NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第8話B 勇者はどうしても取り返したい。みたい!!


 その時突然、店の入り口にあるドアが乱暴に蹴り空けられた。3人の男が店の中に入ってくる。頭の上にはクランを表すWJoyの文字とプレイヤー名が表示されていた。

「びっくりしたなぁ!なんだ突然・・あ!プレイヤーかコイツら!しかも『わくJoy』勢だし。」

 前作『サウザンドオルタナティヴ』で最も巨大な勢力を持っていたクラン、それは『わくわくEnjoyサウタナライフ』というクランだ。

 通称『わくJoy』勢と呼ばれる。一時期は会員数が3万を超える程だったのだが、それには理由がある。ただ単に敷居が低く入会の条件が「サウザンドオルタナティヴを心から楽しみゲームライフを満喫する事」だけである事と、クラン内で初心者ぼっち大歓迎だった事である。

 なのでリアルでゲームフレンドが居ないプレイヤーは必然と先にココに入会し、仲良くなった数人がこぞって退会し別のクランを立ち上げ旅立っていく。そんな事で常に総人数は変化していたが、知り合いが出来るまでの集会場みたいな役割をしていた。もちろんそのクランに勇者も参加していた。

 『2』を始めて、初遭遇のプレイヤーがお仲間さんで良かったと内心ほっとするも、なんだか乱暴な素振りにショックを受ける。声を掛けようと一歩足を踏み出したが、その一歩で止まる。なぜならその3人は次々に店の物を拾っては自分のストレージにしまい込んでいた。普通に何気ない顔で、俺達3人の事なんて全く意識もせずに物を盗み続ける。そんなような奴らだった。

「おいおいおいおい・・・いいのかタリエル?あいつら・・・ひっ!?」

「「・・・・・。」」

 奴等が店に入ってきてから妙に大人しかった二人をみて愕然とする。二人とも、まるで能面の様に全くの無表情に変っていた。さっきまで色々話をしていたのが嘘のように、固まっている。

 あまりの気味の悪さに一歩二歩と後ずさりする勇者。

 3人の内リーダー格っぽいのがこちらに近づいて来るとハックが体の向きをそちらに向け話しかけ始めた。俺と話していた時のような人間味は全く無く、ただ覚えてきた『台詞』を無機質に読んでいる見たいだった」

「ようこそ、ここはファステ唯一の鑑定局支社だ、要件はそこの店主に伝えるがいい。」
「フン、うるせーよ。どけ」

 プレイヤー名『すーぱーたくや神』と表示されているプレイヤーが、話しかけてきたハックをつきとばす。ハックは全くの抵抗も見せずに壁にぶつかり、姿勢を低く落とす。タリエルは店のカウンター内に入り、突き飛ばされたハックの事を意識もせず未だ無表情のままだ。勇者はその二人の様子を見て戦慄する。声も掛けられなかった。

「やーっぱもう取られた後っぽいよここの店、それかまるっきりの嘘か。そもそも前作に登場した街にレアアイテムがあるって言ってたの隣のクラスのアキヨシ君だよね?でまかせだったんじゃないのー?」

「えーでも絶対あると踏んでたんだけどなー。裏技攻略王にも速報出てたし、それかガチ勢が取ったんでしょ。」

「2000G貯めて馬買ってココくるのすげー大変だったのにさ。きっくん塾あんの何時からだっけ?」

「18時過ぎたらアウト。それまで稼げるだけ稼ごう」

「とりあえず高く売れる物だけ取って次の街にいこ」

「あいよー」

 キャラの体格に全然似合わないVC(ボイスチャット)が聞こえる。なんだか凄く幼い声だ。3人のプレイヤー、「すーぱーたくや神」「きっくんPAPA」「最強☆えんま☆」はひたすら物を盗み続ける。まるでそれが悪い事だと自覚すらしてない様だ。

