NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第81話 #5『レデュオン』と『ゴータリング』


 ついにたどり着いた山頂。

 しかしそこはとてつもない温度の水蒸気に覆われ、迂闊に近付く事の出来ない危険地帯と化していた。視界も殆ど効かない程の濃密な霧だ。


「これ以上はそのまま進む事は出来ないな。よし、私の出番だ。」

 ハックは皆を下げ、杖を正面に振りかざす。


「突き刺され、氷の刃よ!<アイス・スパイク>ッッ!!」

バシュンッ


 杖の先から2発、氷柱が発射される。霧を切り裂き、一瞬だけ向こう側まで見通す事が出来た。


「……ふむ、特に危険な物は無いな。ではマリーナ嬢、私の後ろに。」


「は、ハイ!」

「今から連奏魔法と言って、2人以上の者が協力し合って使う魔法攻撃をする。マリーナ嬢は後ろから私の背中に手を当て、魔力が私に流れる様に意識するのだ。」

「わかりました!」

「基本的に私が魔法を使うので、その流れだけを感じていればいい。では行くぞ!」


「お願いします!!」


「白き古の神々よ。凍てつく息を持ってその力を我に示せ…万物をも凍てつかせる波動となり、我が敵を死へと導け…ハァァ…」


「うぁ!す、凄いです!!こんな強力な魔力、押しつぶされちゃいます!」

「耐えろ!魔力の流れだけを感じるのだ!!恐怖すると心を蝕まれるぞ!」

「ハイ!!」






 傍から見ている勇者にはそれがちっとも伝わらなかった。

「…なぁ?タリエル。魔法っていちいちあんなクサい台詞言わなきゃ唱えられんのか?」

「え?そんな事ないでしょ??」

「やっぱり?アレは…」

「ハックさんの自己満。だから厨二の魔法使いなんて馬鹿にされるのよ。」バッサリ

「うわぁ…」




「生きとし生ける者、全ての生命を凍り付かせろ!」ゴォォ



 杖の周りを、青白く輝くオーラが渦巻く。





「…もう少し離れた方がいい。」

 それだけ言うとカルガモットはサッと隠れた。

「そうね」「うん」


 サイカもアンジェラも隠れる。

「え?え??」

「タリエルちゃんこっち!」

「はえっ!?」ヒョイ

 ヤンドもタリエルを担いで岩陰に隠れる。


「お?ちょ!まっ…」




「喰らえ!!<フロストブレス>、<アイス・サイクロン>、<コールドストーム>、<アイスメテオ>、<ホワイトランページ>、<スノープロビデンス>、<デス・クリアー・アイス・レイジ>、<リモート・アバランチ>、<フローズン・エクリプス>ッッ!!」



「どわぁぁぁああ!!」


 ハックの使う、超が着くような極大氷結魔法の数々に全て巻き込まれた勇者。


 辺りは先程の熱気とは変わって寒気がする程に冷え切った。水蒸気も全て凍り付き、雪へと変わって地面に降り注ぐ。一気に視界が晴れ渡った。




「ま、ざっとこんなものだろう。」

「す!凄いです!これがハック先生の本気なんですね!?」

「本気?我が魔力の深淵に比べたらこんなものまだまだ序の口さ。」


「かっ!カッコイイです!!」


「おうごらぁハックゥゥ!!」


 雪まみれになり、ガチガチと奥歯を鳴らす勇者が詰め寄る。


「てんめぇこんな広範囲に魔法使うなら先に言え…ブェックショイ!お陰で巻き込まれたじゃねぇか!!」


「おぉ!これは済まなかった勇者殿!」

「ごめんで済むならケーサツは…はーっくしょい!!さみィ!誰か暖めてくれ〜!!」


 勇者はデバック能力の1つ、『ステータス変動:無効』により氷結状態にはならなかったものの、全身氷漬けにされて息をするのも絶え絶えだ。


「…温泉あるし入れば?」

 アンジェラの声にそれもそうだと勇者は水の溜まった池に飛び込む。


「あつつつつ!あつあつ!!アッチィィィ!!!!」バシャン

 寒い寒いと騒いでいた勇者は今度は熱い熱いと騒ぎ始める。


「…何やってんの?」

「お前が入れって言ったんだろ!アンジェラ!!」


「いい加減にしないかニセ勇者!それよりも周りを見よ!!」

 ハックが激を飛ばす。それでようやく辺りを見始めた。








 山頂部は円形状の広場となっており、そこだけ大きな木は生えていなかった。


 さらに中心には直径で言うと30m程の真円に近い形の池があり、どうやらこれが温泉の源流らしかった。周囲はハックの魔法で冷やされた物の、温泉だけはゴポゴポと煮えたぎっており熱さを出している。

