NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第14話C そして勇者は仕事を見つける。みたい?


「なんだ!?あ!てめーらゴロツキ共!!」

「流石だぜぇ!!勇者のあんちゃん!俺達てっきりあんたが大将にブチ殺されると思ってたんだがなぁ!」

「いやっほぉぉ!!俺は信じてたぜ!生きて帰ってくるってヨォ〜!!賭けは俺達の勝ちだぁぁ!!」

 フロアの中はゴロツキ共で占領されていた。どうやら捕まえた後の勇者がミンギンジャンに殺されるかどうかで賭けをしていたらしい。みんなにもてはやされるも、沸々と湧いた怒りを抑える事は出来なかった。

「てんめぇら〜!!よくも俺を捕まえる時にボコボコにしてくれたなぁーー!!おい!俺に掛けた奴!全員俺に奢りやがれぇ!!」

 ゴロツキ供の輪の中に突入し、机の上に広げられている料理や酒を片っ端から口の中に突っ込んでいく。ミンギンジャンとの商談を終えた開放感からか、勇者はヤケクソになっていた。

「いいぜぇ〜!勇者のあんちゃん!俺達は威勢のいい奴が大好きだぁ!!みんなで騒ぐぞぉ!!」

 この前同様にドンチャン騒ぎが始まった。マリーナはやれやれと言った表情で厨房に戻ってお酒の準備を始める。





「また君達か!いい加減夜中に騒ぐのをやめたまえ!!」

「げぇ!?残念騎士だ!逃げろ!!」

 いつぞやの真面目そうな鎧男が、ゴロツキ供を蹴散らしていく。

「おいまててめぇら!俺はまだ食い足りねーぞ!オイ!!」

「君だね?この前領民を先導して暴動を引き起こした主犯格は。君の事はその時から危険視していたんだぞ。」

「あぁん?誰だよアンタ?」

「こ、これはこれは領主様!ご機嫌麗しゅうございます!」

 マリーナが奥から飛び出して来た。

「はぁ?りょーしゅ?」

「その通り、ここら一帯の土地を束ねるザゥンネ家の現領主、カルガモットだ。」

「カモぉ?あぁ!ザゥンネって皆んなが言ってた残念騎士か!」

「な!?貴様!我が伝統と誇りある家名をバカにするのは許さんぞ!!」

「領主様!ごめんなさい!勇者◯◯さんはこの街に来て間もない方ですのでご容赦ください!!」

「な、なんだと!?『勇者』!?この男が!?」

「はぁ。まぁ、一応この辺で勇者させてもらってまーす。どもー領主さまー。」

 カルガモットを名乗る騎士の顔がどんどんと赤くなる。なんか地雷踏んだか??

「許せん!領民を暴動に駆り立てといて我が一族の前で勇者を名乗るとは!不届き千万!そこへなおれ!!」

「やばい!ハックさんのとこに逃げて!!」

 マリーナに店の裏口方向に押し出されると、マリーナは領主のご機嫌取りに立ち塞がった。とりあえず勇者は訳も分からないが危機を感じ逃げる。


「なんだよ?訳がわからん!俺が何かしたのか??」

 追っ手が来ない事を確認しながら、ハックの家へと急ぐ。どうにかうまく巻けたようだ。

「おーい!ハックー!!俺だー!!」

「 …なんだ夜中に騒々しい。一体どうしたのだ?勇者殿??」

「早く開けてくれ!」

 扉が開くなり中に飛び込む。ハックはボコボコにされてヨレヨレな姿の勇者を見て行動を想像する。

「 …うーむ。随分と帰りが遅かったので、『昨夜はお楽しみ』状態なのかと思っていたが、まさか相手にしていない方に見つかり、嫉妬されて復讐にあったという所だろう。あまり女心を弄ぶのは感心しないぞ?勇者殿。」

