NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第77話 #1『レデュオン』と『ゴータリング』


「するとこういう事か?カッポンの温泉が出なくなったのには理由があって、それがその手帳に書いてあると?」


 ハックは腕組みしながら怪訝そうな顔でタリエルと話している。

「そーなんだって!賭博場でザガルって人がそれを見つけた話で持ちきりだったんだから!!最後に賭けは大負けしたけれど、これだけは手元に取っといたんだよ!」

「しかしなぁ…」

 勇者は手帳をペラペラとめくる。その手帳は汚れていてほとんど何が書いてあるのか分からなかった。

「ガセネタ掴まされたんじゃ無いのか?タリエル?」

「ホントだよ!信じてよ!そいつには500万の価値があるんだから!!」


「「「500万!?!?」」」

「なんか…ますます怪しいような…」


「コレ!コレ見てよ!」


 タリエルは読めるページを開き、書いてある単語を指差す。

 …ハッキリとは読めないが、薄くなった文字で「レデュオン…ゴータリング」と書いてあった。


「なんだこれ?」


「知らないのマルたん!?…ってそうか、マルたんは分からないか。」


「伝説の武器の1つだ。」

「確かアレですよね?握っている間火炎を吐き続けるとか…」

「でも、子供の御伽噺に出てくるようなアイテムよね??」

「「「じ〜〜」」」

「何よ!皆して私を疑って!私が可愛いからでしょ!そうなんでしょ!?」

「すまん。誰もそんな事思ってない。」

 タリエルはサイカに「みんながいじめる〜」と泣きつく。


「そもそも…コレ誰が書いた手帳なんだ?」

 勇者は表紙をめくり、名前を探す。


「えーっと…何々?ア…ガー、いや違うな。アホ…ガード?なんだそりゃ変な名前!」

「どれどれ貸してくれ…勇者殿。これは「ア」じゃなくて「マ」ではないか??」

「あぁ!なるほど!そりゃ流石に「アホ」を「ガード」するなんてそんな名前ないよな。」

「最後の文字も「ド」ではなくて、この濁点に見えるのは汚れだろう。」

「つまり、コレを書いた人は「マホガート」って名前な訳ね?そんなどこの馬の骨とも…」


「「マホガートさん!?」」




 今度はサイカとマリーナが大声を上げる。

「な、なんだ?知ってるのか??」


「知ってるも何もパパと昔冒険してた人よ!えーっとここ10年以上は姿を見てないけど!」

「私がミンギンジャン料理長のチームに入る前に辞めた人よ。結構名の知れたレアハンターらしいわ」

「へぇ〜〜これでこの手帳の信憑性がちょっと上がったな。」

「………。」ドヤァ

 タリエルが後ろで満面のドヤ顔全開になっているが、サラリと無視する勇者達。

「ふむ…他の読める部分から察するに、どうやら温泉の湧き出ている元湯の辺りに何かあると書いているな。」

「おぉ!これは何だか冒険の予感!」

「…行ってみるか?わざわざこの街に来て手ぶらで帰る訳にも行かないだろ?」


「「「おー!!」」」

「それじゃ!温泉の謎を解き明かしに出発だ!!」








「お、おい待て待て。」



「ん?なんだよカルガモット?行きたく無いのか?」


「じゃなくて、今から行くのか!?」


「「「へ?」」」

「とっくに夜中を過ぎているんだぞ?アンジェラも眠ったままだし、明日の朝からで良くないか?」


「「「あ、あー。」」」

 色々と有りすぎて時間の感覚を失っている勇者達。とりあえずこの辺りにキャンプを張ることにした。







「とりあえず、やっと一息ついたな。」


 勇者達は遅い夕食を取って、酒を飲みながら火に当たっていた。


 ジャンケンに負けた結果、男性陣は外で野宿、女性陣は馬車の荷台で寝る事になっていた。


 タリエルとハックは古い手帳を睨みながら、やれあーでもないこーでもないと話し合いをしていた。


「なぁ?本当にそのアイテムは存在するのか??」