 その端には人工的に建てられた小さな小屋が1つあり、その反対方向には1箇所だけ蔦の様な植物が水際に生えていた。


「とりあえず、あの小屋を調べよう。」

「気を付けろよ錬金術師。あのニセ勇者だから無事だったものの、普通の人間なら大火傷だからな。」


 ハックとカルガモットがその小屋を調べる。

 扉も無いその小屋の中は特に何も無く、大きな筒が地面に突き刺さっていて、温泉がそこにチョロチョロと流れ込んでいた。


「なるほど。これは下のカッポンまで続いていて、温泉宿まで流れているのだな?」

「確かに流れる水量は少ないが…特に詰まっていたりする訳では無いな。何故温泉の出が悪くなったのだろうか。」

「ねぇ!ちょっとここ!!」

 タリエルが何か見つけた様だ。



「寝泊まりした形跡ここにもあるよ!」

 確かにそこには少しの間生活していたであろう資材が置いてあった。大体の物は熱と蒸気で劣化してしまっているが。


 案の定カバンが見つかり、その中から手帳が出てくる。

 その手帳を開こうとしたその時…



「キャアアアァァ!!」


 マリーナが叫び声を上げた。


「おいなんだ!?どーした?」

「マリーナちゃん!何かあったの??」


「そ、そこ…そこ見て下さい!!」

 マリーナは1箇所だけ水際から蔦の生えている所を指さす。遠目では分からなかったが、その蔦はどうやら一体の骸骨から生えていた様だ。

「…なんだ?ただの骸骨じゃねぇか?こんなので悲鳴上げるなんてマリーナもウブなんだな。」


「違うんです!見てて下さい!!」


「「「うん???」」」

 皆はその骸骨を注視する。すると…



シュワシュワシュワ…



「うお!?なんだありゃ!?」


「肉だ!肉体が再生しているのか!?」

 胸の部分より上しか見えていないが、骨についた肉片の様な物がウニョウニョと動き、増えていっている様に見える。

 しかし、温泉の熱によって肉片は破壊され、また元の骨に戻っていく。

「…こんな現象、見た事も聞いた事もないな。」


「温泉の効果…なのかしら?でも、肉片はまた溶けていってるわよね?」

 見ている前でも再び肉片は再生し、また破壊され溶けてを繰り返す。


「いやぁ!もう、キモくて見てられないよ〜!!」

「確かにおぞましい光景だ。…そして、最もな疑問だがこの者は何者なのだ??」


「火傷しない様に、蔦を取り払ってみよう。」


 アンジェラとカルガモットが剣を使って蔦を切り払う。すると…


ジュジュジュジュ!!


 その骨の肉体再生が急に早まった。


「うわぁ!」「おえっ!」

 あまりの出来事に皆引き下がる。少しづつ内蔵まで再生され、ドンドンと筋繊維が構築されて行く。



「おい!これ不味いんじゃないか!?」

「下がるぞ!何が起こるかわからん!!」

 ハックと勇者が皆を下げる。その骸骨はついに顔面の再生まで到達した。



「……あ……え…そんな……」


 マリーナが小さく声を出す。その瞬間肉体はまた朽ち始め、骨だけになる。その時、残った蔦が少しだけ動いて、さらに枝を生やした。


「なんとも…もはや奇妙としか良いようが無い。」

「これは一体なんなのだ?もしかして…この蔦は寄生樹の類いなのか??」

「…ふむ、少し調べよう。皆は離れて。」


 ハックは1本葉の生えた枝を切り取る。それを持ってそこから離れ、道具入れから図鑑を取り出す。


「おーし、とりあえず付近の捜索だな。何かあったら教えて…マリーナ?どうかしたのか??」

 マリーナはガタガタと震えている。


「なんだ?」「どうしたんだい?」


 皆もマリーナの異変に気付き近寄る。

「顔……見たんです。」

「顔?…あの骸骨のか、一瞬肉が再生したけど…気にするな忘れろって。」


「違うんです!!」

 マリーナは大きい声を出した。

「何かあったの?マリーナちゃん?」

 サイカが優しく語りかける。





「あの骸骨…あの人、マホガートさんです!」





「「「なんだってぇ!?」」」



第81話 END

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