「何冗談言ってるんだよハック!危うく捕まる所、いやもう捕まってきたんだがよくわからん奴を怒らせちまったみたいなんだ!匿ってくれ!」

「匿うも何も、当面の間はここを自分の住処にすると良い。まずは落ち着きたまえ」





 書斎に通されて、ハックにブドウ酒を一杯もらった。やっと落ち着ける。

「 …それで、ここに逃げ込んできたという訳か。勇者殿も中々話題に絶えない人だな。」

「冗談じゃねーよ全く。なんでこう…次から次へと厄介事が続くんだ?」

「それが勇者の定め、なのかも知れぬぞ?」

「別に俺だって好き好んでこんな名前名乗ってる訳じゃないよ。そもそも、ガラじゃねぇし。」

「そうか?私にはしっくり来ているように思えるぞ?」

 年もだいぶ離れているだろうが、ハックと話をしている時が1番落ち着く。なんというか、男の友情的な物を感じる。彼とは、たとえこの先ずーっと長く付き合いが続いても苦ではない。そう思えた。

「とりあえず、さっきも話した通りしばらくはマリーナの店で働くよ。午後からは色々と個人的に活動するかな?」

「それが良い。たとえ無限のサイフを持っていたとしても、それにかまけて何もしないというのは心が成長しないからな。」

「まぁやれるだけの事はしてみるさ。すでに1週間も帰れなかったんだ。この先いつ帰れるかなんてわからないしさ。」

「ふむ、わかった。それで、1つ頼みがあるのだが…」

「なんだハック?」

「非常に恥ずかしい話なのだが、ここの『工房』も、大魔道飯店よろしく経営が不安定なのだよ。生活費は私の魔道書でなんとか切り盛りしていたのだが、2人分の食費を捻出するのはとても苦しいのだ。すまぬが当面の間、資金援助して頂けないか?」

「あぁなんだ、そう言う事。いいよ俺もタダ飯ぐらいってのは気が引けるし。それにいくらでも出そうと思えば出せるからな。」

 そう言って勇者は所持金袋から金貨を1枚だして机の上に置く。ハックはそれを両手で受け取る。

「かたじけない、勇者殿。大切に使わせて頂く。実は、先程の魔石のかけらを取引しただけでも凄く助かったのだ。」

「ハックも色々苦労してんのな〜。俺の方は減るもんじゃないし、いつでも気兼ねなく言っておくれよ。」

「いつも助けていただいて本当にありがとう。勇者殿」

「え?それってコッチのセリフじゃない?俺でしょ助けてもらってばかりなの」

 2人は笑い合い、時に冗談を交えて酒を飲んだ。生きててこんなに心の許せる友が出来るとは思わなかった。ハックの存在が、今とても嬉しい。

「さーてボチボチ寝るとするか!明日からバイト生活?だしな。初日から遅刻したらミンギンジャンに借金倍にされるかもな。」

「いつまでも借財が原因で冒険に出られない勇者など、後世に残る恥さらしになるぞ。」

「へいへいわかりましたっと!…そーいやアイツ、なんで急に怒り出したんだろうな?」

「うぬ?どうかしたのか勇者殿?」

「いやぁアイツだよアイツ。なんだっけ?残念騎士とか呼ばれてた真面目の堅物。カモみたいな名前の奴だよ。」

「あぁ、カルガモット領主の事か。最近前領主であった父上殿が病で亡くなられ、領主になったばかりのお方だ。あの年齢で自ら進んで街の見回りをされるお方だぞ?」

「へぇ〜地域住民には好かれてんのね。なんか知らんが勇者の名前言った途端に怒り出してさ。それで逃げてきたんだよ。」

「カルガモット領主、が?」

「そう。なんか騒いでたってのより、勇者の名前を言った事の方に怒ってたみたいだった。」




「カルガモット氏… ザゥンネ家… 勇者…ハッ!?」

 突然書類の山から本を取り出し、バラバラとページをめくっていくハック。


「な、なんだ?何か心当たりがあるのか??」

「すっかり見落としていた!どうして今まで気づかなかったのだ?探していたのはまさにこれだ!」

 その本のあるページを開いて、ハックがニヤリと笑う。








「見つけたぞ、勇者殿。『現実』に帰る手がかりが。」






第14話 END

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