「するよ!するに決まっているわ!!」

「物的証拠も無いのに何故そう主張するのだタリエルよ。」

「元アイテム鑑定士として断言する!このアイテムは絶対に存在する!!」

「全く…さっきからこの通りで一向に話が進まないのだ。」



「その伝説の武器?って、どのくらい前から話されてるんだ?伝説って付くぐらいだから相当前なんだろ?」


「「「え?」」」


 勇者の問いかけに皆頭を傾げる。

「そう言えば…どうなんだろ?」

「自分の村では、ジーちゃん達が伝説って言ってましたね。」

「うーん…私の里でも長老達が話してたのを聞いた事がある…あったはず。」

「私が読んだことのある本では100年以上前から度々存在するという伝承が残されていたぞ?」

「ザゥンネ家の書物庫でも似た様な物を見たな。」



「…やっぱりな。所詮伝承だから今生きてる世代か、それよりも3世代ぐらい前までしか伝わって無いんだろ?」

「「「た、確かに」」」



「なら、『大昔』から生きてる奴に聞けば手っ取り早くないか?」


「「「え?」」」



「じゃじゃ〜ん!呼んだかい?」


 暗がりの中から真っ赤なローブを羽織ったとある人物が出てくる。



「「「ナユルメツ!」」」


「はいよ。みんな」

「なぁ、ナユって大元は人間だったんだろ?それって何年前?」

「ん?人間だった時??そうさねぇ…ざっと500年前って所かねぇ。」


「「「500年前!?!?」」」

「そんな昔から生きてるのか!」

「生きてるとはちょっと違うけどねぇ。」

「ボイン!ちょっと聞きたいんだけど、コレ知ってる?」

「んん??」

 タリエルがナユルメツに手帳を開いて見せる。


「レデュオン!?なっっつかしい名前だねぇ!!」

「知ってるの!?てか、存在するんだよね!?」

「あるわよ?」

「いよっしゃあぁぁ!!どうだ見たかおのれらァ!!」

 興奮したタリエルが小躍りしながらハックに「バーカ!バーカ!」と連呼する。

「それって、何処から出てきた物なんだ?」

「何処って…そりゃ神様が世界の創世に使った剣だからねぇ。私も本物は1度しか見た事無いよ。」

「「「はい!?!?」」」

 世界の創世。そんな単語が飛び出すと思っても居なかったので、一同は互いに顔を見合わせる。

「それ!最後にどこで見たんだよ!?」


「えー…っと、確かなんちゃらって名前の山に封印しようって話になって…その時の司祭が間違って落っことしたんだよ。そしたら山に突き刺さって、そこが火山になっちまったのさ。」


「「「ええぇぇぇ〜〜」」」



「それ、いつの話だ!?」

「さぁ…300年前?細かい事は覚えちゃ居ないよ。どうせヒトには使えないんだし。」

「使えないって?どゆこと??」

「触ったら焼け死ぬ。一瞬で。」


「「「えぇぇ!?」」」

「しかし未だにそんな与太話が蔓延してるとは、人間の世も大して変わらないねぇ〜。大体は偽物の話だから当てにしちゃいけないよ。」


「が、ガーン!!」

 今度は負けじとハックがタリエルの前に出て「グール!グール!」と連呼する。


「レデュオンの事は分かったけど、こっちのゴータリングってのは?」

「これは別に珍しくもないアイテムだよ?作った奴がある種の魔法をかけてて、それが永続魔法として自動的に使用されるって奴さ。」

「なんだと!?」

 今度はハックが身を乗り出した。

「そ、そんなアイテム聞いた事がないぞナユルメツ殿!!本当にあるのか!?」

「あるよ?私も作ろうと思えば作れる。」

「本当か!?永続的に魔法を出すアイテムが存在するとは!!」

「…ただし」

「うん??」

「使ったら死ぬよ?」

「「「……え?」」」

「装備した奴の魔力を使い続けるんだ。しかも大概のゴータリングは使用するまで何の魔法が込められているか分からない。…例えば、極大広範囲の攻撃魔法が込められていたとするだろう?それを装備すれば永遠にそれを連発し続ける。」


