NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第63話A 『タリエル先生の賭事講座』


「うわぁ!凄い熱気だな!」

 温泉宿のカウンターの奥にあった扉。


 そこを抜けると、同じ建物だとは思えない程の熱気に包まれた場所があった。新たにカッポンの名物となった、賭博場カジノである。

「ハイ!じゃあ早速だけど自由時間にしまーす!!」パチン

 タリエルが手を打って、解散を示す。

「え!?おいもう解散ってなんだそりゃ!?」

「先ずは最初のレクチャーね!『賭場に入ったらまず、空気を読む』コレ凄い大事だから、身体で体感してもらいマース!」

「た、タリエルちゃん。特に何も教わってないんだけど…いいのかい?」

「ヤンド!大丈夫ビビる事ないって〜!とりあえず10〜20分ぐらいしたら集合かけるから、みんな散り散りに見て回って!ひとつアドバイスするとしたら…まだ賭けに参加はしない方がいいよ!」

 そう言い切るとタリエルは人の波に消えて行った。

「「「…って、言われてもなぁ」」」

 残されたメンバーはお互い顔を見合わせて、しどろもどろになっている。

「私、キャッシュグールについて行く」

「ちょっと待てアンジェラ!…行っちゃったか。」

「うーむ、とりあえず1人になるのは危険だ。最低でも2人組で別れよう。」

「よし、俺とハックで行くか。」

「あ、じゃあ私達は夫婦で遊びに来たって事にして…3人で回りましょ。」

「はい!さっきと同じで家族ごっこすればいいんですね!」

「ははは…参ったなぁ。」

「じゃあそっちはマリーナ、サイカ、ヤンドで、こっちはハックと回るよ。」

「それでは皆、タリエルに言われた通りに20分後を目安に各組で別れよう。集合場所は、タリエルのいる位置でいいかな?」

「「「はーい!」」」


 サイカがヤンドと手を組み、反対の手でマリーナの手を握る。

「…我々も何かしようか?」

「なんで俺とハックが手を組むんだよっ!いいだろ普通にしてれば!!」

「そ、それもそうか!」

「緊張するなぁ…」

「さて、家族水入らずで遊びましょうか!」

「はーい!」ニンマリ



 勇者達はそれぞれ別の方向に別れて、賭博場の中を見て回った。




 ─ ─ ─




「さて、どうする?勇者殿。」

「タリエルには賭けするなって言われたけど、ちょっとやってみたい気はするよなぁ。」


 勇者とハックは賭博場を見渡す。色々なテーブルがあり、様々なギャンブルが行われていた。

「しかし、初見の我々は間違いなくカモにされないか?」

「大丈夫だって!知らんギャンブルやろうとするからカモられるんだよ。初心者でもわかりやすい奴ならいいさ!」

「簡単なもの…カードゲームのテーブルがあるが、あそこがいいか?」

「いやいやハック!カードこそ奥が深い!シロートの俺らじゃまともな勝負も出来ない。」

「では何をする?」

「決まってるだろ?アレだよ。」

 勇者は部屋の壁側に設置された台を指さす。

「す、スロットマシーンか!?」

「おうよ!『出るまで回せば良い!』シンプルだろ??」

 そう言って勇者は無限財布をヒラヒラさせた。









─20分後


「さーて、みんな〜賭博場がどんな物か感じられた??」

「あーっと…タリエルさん、まだマルマルさん達が…あ、いましたこっち来ます。」

 少しばかり遅れて勇者とハックがやって来た。青い顔をしている。

「マルたん遅いよ〜って、アレ?もしかしてなんか賭けやってた??」


「あ、あぁ」

「勇者殿と2人でスロットマシーンに行ったんだが…軽く5000Gぐらいはもう負けた。」


「「「5000!?!?」」」

「いや、出したのは俺だから別に損害はないんだけど…なんというか、ヤバいな。」

 2人は冷や汗なのか熱気による物なのか、汗を大量にかいている。

「あちゃ〜スロット行っちゃったか。第2のレクチャーね!『機械相手じゃ確実にぼったくられる』これは最低限のジョーシキだよ!」

「「はい…」」

 勇者とハックは沈んだ表情だ。


