちっとも嬉しくないわぁ〜!!」ニッコリ

「うぐっ!また随分ストレートに言われるなぁ…」


「って事は、このマホガートって奴の欲しい物は繋がったって事?」

「そうだアンジェラ。レデュオンとレッドマーキュリーの存在が2つ手に入れば、マホガートの望みは叶うと言う訳だ。」

「その後って…どうなったんですかね?」

「多分だが、マホガートはまず先にレッドマーキュリーについての確固たる情報を得られたのだろう。」


「だから、退団した。……独り占めする為に。」


 サイカが鋭い目付きで答える。

「ここからは推測でしか無いが、レッドマーキュリーを得る為にはマーキュリードラゴンの群れを何とかする必要があったのではなかろうか。そこで、ミンギンジャン氏のいる辺りにレッドマーキュリーの情報をわざと流した。」

「それで…パパの昔の仲間さん達と…シゲアキさんが…」シュン


 マリーナは暗い表情になる。それを自分の方がもっと辛いであろうサイカが、優しく背中を撫でる。


「そしてマホガートは『血』を、手に入れた。しかしそれを飲めなかった。」


 手帳に記入する手を止め、勇者が顔を上げる。

「ん?飲まなかった。じゃなくて、飲めなかった。なのか?」


「私はそう推測する。何故なら、特に後遺症も無く飲んだら不老不死になると分かっているものを飲まずに取っておく理由が無いからだ。」

「あー確かに。人に取られたり、もしくは落っことして台無しにする可能性だってあるもんな。そういう事か。」カキカキ

「そこで…マホガートはあるものが足りない事に気付く。それはなんだと思う?」


「え?もう『血』は手に入れた後なんでしょ?他に必要な物なんて無いと思うけど…」

「…ハイ!レデュオンを制御する手段が足りません。」


「拳士ヤンド、正解だ。」

「「「おおぉ!!」」」

「いくら自分が不老不死になったとしても、絶えず炎を吐き続ける武器など手に余すだけだ。だからマホガートはさらに研究し、この付近の土地でついに目当ての物を探し当てた。…余談だが、サイカがマホガートに会った事が無いのはマホガート自身が避けていたからでは無いか?わざと居ない隙を狙ってミンギンジャン氏に会いに行った。自らの罪滅ぼしの為に。」


「「「なるほど…」」」ゴクリ



「そこで見つけた物は、魔人ナユルメツの言っていたゴータリングだ。作った者が魔法を込められると言っていたが、レデュオンを制御する為には1つでは足りなかった。それをマホガートは探していた。」

「ゴータリングって何?」

「あーアンジェラはそん時寝てたんだもんな。後で教えてやるよ。」

「それがこの最後の手帳に書いてある物だろう。…推察するに、魔力を増加する物、自身の治癒力を高める物と水の精製魔法が込められた物をさらに3つ用意した。要は魔力で水を常に作り出し、その水勢を持って制御しようとしたのだろうな。」



 手帳に記入しながら、勇者はある事に気が付く。






「なぁ……まさかだけどよ。ここの湧き出てる温泉ってさ…」








「そこの建物を見るに元から温泉自体は湧いていたのだろうが…この骸骨になったマホガートとやらがゴータリングの魔法で永遠に作り出し続けている水と、池の底で今だ炎を吐き続けるレデュオンの熱が作り出しているのか今の温泉の正体だろう。」



「「「そ、そういう事だったのか…」」」



第82話 END

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