「なるほど!!命を使い切るまで魔法を使うか、その魔法に巻き込まれて死ぬかのどちらかになるのか…あぁ、やはり魔術は奥が深い!!」

 興奮したハックは聞いた話を忘れない内に全力で本に書き写す。

「レデュオンに比べたらゴータリングはそれ程の物でもないよ。ま、どっちも触るか使うかしたら死ぬし、役には立たないねぇ。」

「なーんだ。途端に興味が薄れたな。」

「確かに、使えないんじゃねぇ?」

「でも!神様が作った伝説の武器なら1度見て見たくないですか?!」

「うーんちょっと危険な気もするけど…興味はあるなぁ。」



「後はいいかい?それじゃ、頑張って見つけておくれ〜」

 ナユルメツが暗闇に消えていく。

「待ってくれ!ナユルメツ!」


「…おや?珍しいのが引き止めたね?何か用かい?」


 ナユルメツを引き止めたのはカルガモットだった。

「戦士アンジェラの様子を見て欲しい。アイテムのせいでしばらく寝たままなのだ。」


「…そうかい。分かったよ。」ニヤリ


 ナユルメツを先頭に皆は馬車の荷台を覗き込む。


「ぐ〜ぐぅ〜」ボリボリ

 身体中傷だらけのアンジェラは寝ながらお腹の当たりをかいていた。

「そう言えば試合の後からずーっと寝てるよな?」

「どれどれ??」

 ナユルメツが鼻をクンクン鳴らしてアンジェラに近寄る。

「うん、病気とかではないね。単純に酔っ払って寝てるだけだよ。」

「…良かった。」


 カルガモットは責任を感じているのだろう。怒りのぶどう酒というアイテムまで使って限界を超えるほどに疲弊させたのはカルガモットだからだ。

「済まないが、アンジェラの傷を治してくれないか?」

「断る」


 まさかの即答に皆驚いた。

「な、なんでだよナユ!?治せないのか?」

「違うよブレイブハート。武人にとって戦傷いくさきずは武勲の証さ。それを戦士からは取り上げられない。…最も、本人が望むなら話は別だがねぇ。」

「…分かった。ではアイテムの効果である泥酔の状態を取り除けるか?これを彼女に使ったのは私なのだ。」

「…あいよ。」


 ナユルメツが手を空中でクルクル回すと、まるでモヤでも立ち上がったかの様にアンジェラの身体から紫色の煙が現れる。ナユルメツはそれを静かに吸い取った。

「ほら、終わったよ。」

 そう言うとナユルメツは席をカルガモットと入れ替えた。

「おい、大丈夫か!?戦士アンジェラよ!!」


 カルガモットのその問いかけに、アンジェラ反応しなかった。



…っと思った瞬間、目を見開いてアンジェラが飛び起きた。


「「「うぉ!?」」」

 アンジェラは無言のまま目だけを見開いて当たりを見渡す。

「アンジェラ、落ち着くのだ。もう試合は終わったのだぞ。お主はよく戦った、その戦い振りはまさに戦士の鏡である。」


 カルガモットの優しい問いかけに、アンジェラもニコリとする。






「ぜんっ!ぜん!!終わってねぇぇんだよバカヤロォォォ!!!」バゴンッッ



 心無しか、ゲロッギと戦っていた時よりも鋭いストレートパンチがカルガモットの鼻っ柱に直撃した。


「うがぁぁぁあ!!」ドタッ

 カルガモットは馬車の荷台から吹き飛んで行った。



「「「…あーあ。残念な奴。」」」


 ナユルメツ1人だけは、こうなる事が分かっていて爆笑していた。






第77話 END

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