「それじゃあ早速、楽しいギャンブル講座の始まり〜!!賭けの一通りの流れを見せるから、ついてきて後ろから見ててね!」

 勇者達とは打って変わって楽しそうな表情のタリエル。ルンルン気分で人混みをかき分けて進んで行った。

「なぁアンジェラ、タリエルは何のギャンブルやるか言ってたか?」

「いや、何も。この20分はただひたすら歩いて見て回っただけ。」

「え?じゃあ何やるんだろ??」

 タリエルは真っ直ぐ目的のテーブルに向かう。そこはどうやらサイコロを使ったギャンブルのようだ。



「あぁ!!くっそ!!もうやってらんねぇ!!」ガダンッ

 タリエルがそのテーブルの手前に着くなり、1人の男が悪態を付きながら立ち上がった。どうやら賭けから降りるようだ。

「席、空いてますか?」

「あぁ!?…空いてるけど、今日は辞めた方がいいぞ。ザガルの強運に全部持ってかれちまった。」

「悪いなアビー!また稼いで勝負しようぜ!」

「ふん!死ね!!」

 アビーと呼ばれた男は憤慨しながら帰って行った。それとは反対に、空いた席から4人分離れた1番遠くの席に座っているニヤついたザガルと呼ばれた男は嫌に上機嫌であった。

「先ずは賭けの席に着いたら、上品に、丁寧に、礼儀正しくする事。これがギャンブルのマナーよ。それじゃあ、一通り賭けをするから後ろから見ててね。あ!あと始まったら話しかけちゃダメよ。『イカサマ』を疑われるからね。」

 そう言うとタリエルは礼儀正しく席に座り、背筋をピンと伸ばした。

「よろしくお願いします。」

 周りから見ても異様なぐらいに丁寧にお辞儀をするタリエル。

 後ろからその姿を見て、勇者達は呆気に取られていたが中でもアンジェラの様子がおかしかった。

「いや…え…」

(声を落とせよアンジェラ!どうかしたのか?)ヒソヒソ

(全く分からない。何故この台を選んだ?さっきだって一緒に歩いて見て回ってたけど、この台に特に注目してる風は無かった。)

(しかし、こいつはかの<現金の亡者キャッシュ・グール>だぞ?儲けられなければこの席に座るまい。)

(今…さっきの人が怒って席離れたのって偶然だと思ってましたけど、まさか…狙ってたんですかね??)


(((いやまさか…)))

 普段のおちゃらけた態度とは全く違うタリエルの姿勢に、一同は驚かされるばかりであった。


「では、まずこれを。」


 席に着くなり、タリエルはコインを3枚綺麗に重ねてディーラーに丁寧に差し出す。

「…これはこれはご丁寧に、ありがとうございます。」


 「うわ!」「ひぃ!」「ぇえ!?」
「わぉ」「ぐぁ!」「うっそ!」

 今見たありえない光景に、思わず全員が声を上げてしまう。


 タリエルがディーラーに『チップ』を渡した。


 それも3枚も。


 思わず驚きで声が出る。それ程に信じられない光景だった。

「………。」ジィ〜〜

「「「!!失礼しました。」」」


 イラッとした表情でタリエルが振り返り、静かにしろと視線を送って来る。それに合わせて、静かにしてますと言ったジェスチャーをする勇者達。

「お客様は初めてのご様子ですので、簡単に説明を受けますか?」

「ありがとうございます。でも『テイルドロップ』はやった事あるから大丈夫です。」

「ホントに大丈夫かなお嬢ちゃん!」

 1番端の男、ザガルがタリエルに話しかける。

「どうやらこのテーブルにいるダイスの女神様はこの俺っちにだけ微笑んでくれてるみたいだぜ?」

「あら、そうですの?でもやって見なくては分からないのが『勝負』ですわよ?」

「へへへ!かもな!!だが、その御加護もコレで終わりだ。…いい加減コレで最後にしないと後ろの仲間達が帰りたがって騒いでるからよ!おいディーラー、最後の勝負だ。今日の勝ち分全部賭けてやるぜぇ!!」


「…かしこまりました。それでは新たなお客様を迎えての、次のゲームに移らさせて頂きます。」


 全く状況の飲めないまま、タリエルのギャンブル講座は始まってしまった。



Bパートに続く→

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