「よ、ストレージもう一杯だし、回復かって次行こ」

「あいあーい」「おっす」

 3人組は満足して帰って行った。店の扉が閉まると、ハックが立ち上がりぽんぽんと体に付いた砂を手で払った。タリエルがカウンターから出てくる。

「とりあえず勇者殿、その黒い端末はあまり人前に出さない方がいい。」

「あと、女の子に使うのも禁止ねー。心の深い美少女鑑定士だから許せたけど、次は命の保障しないかもねーあはは」

 二人はついさっきまであった事を丸ごと『無視』するかのように、3人組が入って来る前にしてた話の続きをし始めた。あまりのおぞましさに大きな声を出してしまう。

「なんだよ・・ 何だよ二人とも!!なんでそんな気味が悪い事言えるんだ!!」

「うわ、マルたんどったの!?」

「どうしたもこうしたもないだろ!!あいつら店のモン盗んでったんだぞ!どうすんだよ!!」

「あー、そのことねー。ジー」

「・・うむ、私から話そう。我々はNPC、だから必要以上に『プレイヤーに干渉』しないようにしているんだ。」

「なんだよ、なんでそんな事するんだよ。やられっぱなしで悔しくないのか?」

「我々の役はここでプレイヤーにヒントを与えるだけ。それ以外は特にない。だから『必要以上に干渉』しないのだ。」



「全然意味わかんねーよ!!」

 拳を横のカウンターに叩きつける。タリエルがびくっとする。

「ね、ねぇマルたん。どうしてそんなに怒ってるの?」

「そうだぞ勇者殿よ。そなたの気持ちは嬉しいが、そなたが怒る必要はないぞ?」

「俺は、アンタ達二人を見て、楽しい奴らだと思った。お互い仲が良くてケンカしながらもお互いの良いところを尊重しあって・・・。何というか、『人間味』があった!!」

 前作のわくJoy勢で仲良くなったプレイヤーなんて居なかった。大体の場合は個々にクエストをこなし、必要があれば募集し近くの暇なクランメンバーが集まりクエストを突破する。必要最低限の意思の疎通や挨拶ぐらいはしたが、しょっちゅう雑談するような仲になった人は居なかった。みんな他人に無関心だからだ。

「俺はアンタ等を見てうらやましいと思ったんだ!!純粋に!その関係性が!そいつらが好き勝手やられて俺は腹が立ったけど、一番怒ってるのは.自分が『NPC』だから『PC』に何やられてもそれは自分の役じゃないって言ったことだよ!嘘ついてんじゃねーよ!」

「ま、マルたん・・・」「勇者殿・・」

「金が何より大事で、値切りした瞬間逆上するような、仕事に『誇りプライド』持った立派な奴と、同じ境遇で自分よりも幼いそいつを守る為に本の下にかくまわせて、わざわざ自分が先に囮になって安全を確かめる様な『仲間想いフォローシップ』を持った奴・・・そんな奴らが自分達はNPCだからって生きるの諦められる分けねーだろ!アイデンティティを求めるために今日初めて会った奴を信頼して開発者の事話振ってんだろ!!ふざけんな!」

「・・・すまない、勇者殿。気づいておられたか。」

「ご、ごめんねマルたん!でもハックさんは私達を守るためにしたんだから許してあげてよ~」

「知るか!もういい。俺は行く。」

「ど、どこへ行くの」

 さっとミスリルのハーフプレートを装備し、武器を手に入れた中で一番まともなFランク武器の棍棒に切り替える。

「アンタ等はプレイヤーに関わるつもりはねーんだよな?だったらこの店の中で一生自分の存在価値を無視してな。おっと俺にも干渉するんじゃねーぞ?俺は俺の目の前で『タダで』物を盗んで、俺より『得』をした奴が許せないだけだ。ぶん殴って、今度は俺がそいつ等から巻き上げる。もし俺がそのアイテムを全部奪い取ったら、そん時は俺が所有者で構わんよな?」

「ちょ、ちょっとマルたん!!やめなよ!」

「騙して損させた事は謝るタリエル。あと変な魔法掛けた事もな。だがあいつ等がここから盗んで行った物は今度は俺が『奪う』。自身の尊厳を掛けてな!」

 そう言い放つと勇者は奴らが向かったであろう方向に駆けだしていった。辺りが西日に包まれつつあるファステの街に、勇者の粗い息遣いが遠く離れていく。

 店の外に出るもどうして良い物か分からないタリエルはオロオロとする。その後ろからハックが出てくる。彼の走り去る方向を見据える。

「やれやれ、彼は本当に何者なのだ?出会って1時間足らずで色々な事を学ばせてもらったよ。今日ほど自分の通り名<錬金術の師マスターアルケミスト>に『師』の文字が入っていることを恥じた事は無い。彼の名前に『勇者』の字が入っているのも、あながち間違いでは無いのかもしれんな。」

「ハックさんどうしよー!あの人たち結構レベル高かったのマルたん多分気づいてないよぅ!」

「気づいてたさ、何せ彼はプレイヤーだからね。相手の名前の隣にレベルが表示されてるのをとっくに確認してるさ。だが彼は行った。それは何故か。例えレベル差があっても譲れない物があったからだよ。さて、話は終わりだタリエル。準備をしなさい。」

「え!?どうするの?」

 ハックはニヤリと笑いを浮かべて杖を前に指し示す。勇者が走って行った先を。

「もちろん、「仲間を助ける」為に決まってるじゃないか。それともう一つ。私は錬金術士として『挑戦する』と言うことを恐れてしまった。だが今日の内であればまだ等価交換の法則により失った分を取り戻す事が出来る。私の最も大事な、錬金術士としての、『尊厳』をね。」


第8話 END



コメント

  • キョン

    なかなか面白い展開でした!

    1
コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品