NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第54話B 『ヤンド先生の格闘&瞑想?講座』



「えー、まずは謝らせて下さい。先程はお見苦しい姿を見せてしまいました。」



「いや!ヤンドは良く戦った!」

「修行僧としてのあるべき姿をみせてもらった!」

「中々の戦い振りであったぞ!」


パチパチパチ…

 何故か男性陣から上がる拍手に、顔を赤くして恥ずかしがるヤンド。




「な、なんの事ですか?」

「…私に聞かれても困る。」

「困った子達ね。まったく。」

「なーんでウチの野郎共はスケベばっかりなんだろう…」






「「「お前が悪いんだろ!!」」」





 みんなに責められて涙目になるタリエルだった。




「それでは、気を取り直して今度は格闘術に移ります。素手の格闘術に覚えのある人は居ますか?」




 皆顔を見合わせるも、その質問に頷ける者は居なかった。




「…まぁ、この世界にあえて武器を使わずに戦おうとする人も少ないですからね。ただし覚えておいて下さい。武器に頼りすぎると、その武器を失った途端に戦意を喪失してしまいます。」


「成程…一理あるな。」

「うむ、拳士の言う通りある程度の格闘術は覚えて損はない。」


「と、言う事で、まずは簡単な『足払い』のスキルについて練習しましょう。これは成功すると相手の行動を一時的に遅らせる事が出来ます。ただし、人型以外の敵にはあまり成功しにくいので、あくまで一時しのぎだと頭に入れて置いて下さい。」


「「「はーい」」」



 2人1組となってヤンドの真似をし、相手の足を蹴って体制を崩す練習をする。


「基本的に狙うのは相手の動き出そうとする足の、踵が上がる一瞬を見極めて攻撃します。」


 アンジェラ、カルガモット、サイカはものの数回でこなせる様になったが、やはり冒険者組と戦闘職では無い人達に習得の差が出来てしまう。


「焦らず、落ち着いて…まずは練習なのであまり力を入れずにやって下さい。」









「…そう言えば、サイカって暴走状態のヤンドに「足払い」成功させてたよな?」

「あぁ、アレね?真っ直ぐ進んで来る対象にはやりやすいのよ。」


「……まて、ニセ勇者よ。暴走状態とはなんだ?」

「あー、カルガモットは見て無かったよな?そうか知らないのか。ヤンドは一旦戦闘が始まると『素手の凶戦士ベア・セルク』状態になるんだよ。完全に敵意を向けられた時しか発動しないんだけどさ。」

素手の凶戦士ベア・セルクだと?完全に敵意を向けられたとはどんな状況だ?」

「グァァァガァァアア!!」

「ほら、あそこにオーガタイプのモンスターが見えるだろ?あんなのが近くに居るとヤンドは反応しちまうんだ。」



「ごぉぉあああぁぁがぁぁ!!」


「ほら、あんな感じにさ。」




「「「…え?」」」




 練習に集中するあまりモンスターが接近している事に誰も気付かなかった。そして当然の如く、ヤンドは『覚醒』した。



「う、うわぁぁぁ!ヤンドから離れろ!!」

「すっご!何あれヤンドなの!?」

「久しぶり見たけど…あの状態のヤンド君ってとっても強烈よね。」


 いつも気の弱そうな、優しい笑顔を浮かべるヤンドとは思えない豹変ぶりに、初めて見た何人かはその姿に驚く。目は血走り、牙を剥き出しにして、手の爪が鋭く伸びている。


「今のヤンドはもう敵も味方も判別出来ない!とにかく下がれ!!」


 勇者の叫び声に皆がヤンドから距離を取る。少し後ろにあった身長が隠れるぐらいの小さな地面の窪みに、メンバーは逃げ込んだ。




「こんな街の近くにゲーデルオーガが現れるとは!誰か聞いた事があるか!?」

「いや…私もオーガの出現については聞いた事がない!山の向こうから来たのだろうか?」

「いわゆる「はぐれ」って奴?」

「ちょっとみんな静かに!オーガにもヤンドにもバレちゃうよ!!」



 窪みから頭だけ出して、みんなはオーガとヤンドの対決を見守った。






「うしゅる…ううぅぅうがぁぁああ!!」


 どちらかと言うとはぐれゲーデルオーガよりも凶暴そうなのはヤンドの方だ。雄叫びを上げてヤンドが威嚇する。



「うん?…ちょっと待て!」

「どうした?ハック?」

「あれはただの叫び声じゃない!『バトルクライ』だ!」


「「バトルクライ??」」

「動物系モンスターが使う、雄叫びを上げてステータスを上昇させるスキルだ!」

「え!!ヤンドさんってここからもっと強くなるんですか!?」

「戦いながらどんどん上昇バフを重ねがけしているのだろう。」



「ゴガァァァアア!!」ガゴンッ

 オーガの放った重い一撃を、ヤンドは防御すること無くそのまま受ける。

「ぎぎぃぁぁぁああがぁぁああ!!」ドゴォンッ

 ヤンドもその一撃に返すように、渾身の一撃を繰り出す。ゲーデルオーガは頭を抑えてフラついた。



「……今の、見ました!?」

「え?何が?」

「殴られた後ですよ!ヤンドさんが叫んだ瞬間、緑のオーラが出てませんでした?」

「…え?」

「マリーナ嬢も見たという事は、見間違いでは無かったか…」

「何?どゆこと!?」



「あれは『瞑想』による、回復だ。」


「「「はぁ!?」」」



「瞑想とは無心になり集中する事によって回復効果を得る。」

「いや、それは分かるけどさ。」

「こう言う事か?拳士は目の前の敵を倒すと言う1点のみに集中して、無心になっている。だから、『瞑想』のスキルが発動していると??」



「つまり、戦いながらステータスを上昇させ、叫び声を上げる度に回復もしている…のか?」




「「「ええぇぇ〜!?!?それって無敵じゃね!?!?」」」


 ヤンドとオーガは揉みくちゃになりながらも互いに蹴り飛ばし、爪で引っ掻き、お互いの顔面をただただひたすら殴り続ける。


「グァァアアァァ!!」

「ぎぎぃぎゃああぁぁがぁぁ!!」



 その様子を、アンジェラが興奮した眼差しで見ていた。


「ど、どうしたアンジェラ?」






「素手格闘を学ぶ、またとないチャンス!」


(((いや、流石にあれは真似出来無いだろう……)))


 それから5分程するとオーガからの反撃はどんどん少なくなり、途中からは一方的な暴行が繰り返されていた。そしてついに殴られ続けたオーガは動かなくなった。


「がぁぁああ!!ごあぁぁああぁぁ!!」


 一際大きな勝利の叫び声を上げるヤンド。身体からは緑色と紫色のオーラが溢れんばかりに立ち上っていた。








「…あれ?なんだっけ…??うわ!モンスターか!」


 正気に戻ったヤンドが、オーガの死体を見て驚く。


 その様子を見て皆は窪みの中からはい出てきた。



「ご、ごめんなさい格闘技の授業の最中に!皆さん怪我は!?」


 さっきの凄まじい光景を目の当たりにしたメンバーは、ヤンドに近寄るのを躊躇う。


「…あの、大丈夫ですか?」







「「「べ、勉強になりましたぁ!!!」」」




 それだけ言うと皆は逃げてしまった。


「え!?あ!ちょっと!!まだ途中…おーい!!」


 返り血まみれのヤンドが、夕日の中ただ1人取り残されてしまう…


第54話 END

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