NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第20話C そして勇者はフィールドで詰む。みたい?




「「「へぇ?」」」




「ガアァァッッ!!!」

 ヤンドは手近にいたアンデットコボルドの顔面を掴むと、別の個体に投げつける。更に別の個体には蹴りを放ち、貫手を繰り出し、顔面を素手で握り潰しと墓地内を縦横無尽に飛び跳ね周り次々と動けなくなるぐらいに細切れにしていく。


「なんだあれ!?!?逃げろ!!」

「サイカ、こっち!!」

「ヤンド君頑張って〜!!」

「手を振ってる場合じゃねーだろ!!」


「グァァアアォォォオオォォオォ!!」

 墓地にいたアンデットコボルドはあっという間にヤンドに『バラバラ』に引き裂かれてしまった。


「ふぅぅー!ふぅぅー!!ううぅうぅぅ!!」


 肩で息をつくヤンド。とりあえずまともに動ける敵は居なくなった。

「や、やったか?でも、ヤンドは一体どうしちまったんだ!?敵に操られてるのか?」

「いや、多分あれ暴走状態だよ。ホラ。」

 アンジェラがメニューボードをヤンドに向けて操作し、仲間のステータスを表示する。ヤンドには確かにステータス異常をしめす暴走、混乱のアイコンが付いていた。

「おい!大丈夫かヤンド!?敵はもういないぞ!」


「ううぅぅううぅうぅぅ!!」

 ヤンドの暴走は収まる気配が無い。それには理由があった。アンデットコボルドは細切れになったものの、まだ消滅した訳では無い。神聖属性を与えて浄化しなければ倒した事にならなかったからだ。ヤンドはその気を感じて更に憎しみを増していた。


「グゥゥウアアァァ!!」

 不意にヤンドは動きを変えてこちらに迫ってくる。

「おい!!やめろ!!俺達がわからないのか!」

 倒れ込むように姿勢を低くしたかと思うと、猛烈な勢いで踏み込んでくる。その動きは余りに早く、勇者もアンジェラも反応出来ない。そしてヤンドはサイカに狙いを定める。

「危ッッ!!」「逃げ!!」

 2人の声も虚しく、その拳はサイカに届いてしまう。



 ぱしんっ



 一瞬何が起こったのか理解出来なかった。なんとも軽い音がしてヤンドは身体のバランスを崩し、遺跡の壁に飛んで行き勢いそのままに激突した。サイカは木のシャモジを逆手に持ちヤンドの腹に当て、それと同時に足払いをかけていたらしい。


「あらあらヤンド君、女の人に乱暴なんていけないわね。勢いでオオカミになっても女は許してくれないわよ。」



 最早声も出なかった。ヤンドにも、サイカにも。



 壁に激突したヤンドは気を失ったようだ。


「さ、勇者君、アンジェラちゃん。ヤンド君を連れて遺跡の中に入るわよ。」



「「は、はい」」


 サイカに言われるまま、2人はヤンドを担いでダンジョンの中に入った。









 ダンジョンは一度中に入ると外とは完全に隔離される。フィールドに存在する敵はダンジョンの中には入って来られない。戦闘中でも関係なく完全に戦闘は中断される。サイカはそれを狙っていたのだろう。ダンジョンに入った途端にヤンドの身体は元に戻って行った。



「う、ううん。ここは…ハッ!?」

「ダンジョンの中よ。大丈夫、ヤンド君??」


「もしかして…戦ってしまったのですか!?皆さんと??」

「いいえ、私達とは戦って無いわ。大丈夫だから。」

「な、なぁ。ヤンド。何がどうなったのか教えてくれないか?」

 ヤンドは立ち上がり、深々と頭を下げて叫ぶ。

「す、すみませんでした!!皆さんに迷惑をかけるつもりは全くありませんでした!」

「落ち着いて、ヤンド。…アレはスキルなの?」


「全て説明します。…自分の通り名は、<素手の凶戦士ベアセルク>なんです。」

「ベア、なんだって??」

「凄いな。初めて見たよ」

「うーん私も会った事ないかなぁ」

「これは、スキルでは無くて呪いなんです。」

 そう言うとヤンドは鎧の袖を取り外し、腕を見せてくれた。両方の手首から下、肘にかけての辺りには浅黒くなったシミというか、古い怪我の後のような物があった。


「自分は今までずーっと1人で冒険をしていました。前にも言った通り貧しい生活でまともな装備も整えられず、体術をメインに扱う職業なら装備品にお金がかからないと思ってモンクと拳闘士の職業を選びました。」

「そういえばそんな事言ってたな。それで?」

「ある山脈を越えなければならない事になったんですが、そこの辺りの敵が強すぎて前にも後にも進めなくなってしまったんです。その時、狂戦士の腕甲を見つけました。」

「あー、装備中はバーサーカー状態になるけど攻撃力がかなり上がるってアイテムだ。」

「はい、その時既に私はモンクと拳闘士のパッシブスキルを獲得していて、素手の場合のみ攻撃力が3倍になる恩恵を受けていました。」

「3倍!凄いわねぇ!!」

「その恩恵と狂戦士の力がとても相性が良く、しかも戦闘中は自我を失うので体感的には気付いたら戦闘が終わるという事もあり、その力に頼りっきりになってしまいました。山脈のルートを攻略する頃に異変が起きたんです。」

「異変??」

「<素手の凶戦士ベアセルク>の通り名を取った瞬間、狂戦士の腕甲が身体の中に入り込み、同化してしまいました。そのせいで常に自分は戦闘中、暴走と混乱状態になってしまいます。」


「なーるほど。それでバック対処専門なんて嘘をついて、離れて行動していたのか。もし暴走状態になっても仲間に迷惑をかけないように。」


「皆さんを騙すつもりなんてさらさらありませんでした!でも、こうでもしなければ誰もパーティを組んでくれなくて…それで勇者さんのパーティ編成が誰でも可という事だったので、最後の望みをかけて立候補したんです。」

 勇者はヤンドに近寄り、胸倉をつかみ寄せる。

「ユーシャ!」「勇者君!」

「…仲間を傷付けられそうになったんです。勇者さんには殴る資格があります。」

「…あぁ傷付いたね。せっかく仲間になった奴がこんなに悩んでて、それを打ち明けてくれなかった事にだがな。」

「えっ!?」

「次から下らねー嘘つかないで、正々堂々仲間に迷惑かけろよ。いいな?」

 勇者は掴んでいた手を離すと、今度は右手を開いてヤンドの前に差し出した。


「ありがとう。ありがとう、ございます…」


 ヤンドは勇者の手を握り閉めると泣き始めてしまった。泣いてるヤンドの背中を勇者が優しくさする。



「いや〜ん良いわねぇ〜!これが男の子同士の友情!感動しちゃったわぁ!」

「で、サイカさんは??」

「あら、私?」

「そうですよ。むしろヤンドの暴走化よりもある意味恐ろしかったんですけど!」

「ウフフ、何の事かしら?」

「サイカのアレは、多分上級体術。相手の勢いをそのまま攻撃力に繋げる技」

「ほら、オレの目は誤魔化せても、アンジェラの目は誤魔化せませんよ?」

 興味津々という眼差しでアンジェラはサイカに詰め寄る。



「女はヒミツがある方が美しく強くなれるの。わかった?アンジェラちゃん。」

「わかった!!」 



「何をわかったんだよ…」



第20話 END

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