NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第71話 #13『娯楽と堕落の街カッポン』



『怒りのブドウ酒』


消費アイテム:酒
効果:能力値上昇

 一時的に攻撃力を1.5倍、防御力を1.2倍まで引き上げる。その代わり、効果が消えると同時に状態異常:『泥酔』へと切り替わり、行動不能となる。なお連続で使用すると、高確率でパッシブデバフ:『アルコール依存症』へと発展する。

─愛が憎しみへと変わる時、彼は怒りのブドウ酒を飲み干した─






 カルガモットは来賓席に戻り、椅子に腰掛けた。今は落ち着きを取り戻したようだ。

「元領主さん?もう観戦しなくてもいいのかい?」

「最早興味は失せた。」

「へぇ?そうかい。」

 カシリアは疑いの眼差しを向けるも、最早賭けはこちらの勝ちから動かないと確信し、先程のカルガモットの行動を気にしない事にした。

(もしかして仲間なんじゃないかと勘ぐったが…気の所為か?いくら誤魔化すと言えど戦っている仲間の頭を瓶で打ち付けたりはしないだろう。あんな大怪我させたら勝負が直ぐに着いてしまうからね。)


 ダラダラと頭から血を流すアンジェラを見て、『最早時間の問題だ』と、カシリアはあくびをした。


 ─ ─ ─

 リングの上で、仁王立ちするアンジェラ。

(カモはワザと瓶で怪我するように叩いたな?あの酒…効果が発生するのにある程度のラグはあったはず。なのに、既に身体がはち切れそうた。もしかしたら、血管から吸収してる…?)

 アンジェラは、既に湧き上がる怒りと力に押しつぶされそうになっていた。


カーン!!



 開始のゴングが鳴った。




「おいチャンピオン!!」




「あぁ?なんだ?」

「小手先の技なんか使わないで殴り合いで決めよう。」

「…ほぉ?いいのか?」

「望む所だ。」

 2人はリングの中央に歩み寄る。お互い完全にリーチの中だ。

「行くぞ!!ウラァァ!!」ガッ

「来い!女ぁ!!」グワッ

ガツンッ

 先程までとは違う、更に強力なパンチで殴り合う。どちらも顔面に食らうも、下半身は1歩も動かずにその場に留まる。

「ゼァァァ!!」ガンッ

「どりゃああぁ!」ドガンッ


 お互いの意地を賭け、ひたすらに殴り合う2人。


「うぉ!なんだありゃ!」
「すげぇぞ1歩も引かねぇ!」
「いいぞやれやれ!!」


 観客もいきなり始まったシンプルな殴り合いに更に歓声を送る。


「ど、どーしちまったんだ?アンジェラ!?」

「凄いぞアンジェラ殿!」

「これは…やっぱり元領主様が何かしたに違いない。あからさまに戦闘力が上がっている!」


 1発1発のパンチの重み。外から見ている観客にでさえもそれが音としてビリビリと伝わってくる。

 …しかし、1番それを思い知っているのは戦っているゲロッギ本人だ。

(なんだ!?こいつ!!さっきまでのラウンドと全然違う!!)



 約2秒に1回の割合でお互い繰り出されるクロスさせた攻撃が、両者の顔面に突き刺さる。

「ぐあぁぁぁ!!」

「うるァァァ!!」

バギンッ


「でやぁぁ!!」

「ごらァァ!!」

ドゴォンッ


「だぁぁぁああ!!」

「ぐォォォオオ!!」


ガゴォンッ


 あまりの連続攻撃に、次第に観客も言葉をかける事すら忘れて2人を見守る。


 そして、『その時』が来た。


「らぁぁああ!!」

バゴンッ


「うあ…く…」ガクッ



 初めてゲロッギが、1歩引いた。



 「!!でりゃぁああ!」

ドガンッ



 チャンスとばかりにアンジェラが1歩前に出る。

「うがァ!!ぐうぅぅ!!」

 ゲロッギがガードを上げ始める。攻撃が効いている証拠だ。


「まだまだぁぁ!!落ちる訳にはいかねぇぇんだよォォオオ!!」


ドズンッ

 ゲロッギのカウンターが見事に決まる。アンジェラは一瞬白目になる。



「……ッツツ!ぐわぁぁぁらぁぁ!!」

ガギンッ

 アンジェラも負けじとアッパーをゲロッギの顎に放つ。

「ぐわぁ!」ビジャァ


 口から大量に血を吐くゲロッギ。そこでようやく2人の連撃が止まった。


「ぜぁー!ぜぁー!ぜぁぁー!!」

「ふしゅう!ふしゅう!ふしゅるるぅぅ!!」


 互いに大きく肩で息を着く。既に体力は限界で、そろそろその時が近づく。

「そ、そろそろ…限界なんじゃないか?ゲロンチョ…はぁはぁ。」

「て、てめえだって…いい加減くたばりそうだぞ?なぁ。ゴホッゴホッ」



「後1発…あと1発で決める。」

「確実に…沈めてやる。」



 観客席から一斉に『ゴクリ』という唾を飲み込む音が聞こえる。その瞬間を見逃さない為に、観客は静まり返って結末を見届けようとする。


「ふぅ…ふぅ…はぁ…」

「ゼェ…ゼェ…ハァ…」



 息を整える。次の一撃で確実に沈める。その闘志がお互いの目から迸る。








「行くぞぉぉおおぉぉぉおお!!!!」


「来いやぁぁああぁぁああ!!!!」









ドッゴォォンッッ!!!










 まるで爆弾でも爆発した様な地響きが、金網リングの中央から響く。







「が…はぁ。やるな、アンジェラ」





「お前もな…う…ゲロッギ」




ドタァァンッ!!!



 二人共、全くの同タイミングでリングの上に倒れる。死んだ訳では無いが、完全に気絶していた。






 金網リングの中に審判が入り、2人の意識を確認する。アンジェラ、ゲロッギのどちらも指一本動かせない状態だ。審判は横に顔を振る。













「勝負ありっっっ!!この勝負!両者試合続行不能によりドロー!!」










「「「「うおぉぉぉおおおおぉぉぉ!!!!」」」」


パチパチパチパチ…

 地下闘技場が崩れてしまうのではないかと言うほどの歓声と拍手が沸き起こった。







「ふふん、やるな。戦士アンジェラ。」


 アンジェラの健闘を見て、カルガモットが笑顔になった。




第71話 END


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